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分娩監視セントラルシステムのガイドライン表示と臨床制度

母子ケア

分娩中の胎児および母体の管理に用いられる胎児心拍数陣痛図(cardiotocography:CTG)は、日本のほぼ100%の分娩で使われています。CTGはどのように誕生し普及してきたのでしょうか。そして、今後CTGの判読のコンピュータ化によって、どのような未来が待っているのでしょうか? 
本記事では、三重大学大学院医学系研究科 産科婦人科学教授である池田智明先生の講演をまとめました。

三重大学大学院医学系研究科
産科婦人科学 科長・教授
池田智明先生
講演:第9回愛知産婦人科臨床フォーラム 2019年9月 名古屋市
講演『分娩監視セントラルシステムのガイドライン表示と臨床制度』

CTGの歴史

分娩監視装置で測定したデータについては、胎児心拍数モニタリング、胎児心拍数陣痛図などいろいろな呼び方があります。日本産科婦人科学会の用語では胎児心拍数陣痛図、またはCTGと呼びます。


CTGの発明と進化

CTGは1958年にEdward Honによって発明されました。これはちょうど私が生まれた年で、私とCTGは同じ年齢です。Edward Honは分娩監視装置の第一人者ではあるのですが、実際には3人のクレジットであると言われています。1人はウルグアイの Roberto Caldeyro-Barcia、そして、もう1人がドイツの Konrad Hammacherです。それぞれが独自に、瞬時胎児心拍数を経時的に表す方法を開発していました。
1960年代には、分娩時胎児監視法として臨床使用が進みました。当時は、破膜をして胎児の頭のあたりに鰐口クリップのようなものを取り付け、音を電気信号にして使用するものでした。その後、日本の竹村晃先生がらせん型電極を埋め込む手法を日本に持ち込み、安定した記録が可能になりました。また、途中からドプラ法が開発されると、妊婦のお腹の外から聴診することで、それまで分娩中にしか使えなかったのが、分娩前の胎児の評価に使えるようになりました。  


臨床での普及:CSTとNST

分娩前の胎児評価法として、まず1969年に、Contraction stress test: CSTが開発されました。このテストは、妊婦にオキシトシンを点滴して子宮収縮を起こし、遅発一過性徐脈がその子宮収縮の半数以上に確認されたら陽性、という検査です。糖尿病の妊婦さんの赤ちゃんが亡くなってしまうケースがあったことから必要とされたテストで、アメリカで広がっていきました。
その後、1976年には、Rochardという研修医が、CSTが陰性であるすべての症例に、オキシトシン負荷をしない時間の20分間中2回以上の一過性頻脈があることを見出し、オキシトシン負荷なしのNonstress test: NSTを開発しました。NSTはその簡便性から瞬く間に臨床に広がっていきました。
分娩監視装置、そしてCSTとNSTは、1970年代の後半から1980年代の前半にかけて日本に輸入されました。当時はこれらの概念が正確に理解されないままに、わが国に輸入されましたが、その後、日本産科婦人科学会を中心に概念の理解と用語の統一が図られました。


CTGの有効性に対する疑問と用語統一

一方で、1970年代から1990年代には、胎児心拍数モニタリングにそもそも臨床的に有用であるのかという疑問を呈する研究が出てきました。モニタリングをしても新生児予後の改善がなく、帝王切開率や鉗子分娩、吸引分娩の実施率が上昇しただけだったという研究結果が出ていたのです。
なぜこんなにネガティブデータが出るのか。ひょっとしたらCTGの用語や定義がバラバラ であることに原因があるのではないか、という仮説から、用語を統一しようという動きが始まりました。
カルフォルニア大学サンフランシスコ校(CUSF)の私の師匠であるJulian Parer教授と、アメリカの産婦人科の父と呼ばれ、アメリカンジャーナルのチーフエディターを長く勤めておられたEdward Quilligan教授、この2 人が中心となり、専門家がみんなで集まって用語を決めようじゃないかということで、1995年5月に懇談会を設けました。アメリカの厚労省であるNIHの中のNICHDに、それぞれ違った教育背景を持つ18人の研究者が集まりました。
ところが、集まった18人がそれぞれ、自分の説、自分の用語が正しいと主張したものですから、その会議ではまったく結論が出ませんでした。それでもParer教授は粘り強く用語の統一を進め、1997年にNICHDリサーチガイドラインという形で、なんとか定義と用語をまとめました。


日本へのNICHDの定義や用語の輸入

そして、このNICHDの定義や用語を、わが国にあった形で定めようということで、2002年に宮崎大学において、宮崎大学の池ノ上教授、Parer教授、それから東北大学の岡村教授、福島医科大の佐藤章教授などが集まって、CTGの用語および定義検討会を開催しました。 そこで、4種類の一過性徐脈(早発一過性徐脈、遅発一過性徐脈、変動一過性徐脈、遷延一過性徐脈)や、それらをどのように判断するかなどについて議論しました。こうして、やっと統一した波形の読み方がまとまったのが2003年です。

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日本産科婦人科学会の5段階レベルの誕生と検証

現在、胎児心拍数波形レベルは1から5の5段階に分けられています。これが、なぜ5段階に分けられるようになったかの経緯をお話ししたいと思います。当時、Parer教授と私は年に2、3回会って、いろいろとお話しして勉強させてもらっていました。そこで彼が言うには、胎児心拍モニタリングの用語は決まったが、それらをどう医療的にマネジメントしていくかが決まっていない。それに生涯をかけて取り組みたい、ということでした。


初期の胎児心拍数波形レベルは143パターン

Parer教授は、基線細変動と基線、一過性徐脈を詳しく分類して143パターンに分けました。143パターンそれぞれに対する対応を、すべて彼自身が考えました。そして、それを冊子にして、UCSFの看護師から助産師、ドクターに至るまで、全員にメールで配布しましたが定着しませんでした。皆143パターンも覚えられなかったからだと思います。


米空港のテロ警戒レベルから発想を得た5段階分け

2002年にParer教授に登山に誘われて、サンフランシスコの彼の自宅に行ったときのことです。その当時、日本からサンフランシスコへの飛行機は、ほとんどの客席が空いていてガラガラでした。ファーストクラスに乗らなくても、エコノミーで座席を倒してそのまま寝られる状態でした。2001年のニューヨークテロ、9.11事件が影響して、みんな飛行機に乗ることを避けていたからです。
サンフランシスコの空港に着くと「現在のテロ警戒レベルはオレンジです」という掲示がありました。その当時のアメリカではテロ警戒レベルがグリーン、ブルー、イエロー、オレンジ、レッドの5段階に分かれていて、オレンジは2番目に危険な状態です。「現在のサンフランシスコはテロ警戒レベルがオレンジだから、気を付けなさい」ということだったのです。それを聞いて「これだ!」と思いました。143パターンもある胎児心拍数波形レベルを5段階に分けて色を付けたら、皆に分かりやすくなるではないか、と。
そしてParer教授と私は、CTGパターンを5段階(グリーン、ブルー、イエロー、オレンジ、レッド)に分類し、それぞれの段階に対して、臨床的対応のサンプルを提唱しました。

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この分類は、「Fetal Heart Rate Action Plan Is Born(胎児心拍数の実行プランの誕生)」というタイトルで、アメリカの産婦人科向けのニュースメディアでも紹介されました。
それから、この5段階レベルの概念を日本産科婦人科学会に持ってまいりました。胎児基線細変動、基線、一過性徐脈の組み合わせから、胎児の低酸素血症などのリスクの程度を推量するために5つのレベルに分類しました。レベル1が正常波形、レベル2が亜正常波形、レベル3が異常波形軽度、4が異常波形中等度、5が異常波形高度ということで、レベル3、4、5が胎児機能不全としました。

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5段階レベルの検証

それから、日本産科婦人科学会でも5段階レベル法を行った場合の再現性、妥当性、有用性の3つについて検証をすべきという意見があり、2010年から実際に検証を始めました。
妥当性は約800例の分娩で検証し、分娩前の10分、20分、30分、40分、50分、60分の10分毎のレベルで見ると、それぞれの部分でCTGレベルと分娩時臍帯動脈血pHと良い相関があり、妥当性があるだろうという結論になりました。有用性については3,597例の分娩で検証し、5段階分類による対応方式を1年間かけて導入しました。結果から言うと、導入前に比べて導入後には胎児アシドーシスが1/7に減り、そのときに吸引分娩や帝王切開は増えませんでした。少人数を対象とした小規模データですけど、ある程度の有用性があるだろうと考えられました。
ところが、再現性については課題が残りました。188のCTGを周産期委員会の7人の医師が判読をしたところ、レベル4に関する判読が一致したのが20%に止まりました。レベルを2つまたぐのも一致したと考えても、一致率は68%と、高いとは言えません。
モニタリングの読み方というのは、同じ人が読んでも、時間を置けば一致しないということがしばしば起こり得ます。ご経験がある方もいらっしゃると思いますが、私も当直前と当直後や、疲れているときとそうでないときで読み方が違ってしまいます。特に基線細変動の再現性が悪いようです。基線細変動は一つ間違えれば、レベルが一つ上がったり下がったりします。そこで今後、この再現性を上げるには、判読のコンピュータ化ではないかと思います。


CTGのコンピュータ化の現在と未来

CTGを機械に読ませる取り組みは、20年くらい前からオランダ、ポルトガル、アメリカ、カナダ、それからイギリスと、世界の国々で行われています。
日本では、2008年からGEヘルスケア社とTrium社が取り組みました。Michael Scholzというドイツのエンジニアの方が、日産婦5段階レベルを忠実にアルゴリズムを書いてくれましてコンピュータ化しました。最初は、基線細変動が不正確でとても使い物になりませんでしたが、今市販されているバージョン5では、アルゴリズムの変更によって基線細変動の読みが改善されています。

コンピュータと人間の判読の一致度

コンピュータ解析と人間の解析の一致度について調べた研究について紹介します。 この研究では、GEヘルスケア社のTrium ver.2.0を使用し、産科合併症を有さない経膣分娩20例を対象として、分娩1時間前からの胎児心拍数モニタリングを10分1区画として、合計120区画のそれぞれを5段階評価しました。それを産婦人科医3人とTriumそれぞれが解析し、5段階評価レベル、基線細変動、心拍数基線、一過性徐脈の一致率を評価しました。


5段階レベル分類一致度は良好

結果として、5段階レベル分類の一致率は85%と良好でした。また、基線心拍数、基線細変動に関しては、ほぼ完璧に一致しました。レベル分類では見落としが少なく、レベル4、5の重篤なケースではほぼ100%一致しており、アラート機能も良好だと思われます。一方、変動一過性徐脈と遅発一過性徐脈に関しては、一致率は約75%で悪くはありませんが、基線心拍数、基線細変動の一致率には劣りました。軽度遅発一過性徐脈の一致率がほかの一過性徐脈に比べてやや低いことと、高度遷延一過性徐脈の見落としが時々見られました。さらなるアルゴリズムの改善が必要ですが、診療の補助として充分使えると考えております。


コンピュータ化によるCTG判読の再現性の向上

再現性に乏しいCTGの特性は、コンピュータ化によって改善できるだろうと思っています。例えば、私はプロ野球が好きですが、プロ野球ではAIによる機械学習で、このバッターは1塁のときにどういう打撃をする、というようなパターンが予測できます。こんなふうに、様々な変数を機械に入力して学習させることで、分娩の経過のパターンが予測できるようになるかもしれません。すごく楽しみです。
今は100%近くの分娩にCTGが使われています。分娩時のモニタリングは、異常分娩を防ぐという現場の考えから、そして訴訟に対応するという必要性から、今後もなくなることはないでしょう。しかし、モニタリングで取得したデータや情報の活用が、まだ不十分ではないでしょうか。他の医療分野では、コンピュータ化が進んでいますので、CTGなどはまだまだAIで機械化する余地があると思っています。


データを活用するのはあくまでも人間 

コンピュータ化でできるのは、あくまで波形の判読の再現性をよくするということです。それを活用するのは、やはり助産師や医師です。つまり、コンピュータ化によってCTGの判読の再現性が向上したとしても、それはデシジョン・メーキング・ツール(意思決定装置)ではなく、あくまでもデシジョン・メーキング・アシスト・ツール(意思決定の補助装置)です。この点を間違えないでいただきたいです。
囲碁や将棋の世界でも、コンピュータが人間に勝つ時代です。医療サイドでもAIの力を利用して、コンピュータ化できるところをやっていくべきでしょう。5段階レベルを日本に持ち込んで10年経ち、このカラーコーディングは定着したと私は思っています。 データをどう活用するか、これは私達人間の使命だと思います。



※お客様の使用経験に基づく記載です。

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