ICU医療・看護の歴史を振り返る

政府は団塊の世代が75歳以上となる2025年をめどに、高齢者が重度な要介護状態となっても、住み慣れた地域で自分らしく生涯を暮らしていけるように、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築を打ち出しました。

そうした動きのなか、ICU医療・看護においても、患者の救命のみならずそれぞれの病気において後の生活を視野にいれたあり方への転換が求められるようになりました。

ここではICU医療・看護の進展の背景と課題、今後求められるICU医療・介護のあり方を考えてみましょう。

集中治療とは

日本集中治療医学会編「集中治療医学」によると、集中治療医学とは、内科系、外科系を問わず、呼吸、循環、代謝などの急性機能不全に対し、総合的・集中的に治療・看護を行い、回復させることを主題としたものであり、疾患別、臓器別に関係なく、横断的に全身管理を行う「侵襲管理学」「重症患者管理学」として定義されるもの、とされています。

この定義に基づいて、集中治療を改めて確認すると次のようにいえます。

人が生きていくためには、「呼吸」「循環」「腎機能」「血液」「消化器」「神経」の機能が健全に働いている必要があります。しかし、病気、外傷などによりこれらの機能が破綻することがあります。そして生命の危機的状態(クリティカル期)である重篤な状態になることがあります。そうした状態に陥った患者に対して24時間365日、集中的に行う医療・看護が集中治療とされています。

ICUやCCU(集中治療室)

ICUやCCUは集中治療室と呼ばれるところで、救急外来から入室する場合、手術室から入室する場合、一般病棟から入室する場合が考えられます。

ICUの歴史

集中治療・看護からICUの歴史的に遡れば、手術後の患者に対して行う治療と看護について回復室という概念が後のICUにつながっていると考えられます。ICUの直接的発祥の動機としては、1949年にデンマークで起こった急性バルビター中毒の治療体制が挙げられます。急性バルビター中毒の治療をする際、院内の一箇所に集中して治療を行える部屋を設置し、医師や看護師などの有効活用と医療経済の効率化を図ったことにより患者の死亡率を激減させたことをうけ、その治療体制が有効であるとして、ICU(集中治療室)として欧米に普及し発展したといわれています。

CCUは1962年にカンサス・シティー・ホスピタル、トロント・ジェネラル・ホスピタルで急性心筋梗塞の死亡率を減少させるために設けられたのが最初とされ、CCUは主に不整脈の管理に重点が置かれ、効果を発揮したといわれています。

日本においてはICUが最初に設置されたのは、20世紀半ばのことです。1964年に順天堂大学附属病院に術後回復室としてICUが開設され、1965〜68年にかけて、東北大学病院に集中治療部の開設、術後管理のいわゆるICUが設置されました。さらに、1967年に東京女子医科大学日本心臓血圧研究所に本格的なCCUが設立されています。

日本で救急医療対策が機能しはじめたのは、1963年とされています。戦後の経済復興に伴って、経済活動が活発になり、同時に、労働災害や交通事故が増加した結果、消防法の一部が改正されました。そして救急隊員による医療機関への傷病者の搬送が義務づけられたことによります。また、1964年には現在の厚生労働省が救急患者を受け入れる救急病院を定める省令をだしたことで、全国的な救急診療体制が整備されていきました。1967年には大阪大学に特殊救急部隊が誕生して、救命救急センターと救急ICUの骨格が作られました。

このように日本において集中治療、救急診療体制が急速に広がっていきました。しかし、クリティカル状況にある患者の日常生活に関する研究や、ソーシャルサポートといった観点や研究は医療の現場に盛り込まれておらず、必ずしも患者本位のケア指針が提示される環境であるとはいえない状態でした。

医療・看護の観点という意味で、画期的な転換期となったのが、1981年にポルトガルのリスボンで開催された世界医師会第34回総会での「患者の権利に関する世界医師会リスボン宣言」が採択されたことです。この宣言には患者の主要な権利が列挙されています。良質な医療を受ける権利、医師や病院などを選択する自由、自己決定権、情報に関する権利、秘密保持に関する権利、健康教育を受ける権利、尊厳性への権利などが明記されました。

日本はこの宣言の採択に際し、先進国で唯一棄権した国でした。

1984年に日本で弁護士を中心とした患者の権利法をつくる会が発足し、「患者の権利宣言」が推進されましたが、まだこの段階では医師からの強い抵抗がありました。その後、患者の立場に立つ医療の視点が重視され、大勢を占めるようになり、患者のQOLを重視する取組が本格的になるのには、時間を要しました。

一方、医療技術の急速な発展、少子高齢化した社会構造の変化、患者のQOLに対する意識の変化が医療体制にも大きく影響する現在、集中治療においてもより専門性が活かせる体制づくりが求められるようになっています。

ICU医療・看護の課題は専門家によるチーム医療体制の構築

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ICU医療・看護は医師、看護師をはじめさまざまな職種がその専門性を発揮し、チームで医療にあたることが強く望まれています。

救急・集中治療専門医、看護師、病棟クラーク、リハビリテーション科専門医、理学療法・作業療法・言語聴覚療法に関わるそれぞれのセラピスト、臨床工学技士、臨床検査技師、薬剤師、栄養管理士、メディカルソーシャルワーカーなどがチーム医療に加わる体制をとっている病院もあります。

急変した患者の治療成績の向上とQOLの維持は専門医、専門および認定看護師をはじめとした専門知識を持ったチーム医療体制の存在が大きく関わってきます。さらに多職種によるチームが有機的に運営されることが重要で、患者に関する情報共有を徹底し、互いの専門性を尊重したチームを構築、維持することが必要と考えられています。

一方で、日本において外科、内科、小児科、整形外科など専門科を持つ医師・看護師は増えていますが、他の科に比べ、歴史的にも浅く、日本集中治療医学会によると2016年の時点で1,436名の専門医を育成していますが、まだ十分な数ではありません。

現状の課題の大きな部分は、集中治療医・看護師を増やし、それぞれの専門知識を持って、チーム医療が高度に充実することと考えられます。

今後、病院に求められるICU医療・看護とは

33000005960.jpgICU医療・看護は患者の生命を救うために集中的に提供される医療・看護であり、より専門的な知識や技術が求められる分野です。

一方で、患者が回復し、社会復帰を目指す第一歩となるべき場所でもあると考えられています。治療することだけが目的ではなく、いかに患者が回復し、復帰するかを目指せる場所という視点が求められています。

専門的で高度な医療・看護体制を整えると同時に、患者視点の医療・看護の提供が今後のICU医療・看護に求められる方向性でしょう。 

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