2022.12.07
- 介護のデジタル化
今回は、「眠りSCAN」を活用した見守り支援システムを導入した岐阜県揖斐郡大野町にある地域密着型特別養護老人ホーム「セント・ケアおおの」の施設長である木村裕亮さんにお話を伺いました。
入居者様のQOLはもちろん、施設職員の意識や運営体制までも変わったという見守りシステム導入のメリットについてご紹介します。
【地域密着型特別養護老人ホーム セント・ケアおおの】
岐阜県の揖斐郡大野町、揖斐川町、池田町を中心に事業を展開する浩仁会が運営。地域密着型特別養護老人ホーム、ショートステイホーム、グループホームを持つ複合施設。利用定員は地域密着型特別養護老人ホーム29名、ショートステイホーム10名、グループホーム18名。6ユニットを有する。職員約52名。岐阜県による介護事業者医認定制度ではグレード1を取得。
「眠りSCAN」を活用した見守り支援システムとは?
眠りSCANをマットレスや敷布団の下に敷いて、体動(寝返り、呼吸、心拍など)を検出、入居者様の睡眠・覚醒・起きあがりなどを端末にリアルタイムで表示するシステムです。離床や起き上がりの動きがあれば、スタッフルームのパソコン、あるいは施設職員のタブレットや携帯に通知するように設定することもでき、また、離れた場所でも使用者の状況をリアルタイムに確認することが可能。
日々のデータは睡眠日誌や呼吸日誌として保管され、長期的な変動もチェックすることができる。
「眠りSCAN eye」とは?
「眠りSCAN」と連動するカメラシステム。入居者様の状況を映像で確認・記録できるカメラ。
利用者と職員、双方にメリットを見出したい
――「セント・ケアおおの」は、どのような施設なのでしょうか。
木村:2003年に運営している法人・浩仁会が設立されました。翌2004年、揖斐川町に本体施設である特別養護老人ホームまほろばを設立。以後、大野町、池田町でも事業展開を続け、2012年にセント・ケアおおのが設立されました。当施設は地域密着型特別養護老人ホーム(平均介護度4.1)、ショートステイホーム(平均介護度2.4)、グループホーム(平均介護度2.6)のサテライト型の全個室ユニット型施設です。
理念として「一人ひとりが人生の主人公」を掲げ、利用者様お一人お一人を大切にすることを心がけている施設です。
――導入の背景について教えて下さい。
木村:かつて、当施設では入居者様の認知症状の悪化に伴い、ベッド周囲で年間数件の転倒・転落事故が発生するという状況がありました。職員の負担も大きく、腰痛やストレスで休職や退職する職員が続き、必然的に残った職員の負担はますます大きくなるという悪循環が続いていました。
そのときに本体施設(特別養護老人ホームまほろば)の総括施設長から、見守り機器を使用して職場環境を改善してはというアドバイスをいただきました。これが、「眠りSCAN」導入のきっかけとなりました。
導入前に「眠りSCAN」について調べると、パラマウントベッドが手掛けており、2009年から発売している製品で、アフターフォローもしっかりしていただけると分かりました。商品の取り扱いや設置の簡便さも決め手の1つです。
――導入の目的について教えて下さい。
私たちが「眠りSCAN」を活用した見守り支援システムを導入する目的は3つありました。
入居者様の転倒・転落事故件数を減らす。
夜勤の見守りの精神的負担を軽減。
職員の残業時間を減らし、負担軽減を図る。
導入当時、当施設は夜勤職員が少なく早番日勤の職員が多い状況でした。そのため、日勤が残業することも多かったのです。
そのため、ただ機器を導入するだけではなく、体制や職員の意識も同時に変えていかなければならないと思い、体制づくりにも着手していきました。
委員会や会議の設置で「施設としてどうするか」を考える
――施設側の体制はどのように変えていったのでしょうか。
木村:まず、日課や勤務シフトを見直しました。同時に人員の強化も行っています。たとえば介護職員として以前働いていた方を再雇用したり、清掃職員に指導・育成を行い、介護助手になってもらうといった試みを行ったのです。これにより、とくに忙しかった朝食時のバタつきを減らし、余裕を持って介助できる環境を作りました。
こうして人員を厚くしていく一方で、「見守り支援システム」について下の図の、4つの会議・委員会を設置し、それぞれ責任者と担当者を明確にしました。
この4つの組織では、全体の役職が集まる幹部会議で検討を行い、その内容を事故防止委員会へ伝達、ここで利用者それぞれのインシデントや事故の発生、「見守り支援システム」の使用状況について確認・検討を行い、現状に課題があれば再び幹部会議で検討をします。
あるいは逆にユニット会議で検討を行い、事故防止委員会に伝達し、事故防止委員会で検討することもあります。また内容が利用者のサービスについてであれば、サービス担当者会議で検討をするというようにして機能させていきました。
大切なのは管理者やユニットだけが検討するのではなく、施設全体で見守り機器の活用について検討できる環境を作ることでした。「見守り支援システム」の対象者の選定や検討、ヒヤリハットやインシデントの継続性、新たな対象者が出た場合の優先順位の検討などについて、施設全体で取り組むよう考え実施してきました。
留意したのは、「見守り支援システム」を正しく理解して使用するということです。使うことが入居者様の身体拘束や不適切ケア、行動制限につながってはいけないですし、職員側で「面倒な機器だ」と思って使わなくなり、倉庫に片付けてしまうことがないように気をつけました。
そこで、使用を検討するとき、「いつ、どこで、誰が、何をするか」を決めて手順を統一化していきました。
- 「いつ」……新規入所時、ヒヤリハット・インシデント発生時。
- 「どこで」……ユニット・フロア、施設内のどこか。
- 「誰が」……必ず2人以上の担当者で判断する。
- 「何を」……どんな課題をどう解決していくか。
そして、
- 「見守り機器の適切な導入確認表」で確認
- 「眠りSCAN」を設置
- 各役職・施設長に回覧・保管
と、手順を明確にしていきました。一人の職員が自己判断せず、複数の職員で検討して「眠りSCAN」を設置する環境づくりに尽力したのです。
事後には施設内で「見守り機器の適切な導入確認表」を回覧し、情報共有を深めていくようにしました。
職員の誰が対応しても同じケアができる仕組みづくり
――「見守り機器の適切な導入確認表」とはどんなものですか?
木村:「見守り支援システム」の導入経緯や確認事項がチェックリスト化されたものです。介護の現場は、支援の中で「『見守り支援システム』を使用して利用者にどんなケアをしたいのか、どうなってもらいたいか」という目的を常に確認し、意識し誰が担当してもケアの漏れがないようにするためのチェックリストです。
また、転倒、転落などのヒヤリハットやインシデントがあった際に、迅速に改善策を考える仕組みづくりにも取り組みました。
以前は転落、転倒があっても、リーダー職員がいない、対策がまとまらずに、対策を検討することが遅れ、再びインシデントや事故が再発することがありました。職員の介護経験や資格の有無等、その日に出勤している職員の組み合わせもさまざまであるために、きちんとした対策がすぐに実行できないことがありました。
そこで、転落予防チェックリストを作成しました。経験が少ない若手職員は、ベテランが持つ“カンピューター”は持っていません。状態変化に対する対応策を可視化することで経験差を埋めようと思ったのです。改善策が標準化できるようにしました。職員個々の特性に合わせて、事故予防や再発防止につながるさまざまな工夫をしています。
インシデントや事故が発生後の判断が苦手な職員にはフローチャート、記録を書くのが苦手な職員には改善策項目の分類化を、改善策を考えるのが苦手な職員にはチェックリスト……という具合です。
――現在、セント・ケアおおのでの「眠りSCAN」の利用状況はいかがですか?
木村:2022年4月現在で、保有台数は27台です。「眠りSCAN eye」は16台です。これらは全事業所で共有して使用しています。「眠りSCAN」と「眠りSCAN eye」を合わせて、全事業所57床のうち47%の方が使用しています。
「見守り支援システム」導入と同時に、1階フロアのWi-Fi環境を整備。2021年2月には全フロアのWi-Fi環境を整備しました。パソコンや端末機器は、メインPC1台のほか各階にサブPC2台、スマートフォン各階1台、タブレットは各ユニットと看護部に各1台で計7台整備されています。
施設体制整備と「見守り支援システム」導入で転倒・転落事故やインシデントが激減
――「見守り支援システム」導入後に状況は変わりましたか?
木村:結果として、事故もインシデントも減っています。
ベッド周辺での事故件数は2019年度は3件、2020年度は2件、2021年度は0件となりました。これは施設開設以来初のことです。インシデントについても、2019年度は129件だったのですが、2020年度は89件、2021年度は75件と、年々減少しています。
職員の残業時間についても、「見守り支援システム」導入と同時にシフトや介護オペレーションの見直し、介護助手などの配置を行うことで年ごとに減少しています。2019年から2020年は、年間約200時間残業時間が削減され、さらに今年(2022年)の1月からはさらに減少して前年を下回るようになりました。
また、職員にアンケート調査を行いました。「取り組みの中で、何が職場環境改善につながったか」という質問に対し「『見守り支援システム』による巡視回数削減による身体的及び心理的負担の軽減」という回答が26%(8名)得られました。
ちなみに、職員の負担軽減については、「見守り支援システム」導入以外にもさまざまな取り組みを行っています。先にお話した人員を厚くすることと同時に、夕食の時間を少し早めて、利用者それぞれのペースに合わせた食事介助ができるようにしました。時間を早めることで職員が安全に余裕を持って食事介助ができる環境を作りました。その後の口腔ケアやトイレ誘導、おむつ交換、就寝介助などの業務も、遅番職員と夜勤職員と協力して行うことで、負担の軽減につながったのです。
同時に、高吸収機能のオムツの導入も行いました。終日オムツ交換を行っている方を対象に、褥瘡やスキントラブルを予防しながら、交換回数を減らしていきました。結果、遅番は18時までの職員が2名、20時までの職員が2名という体制になりました。
「見守り支援システム」を導入をきっかけに、複合的に介護内容を見直したおかげで、こうした結果を出すことができました。
「見守り支援システム」のデータを看取り期のケアにも活用
――その他にもなにか変化がありましたか?
木村:職員の意識には大きな変化があったと感じます。主観的な申し送りに加えて、心拍や呼吸、睡眠状態といった「見守り支援システム」のデータを共有しながら話し合うようになり、その結果を日中の支援に活かすようになりました。ケアマネジャーや看護職員とデータを基に、カンファレンスを行うことで、多職種の連携が深まったように感じます。
また、「見守り支援システム」からの通知を活用して、そのつど本人にあったケアを行えるようになりました。精神科受診する際に睡眠レポートを渡すことで、向精神薬や睡眠導入剤など内服薬コントロールに役立てています。
くわえてご家族への説明も言葉だけではなく、睡眠レポートを見てもらう、印刷してお渡しすることでリスクの共有がスムーズになり、また説得力が高まったと感じています。
さらに、看取り期でお亡くなりになった方のデータを職員間で共有しています。状態変化時には心拍や呼吸が変化することもあるので、特に介護経験が短い職員の心の負担の軽減や、ベテラン職員との経験差を埋めることに活用できていると思います。
――今後の課題についてはいかがでしょうか。
木村:「眠りSCAN」の使用台数は増えています。そのため「見守り支援システム」から、さまざまな通知が届きます。これが職員の負担となっている面もあると思います。また、通知が鳴りすぎるとどうしても「いつものことだろう」という慢心が働くことも否めません。
誰の、どの通知を優先するのかなど、ルールやマニュアル作りが必要だと思います。
将来的には、「眠りSCAN」を全床に設置し、インカムシステムを活用することで、さらに生産性のある介護業務オペレーションを築いていきたいと思っています。
また、今年、介護ソフトを導入したので、「見守り支援システム」と連動することで介護記録の制作時間削減を目指したいと思っています。
「見守り支援システム」や介護ロボットなど、介護支援ツールは未来の介護に不可欠だと思います。しかし、これらのツールが、介護のすべてを担ってくれるわけではありません。私たち人間も進化を遂げて、未来の介護を作っていかなければならないと思います。
社会福祉法人浩仁会 地域密着型介護老人福祉施設セント・ケアおおの 施設長。
木村 裕亮(きむらゆうすけ)
介護福祉士、介護支援専門員(ケアマネジャー)。