「睡眠を可視化することの重要性」――「眠りSCAN」を活用した見守り支援システムから見えてくること

2019.11.07

  • 介護のデジタル化
#製品活用事例 #オピニオンリーダーインタビュー
東北大学大学院医学系研究科の尾崎章子先生

たとえ心身ともに健康であったとしても、睡眠に関する悩みを抱える高齢者は少なくありません。また、多くの高齢者の生活を支える介護施設では、その睡眠をどのようにサポートすればよいのか、介護者が頭を悩ませることもあります。こうした現場の課題に対して、パラマウントベッドの「眠りSCAN」はどのように貢献できるのでしょうか。看護の視点から睡眠に関する研究を続けてきた東北大学大学院医学系研究科の尾崎章子先生に伺いました。

東北大学大学院医学系研究科 老年・在宅看護学分野 教授

尾崎 章子 先生

「昼間の活動」にも着目して睡眠状態を改善

――尾崎先生は、看護の視点から高齢者の睡眠に関する研究を進められてきたと伺いました。まずは高齢者の睡眠の特徴について教えていただけますか。 

年齢を重ねるにつれて、睡眠にまつわる課題を抱える人は増加する傾向にあります。個人差はありますが、早い人では30歳ごろから加齢による変化を徐々に自覚し始めます。例えば、「学生時代は昼まで寝ていられたのに、いつしか休日でも自然に朝目が覚めるようになった」という人は珍しくありません。

実際、高齢者の睡眠を若い人と比較してみると、中途覚醒回数が多く、覚醒時間が長く、睡眠時間が短く、さらに深い眠りが減少しています。「夜中に何度も目が覚める」「トイレに起きた後、なかなか寝付けなくなる」「ぐっすりと眠れた実感が得られない」といった自覚症状を覚えることになります。 

一方、床の中で過ごす時間(就床時刻から起床時刻までの間の時間)は、高齢者は成人よりも長くなりがちです。ことの背景には、生活パターンの問題もあります。例えば、仕事を退職するなどして時間的な余裕ができると、それまでより早い時刻に床に就く人が多くなります。しかし、長い時間布団に入っているにもかかわらず、加齢に伴って実際に眠れている時間は減っているため、睡眠効率は悪化しているといえます。このように「床にしがみついている」状態が長くなると、眠れないことに対して焦る気持ちが高まりがちです。

だからこそ、高齢者の生活を見守る家族や介護者が睡眠に関する正しい知識を得て、適切にサポートする必要があります。例えば、「サーカディアンリズム(概日リズム)を整えるため、朝起きたら日光を浴びる」という指導はよく知られており、確かに若年層には適しています。しかし、高齢者が同じことをすれば、さらにサーカディアンリズムが早まって朝型傾向を促進してしまういため、避けたほうがよいこともあります。

――高齢者の睡眠を改善しようとするとき、どのような状態を理想と考え、支援のゴールに据えればよいでしょうか。

睡眠について考えるとき、「〇時間は眠らなくてはならない」というような数字にとらわれがちです。しかし、本当に大切なのは「本人がどう感じている」かに着目すること。その人らしい生活が実現できているのであれば、必ずしも決まった睡眠時間や就寝時刻を押し付ける必要はありません。それに、人間の心理としては「より良く眠るために決められたことを守らなければ」と思えば思うほど、スムーズに眠れなくなるものですから。

そもそも睡眠は、日中に活動的な生活を送るために不可欠な生理現状です。昼と夜の活動は表裏一体で、「眠れないから日中に活動できない」ということもあれば、「日中の過ごし方に問題があるから眠れない」ということもあります。したがって、睡眠の問題を考える上では夜間のことだけに注目するのではなく、日中にその人がいきいきと生活できているか、活動量は十分かといったことも検討する必要があります。 

もちろん、何をもって「いきいきとした生活」ができていると考えるかは人によって異なりますが、「孫の世話ができる」「趣味のガーデニングが継続できる」といったその人なりの目標を立て、それが達成できているかを確認すればよいのです。睡眠に関しては、すべての人に共通する明確なゴールがあるというよりも、「その人がどうしたいか」を踏まえた改善策を考えることが重要なのです。 

尾崎 章子 先生

良い睡眠を実現するための理想的な介護の見守りとは

――介護施設の介護者が、入居している高齢者の眠りを支えるためにはどうすればよいでしょうか。

介護施設では、複数の利用者を同時に見守る必要があるため、一般家庭とは違った難しさがあります。そこで、ぜひ活用してほしいのが「眠りSCAN」のようなセンサーを利用した見守り支援システムです。睡眠状態の評価に関しては、本人の主観的な認識と客観的なモニタリング結果との間で差が生じるケースが少なくありません。しかし、「眠りSCAN」を活用すれば、体動や呼吸、心拍などの測定データから主観的な訴えの裏付けを得ることができます。認知症などでうまく自分の意思を伝えられない人もいますから、介護者側がこのようなデータを積極的に収集することはとても重要です。

また、介護者は夜間も数時間置きにベッドサイドを巡回すると思いますが、それだけで利用者の睡眠状態を正確に把握することは難しいでしょう。たとえ巡回時には熟眠しているように見えても、次の巡回までの間に何度も目を覚ましているかもしれません。また、少し様子をうかがっただけでは、本当に眠っているかどうか判断できないこともあります。したがって、客観的なデータを継続的に蓄積し、より良いケアのために活用することが大切だと思います。

「眠りSCAN」では、パソコン画面に利用者の睡眠状態(覚醒、睡眠、起き上がり、離床)が示されるため、それをチェックしてタイムリーなサービス提供ができるというメリットもあります。例えば、利用者が覚醒しているタイミングを見計らっておむつ交換を行うことで、貴重な睡眠を妨げることがなくなります。また、覚醒していない状態でのトイレ誘導が転倒事故につながることもありますから、利用者の安全確保という側面からもメリットは大きいはずです。

――「眠りSCAN」を導入した施設から「個別的なケアが実現できるようになった」といった声がたくさん寄せられています。

今後、「眠りSCAN」のような見守り支援システムがもっと普及していけば、施設における睡眠のあり方そのものが多様化していくかもしれませんね。現状では、利用者は決まった時刻に就寝・起床しなければならないケースがほとんどでしょうが、本当にそれが理想的な状態とは言い切れないと思います。 

先にも言ったように、人それぞれに身体が欲する睡眠時間や就寝時刻があり、長い年月を通して身体になじんだ生活パターンというものもあるでしょう。人生の最終コーナーを曲がった高齢者に、自分らしく残された人生を楽しんでいただくという観点でも、たとえ施設であっても睡眠にはある程度の自由度があってしかるべきではないでしょうか。

「眠りSCAN」のデータをもとに利用者の睡眠状態を客観的に把握できていて、それで健康上の問題がないと判断できれば、「個人のサーカディアンリズムを尊重する」という生活パターンも認められていくかもしれません。「眠りSCAN」は、従来の一括管理型とも呼べるあり方から脱却し、個別的なケアを実現するためのきっかけにもなりうるのではないかと期待しています。

尾崎 章子 先生

IoTで業務効率化。介護者も元気に!

――尾崎先生は、「介護する側の睡眠」も研究の軸の一つに据えているそうですね。

私が研究対象として睡眠に興味を持ったのは、家族ケアに関する研究がきっかけでした。大学院時代にALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者さんを支えるご家族にお会いしたとき、皆さんが口をそろえて「眠れないことが何よりつらい」と訴える姿に衝撃を受けたのです。家族による介護の現状をリアルにとらえたとき、最も切実な問題の一つが睡眠であると知り、今に至る研究活動の原点となりました。当時は私自身が出産・育児のさ中だったこともあり、眠りたいのに眠れないことのつらさを身につまされるように感じたことを覚えています。育児よりも今後の見通しが立ちにくい介護では、さらに深刻な状態であることが容易に想像できました。

しかし、当時は睡眠に関する認識が薄い医療従事者が多く、「介護をしていても家にいるなら眠れているでしょ」といった消極的な反応が少なくありませんでした。そこで、情緒に訴えるばかりでは状況を変えられないと思い、客観的なデータを集めることに力を入れるようになったのです。例えば、アクティグラフという腕時計型の加速度センサーを用いて、介護をしている人とそうでない人の睡眠状態を比較した研究は、私の博士論文になりました。 

その後、国立精神・神経医療研究センターを経て、東邦大学の看護教員となり、茨城県の保健センターで保健師と連携しながら地域住民向けの「快眠教室」を10年間ほど続けました。また、厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針2014」の策定に関与するなど、現在に至るまで看護の視点から睡眠にまつわる問題に取り組み続けています。

――介護施設のスタッフにとって、「眠りSCAN」は負担軽減の一助になるとお考えですか。 

「眠りSCAN」を活用すれば、介護者の負担軽減にも大いに役立つと思います。そもそも、利用者の睡眠状態をリアルタイムで把握できるということ自体、見守る側にとって大きな安心感につながります。呼吸や心拍のデータが可視化されることで、心不全のような重大な疾患の徴候を見逃す可能性もぐんと低くなりますね。

また、過剰にベッドサイドを訪れる必要がなくなり、効率的にケアを提供できますから、スタッフ数が少なくなりがちな夜勤の時間帯でも労働環境がかなり改善されるでしょう。介護に携わるスタッフが元気であってこそ利用者により良いケアを提供できるわけですから、業務効率化という視点も忘れてはなりません。私自身も、被介護者と介護者の睡眠の関連性について、今後より深く追究していきたいと考えています。

加齢に応じて睡眠状態が変化していくことは、避けることのできない生命現象の一つです。しかし、医療や「眠りSCAN」のような機器の進歩により、より良い状態をキープすることは可能になりつつあります。「高齢だから睡眠に少々の問題があっても仕方ない」とあきらめるのではなく、客観的なデータを踏まえつつ睡眠状態の改善を目指して個別的なケアを提供することが、「その人らしい人生」をサポートする第一歩となるはずです。

尾崎 章子 先生

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