2021.02.24
- 介護のデジタル化
生活介助のなかでも、負担が大きいのが排泄介助です。実際の手順だけでなく、利用者個々で異なる排泄リズムを理解し、個人の尊厳を守りながら、相手にとって不安のない介助を行う必要があります。しかし、利用者一人ひとりの排泄パターンを把握するのは難しいものです。排泄介助の負担軽減を考えるうえで、排泄パターンを把握する方法について考えてみましょう。
排泄介助で介護者・利用者双方にかかる心身の負担
排泄介助を行う介護者は、つねに慎重な対応を迫られます。排泄行為は、利用者にとって非常にデリケートな問題であり、個人の尊厳にかかわるものです。排泄が自力でできるかどうかは、利用者のQOLに大きく影響し、生きる意欲につながることでもあります。そうした利用者の尊厳を守りながら、よりよいケアをしたいと考えるのは、どの介護者でも同じこと。しかし実際には、利用者を支え手際よく介助を行うことは、介護者にとって肉体的に多大な負担がかかり、心身ともに疲弊(ひへい)しがちです。
介護者が排泄介助で疲弊するわけ
排泄介助は、「自力排泄の支援」と「おむつ交換」の大きくふたつに分けられます。
自立した排泄が可能な利用者の支援では、排尿・排便のタイミングに合わせたケアが欠かせません。失敗してしまうと利用者に心理的負担をかけてしまい、日常生活動作(ADL)のさらなる低下を招く可能性もあるでしょう。また、利用者に心理的負担をかけてしまったという思いは、介護者としての自信喪失にもつながりかねません。とくに、新人介護者にとっては、大きな失敗として心に残ってしまうこともありえます。
おむつ交換を行う場合でも、タイミングに合ったケアが求められます。利用者が快適な状態を保てるように、こまめにチェックするという手間が生じます。そのうえ、おむつのチェック作業そのものが、利用者に不快感を招く場合もあるでしょう。タイミングに悩みながらも、おむつに手をかけてみるとまだ排泄前だったり、交換が遅れてしまい中身がもれてしまったりすると、これもまた利用者に不快感を与えてしまいます。
介護者個々の判断だけでなく、おむつ交換のタイミングや頻度が、事業所によってマニュアル化されているところも少なくありません。利用者のサインやパターンを理解しながら実施するところもあれば、排泄量にかかわらず定時のおむつ交換を行うところもあり、事業所によってまちまちです。利用者の気持ちを考えながら、快適な状態を保ってあげたいと思っていても、ほかの業務をしていてタイミングが合わない場合もあるでしょう。人材不足のため、どうしても定時交換にならざるをえないことは理解していても、親身な介護をしたいと考える職員は、理想と現実のギャップに苦しんでいるかもしれません。また、限られた人員で効率よく排泄介助をしなければならないというプレッシャーも抱えてしまうでしょう。
排泄介助がうまくいかなければ、褥瘡(じょくそう)といった皮膚トラブルを招くこともあり、QOL低下に直結してしまいます。利用者への負担軽減はもちろんのこと、介護側が受ける心身の疲弊も深刻な課題といえます。
見えにくい排泄パターンをどう把握するか
厚生労働省の報告書(2018年3月)によると、排泄介助において「身体的負担感」、「心理的負担感」の両方で、もっとも「大きい」と回答があったのは「(夜間)頻回なコールによる排泄介助や排泄誘導」でした。夜間の配置人員は少なく、見守りだけでも業務の時間がとられます。そうしたなかで介護者は、予測しづらい排泄のタイミングに合わせて、慎重かつ迅速に対応しなければなりません。
こうした業務負担を招く原因のひとつに、「排泄パターン」が把握できていないことがあげられます。利用者個々の排泄パターンに合わせたおむつ交換やトイレ誘導ができれば、計画的に業務を進めやすくなり、利用者の不快感も軽減できるでしょう。しかし、利用者個々で排泄リズムは異なるため、すべて把握するのはとても大変です。利用者が排泄リズムを教えてくれることはほとんどなく、なかには、意思疎通ができない利用者や、排泄を知らせること自体をこばむ利用者もいます。排泄パターンを把握するために、そのつど記録したくても、業務中は多忙のため、記録するタイミングが遅れるケースもあるでしょう。
一方で、経験値の高い介護者のなかには、利用者ごとにおむつ交換やトイレ誘導のタイミングを、ある程度予測できる人もいます。担当する利用者の生活リズムを把握し、適切なタイミングで排泄介助ができるのは、介護者にとってもやりがいがある働き方です。しかし、個人の肌感覚に頼った対応は長続きしにくいかもしれません。その担当者が不在になったとたん、介護サービスの質が低下してしまう可能性があるのです。個人の経験による感覚的な判断は、ほかの職員との共有が難しいため、ノウハウが残りにくいのが難点です。結局、ほかの職員が排泄パターンを把握するまでに時間がかかってしまうことでしょう。
「担当者ならタイミングがわかる」といった状況では、働き方改革を進められません。人材不足に拍車をかけてしまう可能性もあります。事業所全体で、利用者ごとの排泄パターンを共有したうえで、業務効率化を進める方法を考える必要があるでしょう。
「排泄パターン」の把握は、排泄の記録と情報共有がカギ
では、実際に排泄パターンを把握するには、どのような方法があるのでしょうか。一般的なのが「排泄日誌」による記録でしょう。また、施設によっては、排泄委員会を立ち上げ、事業所全体でとりくんでいるところも増えています。
排泄記録のポイント
利用者個々で異なる排泄パターンをつかむためには、まず、記録の徹底が欠かせません。記録の抜けもれを防ぐだけでなく、できるだけ細かく、排泄時刻、回数、量、失禁の状態などを記録することが大切です。加えて、水分摂取や食事の量といった飲食との関連性もしっかり記録しておくとよいでしょう。効率よくデータを収集するためにも、一時的に、排泄介助業務を最優先にするのもひとつの方法です。
ただし、記録はできていても事業所内で共有できていなければ、全体の業務効率化を進めるのは難しいかもしれません。排泄介助の負担軽減を考えるうえで、記録の徹底とともに、データを共有できる環境も必要です。詳しく記録しても手書きの場合、資料を利用者ごとに閲覧する作業が増えてしまえば、かえって介護を実施する際の負担が増える可能性があります。そもそも、こうした排泄日誌を記録する余裕すらない事業所もあるかもしれません。記録とデータ共有が難しい状況を打開するには、どうすればよいのでしょうか。
機械化、自動化による効率化を
介護現場での人材不足が続くなか、生産性の向上と業務効率化は大きな課題となっています。排泄パターンを把握するためには、介護者が記録や共有を行う工夫が必要ですが、そうした業務に時間を割くことさえ難しいという悪循環におちいりがちです。そこで注目したいのが、ICT、IoT化によるデータ管理です。IT技術を用いて効率よく業務を進めながら、排泄パターンを把握し、介護者、利用者の負担を軽減することをめざせます。
例えば、ベッドの下に置くだけで排泄を検知し、自動で記録し介護者に報告するIoT機器があります。自動で記録するうえ、排泄パターンの分析も機械が行うため、手書きで記録する必要がありません。利用者ごとの排泄パターンを正確に把握できると同時に、デジタル化されたデータを事業所内で共有できるという特徴があります。こうした機器を活用すれば、記録にかかる手間をかけずにパターンにそった計画的な排泄介助ができるようになるため、労働生産性の向上が期待できるでしょう。また、空いた時間にほかの介助ができるため、介護の質も向上し、利用者のQOLも高まることが期待できます。
今後の介護改革においても、ICT、IoT導入による効率化は急務といえます。2017年より始まった厚生労働省による「科学的介護」の推進に向けて、今後さまざまなデータの収集が予定されています。排泄パターンを記録し、データとして提出する機会も増えてくるでしょう。早い段階で、自動的に記録・共有できるしくみをつくれば、今後のデータ収集が容易になり、業務の効率化にもつながるはずです。心身の負担が大きい業務のひとつである排泄支援を自動化できれば、介護者の離職防止にも役立つうえ、求人活動の際のアピールポイントとしても活用できます。ICT、IoT導入による自動化は、人材確保の面でも、良い影響が期待されるのではないでしょうか。
排泄介助の質向上で、ケア全体の水準を高めよう
排泄介助の効率化は、介護者の負担を軽減すると同時に、利用者のQOL向上にもつながります。人材不足が続く介護業界において、個々の介護者が抱える負担も増えるなか、ICT、IoT化による現場の改革が求められています。排泄パターンを自動で把握するしくみをつくり、利用者、介護者双方にとって快適な環境を整えましょう。
参考: