"利用者のQOL向上"と"業務効率化"を両立する「排泄支援」実施へのヒント

2021.02.24

  • 介護のデジタル化
#基礎知識

 生活支援のなかでも、排泄支援は利用者のQOLに大きく関わるケアの一つです。しかし、人手不足が続く介護業界において、頻度の高い排泄介助は心身の負担になりやすく、プレッシャーを感じやすい業務でもあります。より良い排泄支援を行うと同時に、事業所内の業務効率化を進めるためには、どのような施策に取り組めばよいのでしょうか。利用者側、介護者側双方がメリットを感じる排泄支援について考えてみましょう。

厚生労働省が推進する排泄支援への取り組み

 2018年1月に発表された介護報酬改定において「排せつ支援加算」や「褥瘡マネジメント加算」が算定できるようになりました。「自立支援・重度化防止に資する質の高い介護サービスの実現」を目的とするもので、利用者の排泄機能の向上によるQOL向上を目指すとともに、介護者側にとっても取り組んできた支援体制が評価される仕組みになっています。では、実際に支援加算を算定するには、どのようなポイントに注意すればよいのでしょうか。その内容を具体的に見てみましょう。

プロセスが評価される「排せつ支援加算」

 「排せつ支援加算」は、排泄状態が改善される見込みのある利用者に対して、適切な支援を実施することによって算定し、加算できるというものです。対象となるのは「認定調査員テキスト2009改訂版(平成27年4月改訂)」において、排尿または排便の状態が一部介助または、全介助と評価される人。評価方法は、支援開始時点で一部介助の場合は見守り等以上へ、全介助であれば一部介助以上となることが目安とされています。加算点数は、利用者1人につき100単位/月で、要件を満たしていれば起算日から6か月まで算定できる仕組みです。算定を行うには「排泄支援計画書」を作成する必要があり、計画書に基づいた支援を行いながら、改善の評価を行います。評価は医師と連携する看護師が行うことになるため、多職種連携が欠かせません。

 とはいえ、排泄状態の改善といっても、明確な線引きは難しいものです。そのため、改善評価はあくまでも目安であり、具体的な結果ではなく、主に支援のプロセスや分析結果が評価対象になるとされています。ただし、単純に介助頻度を増やしたからといって、加算できるわけではありません。具体的には、算定に向けた指標として以下のような点を実施する必要があります。

「多職種が排泄にかかる各種ガイドライン等を参考として、

  • 排泄に介護を要する原因等についての分析
  • 分析結果を踏まえた支援計画の作成及びそれに基づく支援

を実施することについて、一定期間、高い評価を行う」

出典:平成30年度介護報酬改定の主な事項について|厚生労働省

予防への取り組みが評価される「褥瘡マネジメント加算」

 「排せつ支援加算」とともに、介護報酬改定に追加されたのが「褥瘡マネジメント加算」です。褥瘡によるトラブルは排泄状態に大きくかかわるものであり、同時に支援を行っている施設も多いのではないでしょうか。

「褥瘡マネジメント加算」は、褥瘡のリスクの計画的な管理によって算定し、加算できるものです。対象となるのは施設入所者全員で、「排せつ支援加算」と比べて対象者が広がります。「排せつ支援加算」と同様に、「褥瘡ケア計画」が必要で、医師と連携した看護師が評価を行います。どちらも算定を行うには、多職種連携が必要です。

 評価は「介護保険制度におけるサービスの質の評価に関する調査研究事業」におけるモニタリング指標を用いた褥瘡リスクの結果によって行います。少なくとも3か月に1回、入所者ごとに評価を行って褥瘡ケア計画の見直し、全員に加算したうえで、算定結果を提出します。加算点数は、利用者1人につき10 単位/月で、3か月に1回が限度です。

ただし、褥瘡が「有」とされる利用者に「低栄養リスク改善加算」を算定したい場合には、入所者全員に対して「褥瘡マネジメント加算」が算定できなくなるため、注意が必要です。

排せつ支援強化による事業所へのメリット

 「排せつ支援加算」と「褥瘡マネジメント加算」が新設されたことで、それまで施設ごとに取り組んできた排泄支援が、実質的に評価されるようになりました。これまで独自に取り組んできた支援体制も、加算を前提に、より積極的な取り組みが進められることでしょう。きちんと評価される仕組みができたことで、利用者のQOL向上とともに、介護サービスの質を上げ、多職種連携の強化にも役立ちます。事業所内においても排泄支援へのさらなる意識付けができるようになり、支援体制の見直しにもつながるはずです。結果として、事業所全体の介護サービスの質が上がり、対外的な評価が高まることも期待できます。

排泄支援実施への課題

 支援加算によるメリットをお伝えしましたが、一方で、実際に現場で実施するには、さまざまな課題が残っています。「第185回社会保障審議会介護給付費分科会」の資料によると、「2018年(平成30年)4月~令和2年3月を通して存在する施設のうち、同期間内に排せつ支援加算を算定したことがある施設」は、介護老人保健施設で約30%。地域密着型介護老人福祉施設においては約6%とまだまだ少ないのが現状です。

出典:【資料】自立支援・重度化防止の推進|第185回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料|厚生労働省

支援計画作成への懸念点

 上述したように、「排せつ支援加算」や「褥瘡マネジメント加算」を行うためには、それぞれの支援計画書が必要です。しかし、排泄支援だけをとっても、利用者個々によってADL(日常生活動作)の状態や実施環境が異なります。介護に抵抗があるケースもあれば、頻尿のケース、全介助のケースなど、その状況はさまざまです。そもそも排泄支援を希望しない利用者もいることでしょう。

 自立排泄を促すとしても、どのレベルに向かうかを利用者1人1人にアセスメントする必要があり、それぞれの支援計画書を作成するだけでも大変な業務負担になってしまいます。また、施設内で統一した計画書を立てるには、利用者の排泄状況に対して、スタッフ間の認識を統一する必要があるでしょう。それまで個々に判断していた頻尿や下痢・便秘といった状態について、そもそもの定義から見直すことになるかもしれません。

アセスメントと情報管理での問題点

 これまで積極的に排泄支援を行ってきた事業所であれば、すでに利用者個々のアセスメントシートがそろっているところもあるでしょう。しかし、内容によっては見直す必要があるかもしれません。

 例えば、算定を行うにあたり、排泄アセスメントとして必要な情報を得るためのツールや方法は、事業所内で統一されている必要があります。排泄記録を手書きで行っている事業所も多く、様式や基準の見直しによって、さらに手間がかかってしまう可能性もあるでしょう。また、手書きの書類はかさばるうえ、情報共有がしづらいという難点があります。多職種連携の強化が求められる状況において、より効率的に情報共有できるツールが必要です。

 いずれにしても利用者個々の支援計画を作成・実施するためには、日常的な記録が欠かせません。個別に対応する時間が増え、他の業務を圧迫する可能性も考えられます。ただでさえ人手不足になりがちな現場において、アセスメントの実施や基準の見直しにかかる業務の増加は、心身の負担を増やしてしまうかもしれません。

排泄支援の実施における課題

 具体的に実施する段階でも、課題が残ります。排泄支援の方法はさまざまあり、利用者によって排泄自立を目指すのか、ケアの質の維持・向上に取り組むのかといった支援方針の見極めを行わなければいけません。方針が決まれば、スタッフによって認識が違ってしまうことがないように、マニュアル等を作成し、同じ目標に向けたケアプランや手段を共有するための準備が必要です。また、継続的に実施できるプランかどうか、その都度、見直す作業や時間も必要でしょう。そもそも人材不足の現場では、どんなに質の良いアセスメントを取り、明確な支援計画ができたとしても、マンパワー不足でプランの遂行ができない可能性も考えられます。

これからの排泄支援に検討したいICT、IoT化

 「排せつ支援加算」や「褥瘡マネジメント加算」の制度は、利用者にとって支援体制の整備が進み、快適な生活環境づくりやQOL向上につながるものです。事業所にとっては、これまで取り組んできたことが評価され、スタッフのやりがいアップにもつながる施策といえるでしょう。しかし、実際には上記のような課題があり、活用できていない事業所が多いのも事実です。その原因の多くは、慢性的な人手不足と、介護者一人当たりの業務過多にあることが考えられます。では、そうした課題にどのような方法で対応すればよいのでしょうか。

介護ロボット(ICT、IoT)の導入で業務効率化に

 近年、介護現場の生産性向上や効率化に向けて、注目を集めているのが介護ロボットの活用です。

 上述したように、排泄支援には日々の記録が欠かせず、その多くが手書きです。手書きの作業は手間がかかるうえ、情報共有が難しいといった不便さがあります。また、尿量測定による数値化や、ブリストールスケールの使用といった具体的な基準がなければ、記入者によって、状態の認識が異なる可能性もあるでしょう。加えて、手書きの記録では結果を分析するときに、グラフや表に起こしづらいため、傾向を把握しにくいのも難点です。

 そうした状況を打開するために役立つのが、介護ロボット(ICT、IoT機器)の活用です。自動で排泄記録を行ってくれる機器があれば、手書きの手間が減るだけでなく、デジタル化されたデータによって記録が統一され、さらに多職種との共有も容易になります。分析も任せられるため、一目で状況が把握できるのも大きなメリットです。一定の基準に基づいて記録されるため、これまで目視で行ってきた状態判断においても、迷いが少なくなります。介護ロボットの開発が進む昨今では、記録だけでなく、排泄予測を行うモデルもあります。予測がたてば計画的に業務を進められるため、総合的な業務時短、負担軽減につながります。

排泄支援を効率化するIoT機器の選び方

 厚生労働省は、利用者のQOLを挙げると同時に、介護分野における生産性向上にむけた取り組みを行っています。そのひとつが、経済産業省と共に行っている介護ロボット(ICT、IoT機器)の開発支援です。

2013年から開発支援がはじまり、2017年10月には以下のように重点分野を追加しました。

l  排泄物処理…処理に技術を用いた設置位置調節可能なトイレ

l  トイレ誘導…排泄を予測し、適切なタイミングでトイレ誘導(追加)

l  動作支援…トイレ内での下衣の着脱等、排泄に関わる一連の動作を支援する(追加)

利用者の状況や段階に適した支援機器を選ぶことになりますが、さまざまなタイプの機器があり、どのような機器を選べばよいか迷ってしまうかもしれません。IoT機器を選ぶ際には、業務効率化はもちろんのこと、利用者の安全と介護者にとって使いやすく、できるだけ使用時の負担が少ないものを選ぶのがポイントです。データを共有しやすいシステムが整っていれば、多職種との打ち合わせも効率化ができるでしょう。装着型を導入する際は、褥瘡ケア計画に影響する可能性があるため、十分に利用方法を確認しておくとよいでしょう。また、できるだけスタッフが簡単に操作できるモデルにすることも大切です。操作方法が難しい機器は、かえってスタッフにストレスを与えてしまう可能性があることを覚えておきましょう。

導入において課題となるのが、費用面です。導入前に、「介護ロボット等導入支援特別事業」の助成金対象の機器を確認し、利用者と介護者双方に使い勝手の良いものを選んでみましょう。

利用者、介護者ともに笑顔になる排泄支援体制を

 排泄支援は、利用者本人にとって心理的負担を与えやすいものです。尊厳に関わる支援だからこそ、スタッフのストレスになりやすい業務ともいえます。利用者に寄り添いながら個別の排泄支援を行いたいと考えていても、実際には忙しすぎて手が回らず、矛盾した気持ちを抱えてしまうスタッフも少なくありません。

 業務負担が軽減できるうえ、効率化にも役立つ介護ロボットが導入できれば、スタッフのストレス軽減にもつながり、職場の雰囲気もよくなることでしょう。その結果、利用者にとっても快適な環境に近づくという、よい循環が生まれます。互いに笑顔になる介護サービスを提供するためにも、ICT、IoT機器の導入を検討し、効果的な支援体制を整えてみてはいかがでしょうか。

参考:

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