マットレスなどの下に敷くことで体動(寝返り、呼吸、心拍など)を検知し、対象者の状態に合わせた適切なケアにつなげることができる「眠りSCAN」。眠りを「見える化」できるセンサーですが、導入後、活用できるようになるまで時間がかかることもあるようです。そこで注目していただきたいのが、「眠りSCAN」の活用をサポートするサービス「PB-Method」。今回は、このサービスを利用した特別養護老人ホーム生寿園を取材し、施設長の本庄谷英司さん、フロアリーダーの階上ルミさん、そしてパラマウントベッド睡眠研究所に所属する看護師の坂元尚美さんにお話を伺いました。
【眠りSCAN(NN-1310) 一般医療機器 届出番号12B1X10020000043】
導入時だけでなく「使いこなせる」まで徹底サポート
――「眠りSCAN」の導入、そして「PB-Method」の活用を決めた経緯を教えてください。
本庄谷:当施設では2020年2月に「眠りSCAN」の利用を始めました。81床の特別養護老人ホームと9床のショートステイ、全90床への導入でした。かなり大規模な導入を決めた背景には、スタッフの負担を軽減したいという思いがありました。特に夜間帯の見守り業務に関して負担感が高まっていたため、「眠りSCAN」に注目したのです。東京都の「介護保険施設等におけるICT活用促進事業」により費用の半分近くを補助金で賄うことができましたが、それでも大きな投資であったことは確かです。「導入はしたけれど、実際には使いこなせず形骸化してしまった」ということにならないよう、「眠りSCAN」の導入をサポートしてくれる「PB-Method」の活用を決めました。
坂元:「PB-Method」は、「眠りSCAN」導入後に起こりがちな、通知設定方法などに関する問題の発生を予防するとともに、お客様が自立して継続的に「眠りSCAN」を活用できるようにサポートするサービスです。今回は、パラマウントベッド睡眠研究所所属の看護師である私が担当を務めさせていただきました。「PB-Method」の大きな特徴の一つは、製品をお届けする前段階(ステップ0)からお客様と関わらせていただくこと。この時点で現場の課題を聞き取り、導入目的を明確化することが重要です。「眠りSCAN」導入後もスモールステップ(ステップ1~3)を踏みながら、3か月かけて現場での活用をサポートさせていただきました。
――貴施設のケースでは、「PB-Method」によるサポートはどう進んでいきましたか。
本庄谷:導入前から坂元さんがサポートに入ってくれ、当施設の現状をお伝えしながら、どのような意図で導入するのか、どのような活用方法が可能なのかを一緒に考えていきました。このときに、最大の目的は夜間帯の業務負担の軽減であることを再確認し、それを言語化することで、スタッフにも力強くメッセージを発信できたと感じています。また、「従来は1時間に1回だった夜間巡回を2時間に1回にする」という具体的な目標を掲げることにもつながりました。ここまでがステップ0に該当する部分です。
坂元:導入後のステップ1としては、リアルタイムモニター機能に慣れていただくことを重視しました。これは、居室で過ごす利用者様の状態(睡眠、覚醒、起き上がり、離床)と、就床時の心拍数・呼吸数を一覧で確認できる機能です。まずはこれらの画面を見慣れることで、「眠りSCAN」の特徴を体感していただきました。皆さんがリアルタイムモニターを参考にしながら動くことに慣れてきたら、ステップ2として通知設定を行いました。いきなりたくさんの通知音が鳴ると現場が混乱するので、「転倒リスクを軽減するため」などと目的を明確にして、1~2人の利用者様を対象とするところからスタートしました。最後のステップ3では、蓄積した睡眠日誌などのデータ活用方法を提案していきました。
――「PB-Method」によるサポートを受けてみて、どのようなメリットを感じましたか。
階上:坂元さんからは、「気付いたことはどんどんメモしてください」と言われていました。リアルタイムモニターの表示と実際の状況が違うなど「なぜ?」と思った点を記録しておき、各ステップ時に電話で気軽に質問できたので、とても安心感がありましたね。また、導入の初期段階で「眠りSCANチーム」を立ち上げることを提案され、私もその一員となりました。介護職だけでなく、看護師、医療ソーシャルワーカー、事務スタッフなどを含んだ多職種チームで、それぞれが「眠りSCAN」の担当者としてしっかりと使いこなせるように学んでいきました。
本庄谷:いわば、施設内で「眠りSCAN」の伝道師となったチームですね。新しく導入した機器の活用方法を、いきなり全スタッフに落とし込もうとしても無理が出ることが多いです。しかし、お手本となる人たちがチームとして動いてくれたからこそ、他のスタッフにもスムーズに浸透していったのだと思います。
また、当初は私自身、「眠りSCAN」を単なる離床センサーの一種だととらえていた気がします。「利用者様がベッドを離れたときにアラームが鳴るだけの製品」と思っていた人は、きっと私のほかにもいたはずです。こうした思い込みを坂元さんが払拭してくれたことも、導入成功の要因だったと思います。
眠りの「見える化」により夜間巡回が半減
――「眠りSCAN」の導入後、課題だった夜勤帯の業務負担はどのように変わりましたか。
階上:当施設ではワンフロアが24~33床で、夜勤帯では各フロアを2人のスタッフが見守ります。以前は1時間ごとに巡回を行っていたのですが、2人で手分けしてもかなりの時間がかかるため、「1周してきたら、もう次の巡回が始まる」といった感覚でした。特に、1人が休憩に入っている間は、もう1人がフロア全体を受け持たなければならず、かなり慌ただしい状況になっていました。
しかし、「眠りSCAN」の導入後は、一部の観察がリアルタイムモニターで代替可能になり、夜間巡回のオペレーションが大きく変わりました。各ユニットに1台ずつiPadを配置し、入居者様の状態を随時把握できるようになったのです。その結果、2時間に1回の巡回を実現でき、精神的にも身体的にもずいぶん余裕が生まれました。今では出勤してすぐ「眠りSCAN」のデータを確認し、担当の入居者様の状態を把握するという流れが定着しています。業務の引継ぎも、よりスムーズになりました。
――「眠りSCAN」を使ってよかったと感じたのはどんなときでしょうか。
階上:例えば、ある入居者様は頻繁におむついじりをしており、以前は夜勤帯の間に3回ほど衣類やリネンの交換が必要でした。しかし、「眠りSCAN」をチェックして「睡眠」から「覚醒」に変わったタイミングで居室へ行くことで、ご本人がおむつを触る前に排泄ケアを行えるようになり、周囲を汚してしまうことも減りました。私たちスタッフの負担軽減につながるだけでなく、入居者様も不快な思いをせず、快適に過ごせる時間が増えたことがうれしいです。
また、居室に鍵をかけて眠る習慣がある方だと、部屋に入る際の「カチャリ」という鍵開けの音で目覚めてしまうことがありました。しかし、巡回の頻度が2時間に1回に減った上、「覚醒」の状態を確認してから入室することで、睡眠を妨げずに見守りができるようになりました。
本庄谷:睡眠日誌を確認するようになってから、いろいろと分かることも多かったです。例えば、夜間に居室を出て徘徊してしまう入居者様の睡眠状況をチェックすると、昼間の睡眠時間が想像以上に長く、夜の覚醒につながっていることが判明しました。昼夜逆転が「見える化」されたことを受けて、興味のあるレクリエーションに参加いただくなど日中の働きかけを増やし、生活リズムの改善を図ることができたのです。
また、「眠りSCAN」のデータが蓄積されていくことで、長期的な視野で状態を把握できるという側面もあります。例えば、「3日に1回のペースでよく眠れている」という状態は、現場感覚だけではつかみづらいものです。こうしたことからも、「眠りSCAN」はより良いケアのプランを立てるための大切な指標になっています。
坂元:私としては、導入して1か月ごろの段階で、「眠りSCAN」のデータを病院搬送の判断に役立てていただいたことが印象に残っています。ある入居者様の様子が、いつもと比べて元気がなさそうで、どこか違和感があったそうです。念のため「眠りSCAN」のデータを確認すると、少し前から呼吸数が通常より増加していることが判明し、すぐに受診することに(※)。残念ながら、その方はその日の夜に亡くなってしまったそうですが、それでも事前に医療へつなげられたことの意義は計り知れません。日ごろから入居者様と接しているスタッフさんの直感を、「眠りSCAN」のデータが後押ししたかたちだと思います。
※ 体調変化の確認は、実際の様子を観察することを基本とし、 眠りSCANによる測定結果は目安としてお使いいただいています。
※ 眠りSCANの測定結果に基づいて治療をおこなう場合は医師の指示に従っていただいております。 症状の悪化につながるおそれがあります。
現場にとって「なくてはならない」存在に
――今後、「眠りSCAN」を活用する場面は増えていきそうでしょうか。
本庄谷:現在、ショートステイの利用者様について、利用後ご家族へ渡すお手紙(報告書)に睡眠日誌のコピーを同封するという取り組みをしています。また、同じデータを担当のケアマネジャーにも渡し、より良いサービスを検討するために役立てもらっています。今のところは昼夜逆転や夜間の不穏がみられる方に限った取り組みですが、いずれは一般化していき、より多くのケースで同じことをしたいと考えています。
特別養護老人ホームの入居者様については、現在は新型コロナウイルス感染症の影響でご家族との面会が難しいですが、状況が落ち着いてきたら、「眠りSCAN」のデータを示しながら「夜もしっかりと眠れていますよ」といったことをお伝えし、安心していただきたいと思っています。
――最後に、「眠りSCAN」導入についての感想をお願いします。
坂元:超少子高齢社会を迎えた日本では、今後も医療・介護業界の人材不足は続いていくでしょう。人力では賄い切れない部分を補うためにも、ICTをうまく使って業務効率化を図ることは必須だといえます。ただし、せっかく新しい製品を導入しても、使いこなせなければ意味がありません。私たちが専門家の視点から「眠りSCAN」の活用をサポートすることで、スタッフの皆さんがより良いケアを実現できることを願っています。
本庄谷:当施設の求人情報で「眠りSCAN」を導入したことを載せたところ、応募者の反応は上々でした。大きな訴求効果があり、求人面でもプラスになっています。また、看護師のいる医務室にもiPadを導入しているのですが、そこでも「眠りSCAN」のデータを確認できるため、多職種連携がやりやすくなるメリットもありました。「眠りSCAN」のデータをスタッフ間の「共通言語」として生かせるようになったわけです。このように、「眠りSCAN」は現場にすっかり定着しており、もしも導入以前の状態に戻るとしたら……と考えると、思わずぞっとしてしまいます。
特別養護老人ホーム生寿園(東京都大田区)
社会福祉法人久盛会が運営する特別養護老人ホーム。自宅に近い環境を実現するためユニットケア方式を取り入れており、9~12人の入居者ごとになじみのスタッフが生活をサポートしている(計81床)。施設ではショートステイ(9床)と都市型軽費老人ホーム(5床)のサービスを併せて提供するほか、防災拠点型地域交流スペースも備えている。
http://amasagi.or.jp/seijyuen/
※撮影時に一時的にマスクをはずしていただきました。