今回は、「眠りSCAN」を用いた見守り支援システムの導入経緯や効果について、東京海上日動ベターライフサービス株式会社の南條さんにお話をしていただきました。南條さんがケアリーダーとしてご活躍されているヒュッテ荏田南では、初めて導入したICT機器が見守り支援システムだったそうです。本記事では、見守り支援システム導入の流れや活用方法についても詳しくご紹介します。
【東京海上日動ベターライフサービス株式会社 介護付き有料老人ホーム ヒュッテ荏田南】
東京海上日動グループの総合介護事業会社である、東京海上日動ベターライフサービス株式会社が運営する介護付き有料老人ホーム。2006年に開設され、2016年度・2018年度・2019年度に「かながわベスト介護セレクト20」を受賞。2022年度には、優良介護サービス「かながわ認証」を取得している。利用定員は28名で、利用者様の平均年齢は89.9歳、平均介護度は3.29。
※2024年1月末時点の情報
見守り支援システムの導入経緯
当社では、「品質の高い介護サービスを提供し、心豊かに笑顔で暮らせる社会の実現に貢献します」という経営理念を掲げています。
この経営理念のもと、
- ご利用者様の生活の質の向上
- 社員の負担軽減・専門性の向上
を目的に、見守り支援機器の導入について全社で話し合いが行われました。
モデル事業所で複数の見守り支援機器のトライアルを実施し、「ヒルデモア/ヒュッテ(※)」がこれまで大切にしてきた考え方をしっかりと踏襲し、見守りに主眼を置きすぎてご利用者様の行動を抑制することがないように、ご利用者様の自立支援を意識して機器の選定を実施。様々なことを総合的に判断して、パラマウントベッドの見守り支援システムの導入を決定しました。
※「ヒルデモア/ヒュッテ」は、東京海上日動ベターライフサービス株式会社が提供する介護付き有料老人ホームのブランド名
「ご入居者の生活の質の向上」については、睡眠状態の分析への利用や、度重なる巡視で睡眠を不必要に妨げることの軽減。「社員の負担軽減や専門性向上」については、必要な介入のタイミングを円滑かつ適切に把握すること。また、社員にエビデンス・ベースド・ケアの視点が備わり、専門性が高まること。会社として、以上の点に期待して導入を始めました。
スタッフが感じていた課題
当施設では、以前から夜間のナースコールの多さ、巡視によるご利用者様の睡眠の妨げ、そしてスタッフ都合での朝の離床介助に対して課題を感じていました。また、夜間の睡眠に対して「眠前薬が合っていない」と不安を感じていました。さらに、夜間の人員配置の変更もあり「スタッフの負担が増えるのではないか」という不安も抱えていたのです。
見守り支援システムの導入により、「これらの課題や不安を解決し、ご利用者様の睡眠を妨げず、データに基づいて適切なタイミングでケアを行えるようになるのでは」という期待がありました。
見守り支援システム導入の流れ
夜間の人員配置変更のタイミングで、ヒュッテ荏田南での見守り支援システムの導入が決まり、次のような順を追って導入していきました。
まずは、先行試用していた他事業所にて機器を見学。細かい設定などの使用方法のほか、導入してから実感した変化について具体的な事例を交えて説明していただきました。また、誰でも簡単に設定や操作ができるという点で、不要な通知設定をしないための決まり事なども伺いました。実際に機器に触れつつ、使用しているスタッフの生の声を聞いたことで、当施設での活用をイメージでき、また見学で得られたイメージをメンバーと共有することで使用時の注意点やルールの目線合わせを事前に行うこともできました。
次にご家族に説明を行い、先行導入へ進みました。今まで見守り支援機器を導入したことがないため、まずは機器に慣れるために1床のみ導入を実施。入居からまもなく、夜間の巡視の際に床で寝ていたりトイレを探して転倒していたりと、睡眠に対する課題が明確にある方を対象に導入したことで、その方の睡眠について興味を持ってみることができました。1床から始めたことにより、見学でイメージしていた活用方法を、より具体的に現場スタッフと共有することができました。また導入時には、パラマウントベッドの方からレクチャーをしていただき、参加できなかったスタッフにはレクチャーを受けたスタッフが個々にレクチャーを実施。スタッフ同士でも機器への理解を深めていきました。
こうして約1週間のお試しを経て、全28床への導入が実現。そして、2023年7月末からの約半年間で、取り組みによる効果を実感することができました。
見守り支援システムの活用方法
ヒュッテ荏田南では、各フロアでモニターを見られるように多数のPCを設置しました。
見守り支援システムの導入に伴い、夜間の巡視を1時間ごとから3時間ごとへ変更したため、写真のように業務をしながらモニターでご利用者様の睡眠状態を確認するようにしました。さらに、夜間はアプリで連動したスマートフォンを常に持ち歩いているので、通知が届いたらインカムを使用して夜勤者間で連携を取り合います。他にも、黄色の覚醒表示が長くなったら「そろそろナースコールが鳴るだろう」と想定して、ケアの順番を組み替えています。
また、スタッフが感じていた課題であった「スタッフ都合の離床」も、モニターの覚醒表示を基に動きのある方から朝の離床ケアを行うようになりました。
最初は新しい機器が入ることで「使いこなせるか」という気持ちや、直接ご利用者様を見ないことへの後ろめたさも感じていましたが、ご利用者様の睡眠状態の改善を日々感じる中で不安が解消されていきました。
【事例紹介】多職種コミュニケーションツールとしての使用
ここからは、見守り支援システムの「多職種コミュニケーションツール」としての活用事例を紹介します。
C様はご入居以来、夜間ナースコールが頻回な状況が続いていました。また、そのナースコールの音が原因で他のご利用者様の睡眠にも影響が出ていました。排泄だけではなく不安などの訴えもあり、ナースコールのたびに訪室をして対応。日中もそわそわ感や急な怒声があり、スタッフが目に入る位置にいないと落ち着かない状況でした。このような状態でC様の睡眠状況は思わしくなく、内服薬の効果を見ていくため精神科医に繋げました。見守り支援システムのデータとあわせて昼の活動・発言の内容と、夜の睡眠状態・ナースコールの時間・発言の内容を次の写真の用紙に記入していき、医師へ報告。得られた情報から、内服薬が合っているのかを検討していきました。
あわせて日中の過ごし方を検討し、夜間の睡眠へ繋がるよう取り組みました。C様の場合、最初の内服薬の変更により多少の睡眠状態の改善と日中の怒声の軽減がみられましたが、もうひと押しということで別の薬を追加することに。その後、すぐに心拍日誌に変化が表れたため、データをもとに医師に相談。医師により、薬量の微調整が数回行われ、最終的に別の薬に変更したことで夜間の不安の訴えが消失し、安眠に繋がりました。
このように、見守り支援システムは睡眠状態を把握するだけではなく、医師に提供する情報の一つとしても活用しています。
見守り支援システムの導入はスタッフの業務改善にも繋がった
ここからは、スタッフの視点からの業務の改善について紹介します。
改善前と改善後で比較すると、人員は夜間3人体制が2人体制になりました。夜間は1時間ごとに巡視を行っていましたが、現在は3時間ごとの巡視に変更。ケアが必要なご利用者様は、イブニングケア後、23時・2時に体位交換し、4時から排泄介助を行っていましたが、パッドやマットレスの見直しも行い、2時の体位交換を無くしました。夜間の業務では、ケアと巡視に加えてパッドやグローブなどの物品補充のほか、消毒や洗濯物の返却、冷蔵庫清掃なども行っていましたが、これらの間接業務を日中へ移行。加えて、ケアや巡視が減ったことに伴い、空き時間が増えたことでイベント準備など各自の仕事に充てることができました。
最後に、スタッフの心理面についてです。見守り支援システムを導入し、当初は初めてのICT機器への不安や、ご利用者様の様子を直接確認しないことへの後ろめたさを抱えていました。しかし、今では見守り支援システムにも慣れ、活用しながらリアルタイムで情報を知ることができる安心感を得られています。
また事例でも紹介したように、見守り支援システムから得られた情報は、医師への提供だけではなく、社内の委員会でも活用するようになりました。
導入効果のまとめ
見守り支援システムを導入・活用したことで、巡視による入眠の妨げが少なくなり、ご利用者様の睡眠効率の向上に繋がりました。また、睡眠などのデータを基にしたケアの見直しを行い、適切なタイミングでの排泄介助や離床を実施し、失禁などの負担が軽減。その方に合った日中の過ごし方を検討し、生活リズムの改善に繋がっています。また、スタッフは創出した時間をイベント準備などに充て、ご利用者様へ還元することができました。
当施設では見守り支援システムの導入後、早い段階から活用しようとスタッフが前向きであったため、早めに定着していったと考えます。様々な事例を通して、睡眠に対するスタッフの意識向上に繋がりました。また、スタッフの感覚だけではなくデータを基にした医師への相談など、新たな他職種コミュニケーションツールとしての活用ができました。
今後の展望
今後の展望としては、次の3つを掲げています。
- 呼吸・心拍日誌の活用と多職種連携の強化
- 自立からケア介入が必要になるタイミングを探るヒントに
- 「生産性向上推進体制加算」の取得
1つ目は、呼吸・心拍日誌から得た情報を活用し、それを基にした多職種連携の強化をしていきたいです。
2つ目は、普段自立されていてケアの関わりが少ないご利用者様の日中・夜間の状態の変化から、ケア介入が必要になるタイミングを探るヒントとして見守り支援システムを使用していきたいと思います。
3つ目は、24年度介護報酬改定で、見守り機器などのテクノロジーの導入について評価される「生産性向上推進体制加算」が加わるため、見守り支援システムのデータを用いた継続的な改善と効果の検証により、加算取得を目指していきたいです。
南條 彩(なんじょう あや)
東京海上日動ベターライフサービス株式会社
介護付き有料老人ホーム ヒュッテ荏田南 ケアリーダー