2024.08.13
- 介護のデジタル化
今回は、「眠りSCAN」を用いた見守り支援システム導入による活用方法とその効果について、社会福祉法人射水万葉会 特別養護老人ホーム「二上万葉苑」の中村久美子さん、南幸代さんにお話を伺いました。
【特別養護老人ホーム 二上万葉苑】
富山県内の全域および東京都足立区で事業を展開する、射水万葉会が運営。特別養護老人ホーム、ショートステイ専用居室を持つ複合施設。また、デイサービスセンター、居宅介護支援事業所、地域包括支援センターが併設している。利用定員は、特別養護老人ホーム 2〜4F 80名(個室40名、4人部屋40名)、ショートステイ専用居室 2F 20名(個室8名、4人部屋12名)、デイサービスセンター55名。
介護職員の身体的・精神的負担を減らしたかった
見守り支援システムを導入した理由は、介護職員の身体的・精神的負担を減らしたかったからです。平成27年度から行っているストレスチェックの結果、介護職員の身体的ストレスの数値が増加傾向にあることが判明。さらに、人材不足や職員の高齢化などの課題に直面しており、特に夜勤時の身体的・精神的負担が大きいことから、職員のストレスを軽減する必要がありました。
また、職員から「夜間の定期巡回や定時の排泄介助は、ご利用者様の睡眠を妨げているのではないか」との意見が挙がり、このような課題を解決できないかと考え見守り支援システムの導入を決断しました。
まずはシステムを有効活用できるように環境を整備
見守り支援システムの導入に際して、ネットワーク環境を整備する必要があったので、まずは全館のWi-Fi設備を整えました。「眠りSCAN」は、施設内の全ベッド100台に設置。そのほか、各階にパソコン1台、スマートフォンの端末機器2台を準備しました。
このシステムは、ご利用者様ごとで通知音を変更できる特徴があります。そのため、例えば発熱などの体調不良で静養されているご利用者様がいらっしゃるときは、その方の居室だけ通知音を変えるように設定しました。また、2階は入所のご利用者様とショートのご利用者様の混在エリアであるため、入所のご利用者様とショートのご利用者様で通知を分けています。端末の画面を確認しなくても音だけで聴き分けできるように、8種類の音から適した音に設定するなど工夫しています。
職員高齢化に伴うシステム使用の課題
導入時は、「端末の操作ができない」「見守り支援システムの使い方がわからない」などの問題点も挙げられました。年配の職員の中には、パソコンやスマートフォンの扱いに不慣れな方も多く、またスマートフォンの文字が小さいことも影響してシステムの使用を敬遠する様子もみられました。
そこで実施したのが、不慣れな職員に対するスマートフォンの操作方法やシステムの使い方の個別指導です。各階のリーダーが中心となって、こまめに講習を行いました。システム導入の約半年後には、提供元であるパラマウントベッドとの勉強会も実施し、日ごろ疑問に感じていることや更なる活用方法について助言をいただきました。
見守り支援システム導入後に実感した3つの効果
見守り支援システムを導入し、対応したことで、主に下記3つの効果を実感しています。
- 職員の業務負担の軽減
- ご利用者様の睡眠の質の向上
- ご利用者様の転倒・転落の低減
効果1. 職員の業務負担の軽減
1つ目の効果は、夜勤時の職員の業務負担が軽減されたことです。見守り支援システム導入前は、1時間に1回の定時巡回でご利用者様の状態を確認していました。そのほか、ナースコール対応やトイレの利用で起床するご利用者様、なかなか寝つけず起床されるご利用者様の対応などを行っていました。
システム導入後は、端末を常時携帯しているため、常に「睡眠状態」「呼吸数」(※)「心拍数」(※)を把握できます。そのため、1時間に1回の定時巡回は行わず、端末の画面を確認しながら随時巡回を行っています。
※心拍・呼吸数に相当する体動から算出した推定値を心拍数・呼吸数と表現しています。
下記は、見守り支援システム導入前後のストレスチェックの数値を比較したものです。
総合健康リスクの数値は100を基準とする中、導入前は123という高い数値でした。その要因には、介護人材不足や職員の高齢化などの問題が挙げられます。システム導入後は、総合健康リスクの数値は113に減少。システムを導入し、夜間の定時巡回を行わなくなったことで、身体的な負担の軽減に繋がったと考えられます。また、見守り支援システムで「睡眠状態」「呼吸数」(※)「心拍数」(※)を確認できるため、ご利用者様の状態変化にもその都度対応できるようになりました。何かと不安の多い夜勤帯でも安心して対応できるようになった点では、精神的なストレス軽減にも繋がったと考えられます。
※心拍・呼吸数に相当する体動から算出した推定値を心拍数・呼吸数と表現しています。
さらに、見守り支援システムの導入前後では、夜勤時の歩行数にも違いがみられました。
ご利用者様も違っており、一概には比較できませんが、システム導入前は1回の夜勤で平均20,183歩歩いていたのが、導入後は平均14,720歩に減少しました。これは、身長160cmの方で、約3.3kmの歩行距離が減少したことになります。この歩行数の減少は、先にも述べたように、夜勤時の身体的な負担の軽減に繋がっていることがわかります。システムの導入により、1時間に1回の定時巡回をやめ、端末で確認しながら随時巡回することで、ご利用者様の離床時等にその都度訪室できるなど、適したタイミングでの対応が可能になりました。
効果2. ご利用者様の睡眠の質の向上
2つ目の効果は、ご利用者様の睡眠の質の向上です。システム導入後は、端末で睡眠状態を確認できています。画面を確認し、睡眠状態のときはできるだけ訪室を控え、覚醒状態のときに訪室して様子を確認したりオムツ交換をしたりすることで、睡眠を妨げることが少なくなりました。実際に、覚醒状態のときに訪室するとオムツを触っておられ、オムツ外しなどを防げた事案が何度もあります。
また、夜間定時にトイレ誘導していたご利用者様には定時のお声がけをやめ、覚醒状態のタイミングでトイレ誘導を実施しています。「起きあがり検知」で体を起こされたことを知らせてくれるので、ご利用者様がトイレに行きたいタイミングでトイレ誘導することができています。
効果3. ご利用者様の転倒・転落の低減
3つ目の効果は、ご利用者様のベッド周辺での事故が減少したことです。システム導入後は、「離床」「起きあがり」「覚醒」の3つから動作検知を選択でき、判定時間を選択できるので、ご利用者様に適した調整が行えるようになりました。当苑は全ベッド100床に「眠りSCAN」を設置していますが、下記のようにご利用者様にあわせて通知設定を変えています。
ご利用者様の状況 | 設定例 |
---|---|
転倒・転落リスクが高い | 覚醒検知(判定時間は「すぐに」で設定) |
ご自身でトイレに起きられる | 起きあがり検知 |
比較的自立している | 離床検知(判定時間は「10秒後」で設定) |
さらには、日々の体調に合わせて動作検知や判定時間の設定を変更するなど、細やかな対応にも努めています。下記のグラフは、見守り支援システム導入前と導入後、各1年間のベッド周辺での事故件数の比較です。
システム導入前、105件あった事故件数が76件に減少しました。内訳を見ると、日中の事故件数は61件から49件に、夜間の事故件数は44件から27件に減少しています。グラフの通り、特に夜間の事故件数は39%減少していることから、見守り支援システムを導入して個々のご利用者様に適した動作検知と判定時間を設定することで、夜間帯でもきめ細やかな対応が可能となり、事故件数の減少に繋がったと考えられます。
見守り支援システムの活用事例
ここで、見守り支援システムの活用事例として「精神科による睡眠データの活用」を紹介します。
Bさん(100歳 女性 介護度3 歩行器歩行)は、令和4年1月に体調不良と被害妄想がみられたため、かかりつけの内科を受診。しかし異常はなく、協力病院の精神科を受診することとなりました。その後、内服薬の処方により体調不良は収まり、穏やかに過ごされていました。
しかし、令和4年9月8日に弟様がお亡くなりになられたことを知り、ご本人様が落ち込まれ、歩行が不安定となり、車いすを使用されるように。その後、再び体調不良の訴えがあり、あわせて精神不安定により眠れなくなってしまいました。
協力病院の精神科医が往診にきた際に、Bさんが体調不良と精神不安定で不眠になっていることを相談。協力病院の精神科医には見守り支援システムを導入していることは事前に報告していたため、精神科医よりBさんの睡眠レポートの提出を求められました。
睡眠レポートを確認し、内服薬を追加で処方。服薬していただくようになったことで、表情も明るく穏やかになり、症状が改善されました。下記は、Bさんの睡眠レポートの比較です。
上の睡眠レポートが、弟様がお亡くなりになった後、体調不良と精神不安定で不眠が続いていた頃のものです。そして下の睡眠レポートが、精神科医に相談し、内服薬を追加処方していただいた後のものです。睡眠レポートを比較してもわかるように、夜間の覚醒状態の時間が減り、夜間にまとまった睡眠ができるようになったことがわかります。睡眠効率が65%から76%に向上し、睡眠を改善できています。また、夜間の睡眠が充実したことで、生活リズムが整いました。朝昼夕と食事の時間にはしっかりと離床し、規則正しい生活に改善されていることがわかります。
人材育成と働きがいのある職場環境づくりに取り組みたい
介護人材不足のなか、急激な職員の増加が見込めないことや職員の高齢化にも直面しているため、ICTを活用して業務の効率化を進める必要があります。
令和4年度3月現在、当苑の離職率は2%です。引き続き、よりよい人材育成と働きがいのある職場環境づくりに努めていきたいです。そして、今後は「眠りSCAN eye」や「インカムシステム」の導入をすでに検討しています。
■眠りSCAN eyeとは
「眠りSCAN」と連動するカメラシステム。利用者様の状態が変わったときや、呼吸数・心拍数が設定値になったときに、従来の通知に加えて連動カメラシステムが利用者様の様子を映像で知らせる
見守り支援システムを導入したことで職員の定時巡回はなくなったものの、夜間の歩行数は多く、身体的負担が大きいのが現状です。また、少人数での夜勤業務は精神的負担も大きいことから、「眠りSCAN eye」の導入は職員の身体的・精神的負担の軽減や、さらなる業務の効率化に繋がると考えています。さらに、職員の接遇にも活用できることが見込まれ、より良い人材育成にも繋がるでしょう。
インカムシステムの導入は、広い施設内でもご利用者様への迅速な対応や職員同士の情報共有を可能とするのではないかと考えています。さらには、このような取り組みから当苑に魅力を感じていただき、より良い人材を確保することにも繋がるとうれしいです。
中村 久美子(なかむら くみこ)
社会福祉法人射水万葉会
特別養護老人ホーム二上万葉苑 副主任
南 幸代(みなみ さちよ)
社会福祉法人射水万葉会
特別養護老人ホーム二上万葉苑 リーダー