
「地域密着型病院」を理念に掲げ、茨城県土浦市で地域医療に邁進する医療法人青洲会神立病院。2027年に予定する病院の移転・新築を控え、矢継ぎ早に医療DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいます。理事長の平塚圭介氏に、同病院における医療DXの実際と、その目指すところを伺いました。
医療法人社団青洲会 神立病院(茨城県土浦市)

当院が一番に掲げているのが地域医療です。地域の方々により安心・安全な生活を送っていただくための環境を提供する、それが全てです。
先代理事長の時代から整形外科を中心に診療してきましたし、私の専門も整形外科ですから、その部分でいかに良い医療を提供できるかに腐心しています。病床の構成は、急性期、回復期、療養病棟の3区分。急性期から回復期を経て在宅復帰に至るまで、関連の社会福祉法人も含めたグループとして患者さんをサポートしています。
当院は2年後の2027年に、現在地から数百mほど離れた場所に新病院を建設して移転する計画です。その移転・新築に向けて今、様々な医療DXに取り組んでいるところです。

医療DXの一環で見守り支援システムを導入
当院が位置する茨城県土浦市は、全国的に見ても看護師不足が顕著な地域です。そのため十分な数の看護師が確保できず、病院として手がけたい医療が全て提供できているわけではありません。そんな悩みを解消する武器になるのではないかと期待しているのが、医療DXの一環として導入をすすめている見守り支援システムです。
具体的には、療養病棟の20床に、パラマウントベッドの「眠りSCAN」を導入しました。これは、シート状のセンサーをマットレスの下に敷くだけで、患者さんの呼吸数や心拍数(※心拍・呼吸に相当する体動から算出した推定値をそれぞれ心拍数、呼吸数と表現)、睡眠状態、起き上がりや離床の動作などをナースステーションで把握できる製品です。関連の社会福祉法人が運営する介護老人保健施設やグループホームで使用実績があり、病院でも採用することにしました。
「見守り支援システム」の導入について、私は2つのメリットがあると考えています。1つは病院側のメリットで、人手が少なくても良い環境が提供できるようになり、働く人も安心できます。もう1つは患者さん側のメリットで、その安全がサポートされることは極めて大きいと思います。それだけでなく、今後は見守り支援システムの進歩によって、より詳細に患者さんの状態が把握できるようになり、一層の「環境の安定化」が図られていくでしょう。

一方、診療面における医療DXとしては、手術を支援するための「Makoシステム」を2023年に導入しました。国内で初めて承認された整形外科におけるロボティックアーム手術支援システムで、県内での採用は当院が初となります。これにより手術時にエラーが生じるリスクが限りなく小さくなり、術者のストレスは大幅に軽減しました。
また、やはり県内初の試みとして、バーチャルリアリティ(VR)を活用したリハビリテーション機器「mediVR神楽」も導入しました。仮想空間上の狙った位置に手を伸ばす動作(リーチング)を繰り返すことで、姿勢バランスや二重課題型の認知処理機能を鍛えるリハビリテーションをサポートする機器で、治療効果の向上はもちろん、患者さんのモチベーション向上やコスト削減などのメリットをもたらしています。

このほか試験運用中の医療DXとして、医療文書の完全デジタル化にも取り組んでいます。電子カルテを導入しても、それ以外の文書類を紙で保存していてはデジタル化の恩恵が限定されてしまいますし、保管場所の確保も課題です。2025年4月には、完全ペーパーレス化の本格運用を開始する予定にしています。
エビデンス構築によって看護基準を変えたい
これからの病院に不可欠な医療DXですが、時には現場スタッフが抵抗を示すこともあります。もう10年ほど前のことになりますが、当院で電子カルテの導入を決めたときも、看護師からの猛反対に遭いました。看護師の中には、パソコンを使ったことがない人も多かったからです。
しかし、電子カルテの利点が理解されるにつれて徐々に反対の声は聞かれなくなり、今では紙のカルテに戻すことなど考えられなくなっています。携帯電話も同じで、高齢者であっても一度使えば手放せなくなります。人手不足の解消に効果が見込める見守り支援システムで言えば、その導入によって従来の看護のあり方が変わる可能性もありますが、患者さんのためになる看護とは何かという「看護観」を見直すきっかけになるのではないかと考えています。
一方、見守り支援システムの導入は、人手不足を補う以上の可能性を秘めています。「見守り支援システム」は患者さんの状態を記録しますが、そのデータを解析して活用すれば、例えば転倒のリスクを低下させたり、医師が睡眠薬の用量を減らしたりすることも可能になります。こうしたデータを踏まえ、見守り支援システムが代替できる看護師の業務をエビデンスとして示せれば、10対1や7対1といった現行の基準に代わる、新たな看護基準の検討にもつながると考えます。
見守り支援システムがもたらすエビデンスについては、ある程度まとまった段階で学会発表することが想定されますが、それだけでは広がりに欠けます。同じ志を持った病院が協力し合い、SNS(交流サイト)などを通じて情報を発信していけば、効果的な広がりを実現できるのではないでしょうか。
もちろん、その過程では、パラマウントベッドのようなメーカーの協力が欠かせません。データは解釈することによって初めて意味を持つものだからです。メーカーの方々には、データの分析に必要な事柄を必要に応じてアドバイスしてもらえれば、非常にありがたいですね。医療DXに取り組む病院の良き伴走者となってほしいと思います。
新病院ではリハビリと透析に注力
新病院では、これまで紹介してきた医療DXをさらに発展させていくのはもちろんですが、機能面ではリハビリテーションと透析の充実に主眼を置いています。特にリハビリテーションについては、専用室の面積を含め、環境整備を高い水準で行いたいと考えています。
透析については、現状では行き場が限られてしまう、看護や介護が必要な患者さんの受け入れを進めていく方針です。患者さんがより良い生活を送れるようサポートしていきます。
今の病院が建設されてから既に30年がたちました。その間、社会情勢は大きく変わりましたし、病院の療養環境もより広く快適なものへと変化しています。新病院では、よりさらに患者さんに寄り添った地域医療が提供できるよう努力していきたいと思います。