【お話を伺った方】
独立行政法人地域医療機能推進機構 中京病院手術室看護師長
佐藤 明日美 様 (認定看護管理者&手術看護認定看護師)
独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)中京病院は、名古屋市南部および知多半島を含む医療圏において地域住民のニーズに応え、安心で質の高い医療、専門性の高い医療を提供しています。急性期総合病院としての役割を果たし先進医療を積極的に取り入れ、難治性疾患にも対応できる高機能総合病院としての能力を備えているおり、年間手術件数7,000~8,000件、熱傷センター設置や東海地区での臓器移植を実施しています。さらに小児先天性心疾患にも強みをもっており全国から患者が訪れています。2025年には高度急性期医療施設を集約化した新棟が完成し、救命救急医療、がん診療、急性期疾患診療、災害医療の機能をさらに強化する予定です。
病床数:661床、1日の入院患者数: 497人、外来患者数:1,279人(2017年)
手術部の概要と特徴
手術室は13部屋(バイオクリーンルームが1室)あり、手術台は14床です。年間7,000~8,000件の手術を行っています。対象患者は新生児から高齢者までさまざまで「安全で安心できる手術の提供ができる」を目標に手術に臨んでいます。
地域がん診療連携拠点病院であり、胃がん、大腸がん、乳がんはもちろんのこと他のがんも標準的手術を行っています。腹腔鏡手術のほかにダビンチによるロボット支援下前立腺全摘手術や腎部分切除など、さらに脳神経外科領域の脳出血や脳腫瘍の患者さんも来院されます。
一般的な外科系手術に加えて、先天性心疾患の手術や熱傷、移植手術、眼科の先進的な難易度の高い手術も行っており東海地区4県の中では、熱傷の重症患者や先天性心疾患患者の手術を行っているのが特徴です。当院にはNICCUがあり、そこには心臓外科疾患の子どもたちが入院しています。他院で生まれた赤ちゃんに心臓疾患があれば当院に搬送され、治療して戻るという連携がとられています。
2017年4月より周術期合併症のリスクのある手術を受けられる消化器がん患者さんを対象とした術前外来を立ち上げました。主に外科,麻酔科、 歯科口腔外科、手術看護師、薬剤師,栄養士が担当します。手術全般を熟知している手術室看護師が術前に関わることで、周術期に関する問題の早期解決と、よりよい手術時の看護計画の立案につながり、安全な手術の提供、また、術前の患者さんの不安な気持ちを受け止めることで安心につなげられることを目標としています。
手術室看護におけるQC活動
手術室看護では、看護の質を担保するということでQC活動(小チーム活動)を行い、スタッフたちの教育に力を入れています。たとえば「体温管理」のチームの看護師たちは、患者さんの体温が低下しないようにするにはどうしたらよいか、術中にどのように体温低下が起きるのかなどをチームで学び、低体温にならないようなケアプランを立てる。ほかにも、患者加温装置の使い方を指導したりしながら、ともに学んでいます。
チームは現在、「医療安全」「術前外来・術前後訪問」「情報管理」「記録」「薬品・輸血」「褥瘡」「感染」「体温管理」の8チームあります。各チームが年間目標を立て、それを達成するためチーム活動を通して、看護の質を担保するようにしています。看護の質を高めるといってもすぐにはできず、まずはQC活動から始めて、それがいま軌道に乗ってきて、自分たちで快適にできるようになってきたレベルに達してきました。
認定看護管理者への道
手術看護の認定教育期間は半年間です。その後さらに管理・教育の視点を広げるために看護管理を専攻して大学院で管理・教育について学びました。自分たちが行っている看護行為の根拠を理解し、そして教えることもできて、もう少し効率的に看護師を育てることができるようになりたいと思ったわけです。その後、認定看護管理者の資格を取得しました。
認定看護師の役割
認定看護師になったから終わりということではありません。現場の看護師たちにどれくらい知識を還元できるか、もちろん患者さんにもですが、そう思っています。看護は科学なので、やはり科学的な根拠を用いて、伝えるということが大切です。手術室看護の教育内容は、結構、暗黙知が多い気がします。器械出しも、経験していくと知らない間にできるようになり、そしてベテランになっていく。自転車に自然に乗れるようになるみたいに習得していく。でもそれは、言葉にしないと技術として伝えていくことはできません。
私自身の看護実践が認定看護師としての看護実践なので、つねに役割モデルを示さないといけませんし、実践指導、相談業務というのが認定看護師の役割で、プラス師長という立場でスタッフの看護実践に責任をもつという思いで日々、実践しています。
質の高い看護への取り組み
手術室看護の教育目標に掲げているのは、患者さんの安全が確保されて、質が高い看護を提供することです。では質とは何かというと、やはり患者さんに二次合併症が起きないということだと思います。
そのためには、まずスタッフ教育です。たとえば、患者さんへは滅菌されてものを使うわけですが、でも「ちょっと触れちゃった、2秒くらいならセーフかな、言わなければわからない」とついつい思ってしまいがちです、人間というのは。でも手術室においては「少しでも触れてしまったら不潔である」という概念を身につけさせる。1人の看護師の倫理観も大事ですが「あ、いまので不潔になっちゃいました」と言えるかどうか、そういうことを言える看護師を育てるということです。そういうことをきちんと報告することが重要でそれが安全への第一歩です。
質を高めるということは、ほかに傷を作らないということであったり、低体温にならないように体温管理ができ、そのことで合併症予防につなげられるということだと思います。そして主体性をもってやるということ。言うのは簡単ですが、自分で気づくということが必要かと思います。
体温管理におけるこだわり
私が手術看護認定看護師の研修を終えて戻ってきたときは、加温と保温の違いに関して看護師たちの知識がある人とない人が混在していました。そこでまず、知識の整理・周知から教育を行いました。「麻酔がかかったら、再分布性低体温になるよ」みたいな内容の勉強会を毎年行うという形でした。
最初のうちは私が講師として行っていましたが、そのうちにスタッフたちが新人看護師たちに教えて、知識として身につけていきます。看護計画では、末梢温度と中枢温度の差を縮めることが必要なので「プレウォーミングが必要である」ということがわかり、プレウォーミングを実施すようになりました。そして、それを行うための装置が必要となり、温風式の患者加温装置が全部屋に配置されるようになりました。
看護師たちは体温管理がすごく重要であるということがわかってきました。個々の患者さんの看護問題を抽出して、その問題に対して看護計画を立案します。たとえば、術中の体温低下が問題であれば、体温変化に対する観察と管理は非常に重要となります。まずはプレウォーミングをして、最初の体温は何度で、その後の変動は0.5~1℃以内という目標に向かって介入します。それから、体温のセットポイントのことなどがわかってきて、長時間の手術になると体温低下のことが頭の中にあるので「ホットドッグ」を使うわけです。その結果、シバリングはほぼありません。
ホットドッグ患者加温システムの導入
――導入のきっかけ
当院では長い間、温水式マットを使っていましたが、温風式患者加温装置の有効性が証明されていることなどから徐々に温風式患者加温装置を導入しました。
でももっと急速に患者さんを温めてあげたいケースへの対処として、電気パッド式(熱伝導)で解決できないかと思っていました。実際にホットドッグをデモとして試用し、その必要性は感じていましたが、導入は新型コロナの流行が決め手となりました。ホットドッグは手術室内に空気を排出しないことから、麻酔科医と共にホットドッグの導入を決めました。
――導入して思ったこと
ホットドッグは、患者さんの下に敷くと「熱い」と言われたことがあります。電気パッド式なので電源スイッチを切っても温かさが残ります。急速な加温にはすごく適していると思いますが、熱いとなったときにはすぐには冷めず、そのあたりが弱点でしょうか。冷却機能があればいいかもしれないですね。
また、ブランケットの形がもう少し自在に変えられるといいかなと、フィット感が欲しい。たとえば、熱傷の手術の場合は、熱傷部位は人それぞれで、片側の腕や脚の人もいるし、両腕の人もいる。その場合、ブランケットが自由に形を変えて使用することができないというか、そういった点では、ちょっと使いにくいかもしれません。でもそれは、当院だけの事情かもしれません。とはいっても、全身熱傷の手術のときもホットドックを結構使っています。
三点目は、手術途中で患者さんの体温が低下した場合、ホットドッグを使用しますが、加温ブランケットが少し重い、そして大きい。たとえば、手の部分だけとか太腿部分だけを加温するものがあればいいと思います。全身麻酔ではない意識のある患者さんに掛けるには躊躇します。重たいのではないか、苦しいのではないかと思ったりします。でもそれが悪いということではなくて、温めるときには効果はあると思います。温かいということは患者さんに安心感も与えられますので。
よかった点としては、ホットドッグを使うと患者さんが「あ、温かくなってきた」とすぐ言います。そばにいる看護師たちが迅速な加温の効果を感じるから繰り返しホットドッグを使用しているということです。
ホットドッグは計画性をもって使用する
当院手術室には1セットしかありませんので、ホットドッグを使用しての体温管理が必要であるという判断を看護師がして、きちんとアセスメントして看護計画を立案して使用することにしています。「寒い」といったら即「ホットドッグ」ということではなく、温風式もある状況のなかでなぜホットドッグを選ぶのかという理由を説明できるようにしていて、看護師みんなそう考えて使用しています。たとえば長時間手術で、体温分布が第3層とか4層とかになっていて、プラトーになっている。できることは行っている、でもセットポイントが変わってきているため、やれることはなく、このままだと手術終了までにシバリングが起きてしまうかもしれない。なので、積極的加温ということで、温風式以外にできることという判断をしたときに使用することにしています。基本は温風式で、プラスアルファでホットドッグを使うという形です。
でもいま、ホットドッグを最後の砦みたいにしていますが、そうしなくても、体温管理ができるようになるというのが大事なのかなと思います。道具はどう使うかというのが大事ですね。