周術期看護における体温管理 手術時における低体温の原因と身体に及ぼす影響

2022.05.26

  • クリティカルケア
#製品活用事例 #オピニオンリーダーインタビュー
原 健太朗先生

【お話を伺った方】

原 健太朗

長崎医療センター手術看護認定看護師

長崎医療センターの概要

当センターは長崎県大村市にある643床、37診療科の総合病院です。地域の拠点病院として地域のニーズに応えるために救急医療とがん診療に力を入れております。

1978年に県下初の救命救急センター(2018年に高度救命救急センターに指定)を設置し、2006年からはドクターヘリの基地病院としても対応を行っています。がん診療に関しては、2014年に「県央がんセンター」を開設し、地域がん診療連携拠点病院としての体制を強化しています。また、災害拠点病院として災害時に機動的に対処できる体制を整備しており、さらに新型感染症対策にも力を入れ「感染に強い病院」を目指して努力を重ねております。

手術センターの概要

最良の手術を行うために各診療科医・麻酔科医・病棟および手術室看護師が連携を図り、当地域や患者のニーズに応えるべく以下の特殊性を備えています。

  • 県外・離島・遠隔地からの救急患者搬送に対応して緊急手術を行っている。
  • 周産期母子センターの要望に応え、超緊急手術に対応している。
  • ハイリスク患者(透析合併症例)やリエゾン患者(精神疾患例)など、リスクが高い患者の手術に応じている。
  • 地域連携の一環としてオープンシステムをとっている。
  • 高度先進特殊手術(内視鏡下手術、移植手術、顕微鏡下手術、てんかん手術、脳死臓器提供手術)の施行。

手術診療科:13 診療科

手術室数:10室(バイオクリーンルーム1室、陰圧システム1室)

年間手術症例:約5,200件

手術時における低体温の原因

―― 手術時における低体温の発生機序

麻酔薬が身体に入ることにより交感神経系が遮断されたり、体温調節中枢が抑制されることにより低体温が起こると言われています。交感神経が遮断されることにより末梢血管が拡張し体温が下がる。周術期における低体温の一番の原因は、中枢から末梢に体温が逃げるというような再分布性の低体温ということが言われております。ほかにも、開腹手術や開胸手術によって体温が逃げてしまうこともあります。

―― 術中体温の推移

術中の体温の推移で、第1相、第2相、第3相というグラフを見ることがあると思います。先ほど言いました再分布性の低体温、麻酔薬による影響で交感神経系が遮断されることにより末梢血管が開いて中枢の熱が末梢に逃げる、これが第1相の低体温で大体30分から1時間程度と言われています。このときの体温低下の程度は1~3℃くらい下がるのではないかと。ただこれは、かなり前の先行研究ですから、現在と体温管理方法が少し違う状態かもしれませんが、それくらい下がると言われています。

第2相は、手術が始まってからというイメージです。これが2~3時間程度続く。主に、手術で開腹し手術創から外部へ逃げるような体温で低体温の原因になっています。

それ以降、3時間、4時間になると逃げる熱の量と身体が生産する熱の量が大体同じくらいになり、あまり体温は下がらない。それが第3相で、開いていた末梢血管が身体の反応で末梢血管が閉じて体温をできるだけ逃がさないようにするという身体のしくみ、働きみたいなもので、つまり体温調節機能が働きこれ以上低体温にはならないわけです。

重要なのは、第1相でいかに体温を下げないかというのがキーポイントになります。

低体温がもたらす悪影響

―― 創部感染率が高くなる

術中だけではなくて、周術期における低体温の原因ということになりますが、よく知られていることですが、外科医や麻酔科医、看護師にも影響を与えたのが、術中に低体温を起こすことによってSSI(surgical site infection;手術部位感染)、つまり創部の感染率が高くなるということが言われています。

術後感染を引き起こすことにより抗生物質による治療が追加されたり、感染の種類によっては縫合不全に繋がる可能性もあります。最悪の場合、再手術も考えられます。それによって当然入院日数も延び、医療費も増えるというようなマイナス面に大きく繋がっていきます。

―― 肝臓の代謝機能の低下

また、低体温が起こることによって肝臓の代謝機能が低下してしまう。それにより薬剤がなかなか分解されずに、たとえば麻酔薬が体内に残ってしまい覚醒が遅延することにも繋がります。

―― 血液凝固能の低下

ほかには、術中に低体温に陥ることにより血液の凝固機能が低下すると言われています。ですから、出血のリスクを高めるということにも関係してきます。

私は手術室看護師として14,15年勤務していますが、手術後の患者さんに「手術終わってどうでしたか?」と聞くと、患者さんが嫌だったこととして挙げるのが「痛い」「寒い」の2つがものすごく多い。術後に体温が下がることによって、身体の震え(シバリング)を起こす可能性がありますが、それを起こすことにより酸素消費量も増えたり、不快感にも繋がるということが言われていますので、低体温はできるだけ避けるべき事象かと思います。

日本と海外における体温管理の比較

海外の場合は、中枢温の定義とか体温管理に関してかなり日本よりも厳密に行われています。たとえば、ヨーロッパの体温に関するガイドラインでは、体温の中枢温を図るポイントが決められている。麻酔導入前までに中枢温が36.5℃以下になっていたらインシデントレポートを書く、そういったことが実際行われています。ですから、低体温を起こさず手術室に入ってくるのが決まりになっています。

日本の場合はそこまで厳密には行われていないものの、とはいえ低体温を起こせば、当然、患者さんに悪影響を及ぼしてしまいますので、体温管理はとても重要であることに変わりはありません。

低体温予防のポイント

病棟と連携しながら予防していくことが大切です。何年か前までは、冬でも術衣だけで結構寒い状態で手術室に入室する患者さんが多かった。そういう状況を見て、やはり病棟にいるときから患者さんをしっかり温めてから来るのが重要ではないかということで、手術室に来るまでは、靴下を履いてきてもらうとか、上着を着て温かい格好で来てくださいという文言が書かれた用紙を病棟看護師や手術を受ける患者さんに渡すことにしました。

患者さんは手術を受けるのが初めての方が多く、術衣だけ着てストレッチャーに乗って手術室に入るというような、ドラマのようなイメージをもたれている方が多い。現在は、術前投薬はあまり使われないことが多く、患者さん自身が病棟から手術室まで歩いて入室されることが多いので、しっかりと温かい格好で来てくださいとお願いしております。

手術室における体温管理の取り決め

手術室における取り組みとして、手術室内での低体温予防に関するガイドラインを作っています。たとえば、術前の室温は26~27℃に設定する。術中は特別な手術以外は、下げても23~24℃くらいとする。温風加温器は、術前、術中の温度設定を変えて使用しています。

その他には、保温に関係する掛け物の枚数など細かく決めています。もちろん個人差により枚数の増減はあります。たとえばタオルケットは1枚持っていくとか、バスタオルは3枚持っていくといったように、仰臥位とか砕石位といった手術を受ける体位によって枚数を調整します。以前は看護師によって枚数に違いがありましたが、手術室のガイドラインを作ったことによって、個人差をなくすことができたと思います。

プレウォーミングの重要性

プレウォーミングとは術前加温のことですが、定義づけされていないというイメージです。今回研究を行ってみて、海外文献ではありますが、術前の加温する時間は結構まちまちでした。

日本と海外の違いを見ると、海外では手術前の前室のような部屋があり、そこで温風加温器でしっかりと患者さんを温めてから手術室に入室する形をとっています。術前に患者さんを温めるということが、いかに重要かということです。日本でもプレウォーミングを行っている施設がありますが、海外のように手術室の前室で30分くらい温めているかというと、なかなかそこまでには至っていない施設が多いのではないかと思います。早く麻酔導入して手術を開始しようという施設が多いのかなと思います。

お恥ずかしい話ですが、当院でも術前の30分間、患者さんを温めているかというとそこまではできていない状態です。ただ、患者さんが手術室に入ってから麻酔導入前、手術開始前までは、基本的には温風加温器は止めないようにしています。

最近アッパータイプの温風加温器だけではなくて、アンダータイプのブランケットがありますので、アンダータイプであれば手術開始前まで温風加温器を止めることなくずっと患者さんを温めたまま手術開始までその状態を保つことができます。

他にも電気パッド式加温器もあります。加温マットレスを使用するときには患者さんが入室する前から温めています。39℃くらいまで温められます。主に整形外科の手術で使用することが当院では多いですね。入室10~20分くらい前からしっかりと温めていますので、患者さんを温かいベッドで迎え入れられます。「あー温たたかい」との声を患者さんからよく聞きます。入室時から退室まで切れ目なく温め続けてあげることが大事なのかなと考えています。

また、術中に外回り看護師としてかかわっているとき結構困ることとして、患者さんの中枢温は上がっているけれど、末梢がすごく冷たい状態になっているときがあります。電気パッド式加温器は加温ブランケットで部分的に温めたり、末梢だけを温めることができるので状況に応じて使い分けをしています。

手術中の体温管理の課題と展望

私が日本手術看護学会の学会誌に載せた論文(手術室における効果的なプレフォーミングの検討.日本手術看護学会誌,第17巻第1号,2021年)は、プレウォーミングに関する研究の有無を調べたものでした。結果は、ほとんど海外の研究のみで、日本におけるプレウォーミングの研究はほぼないと言っていい状態で、日本の手術室に関する体温管理の論文はあまりないのが現状かと思います。

こういった状況を踏まえると、課題を挙げるならば、手術室の看護師がしっかりと研究を行って、その結果をエビデンスにできるように論文としてまとめることが必要かと思います。自分の施設だけではなく、その研究論文を見て他の施設の人たちが自分たちも体温管理を行っていこうということにも繋がっていきます。そして、体温管理をすることによって、もっといい体温管理はどうなのかというような、エビデンスの構築にも繋がっていくのではないかと思います。

メッセージ

体温管理に関して、自分たちの施設だけではわからない問題などを他の施設の看護師さんに聞くことによって、明らかになる可能性もあります。さらに、全国に数百人の手術看護認定看護師がおりますので、そういった方たちにコンタクトをとり相談することも必要かと思います。認定看護師には実践指導、相談という役割がありますので、そういった方たちを活用していただければ、よりよい体温管理を築いていけると思います。

原様

●周手術期における体温管理に関する文献

1)原 健太朗,弓削亜矢香,長坂隆史:手術室における効果的なプレウォーミングの検討.日本手術看護学会誌 17(1):141-147,2021.

2)原 健太朗:周術期における術前加温に関する文献レビュー.第33回日本手術看護学会年次大会 15(2):139,2019.

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