2019.11.08
- 床ずれケア
褥瘡予防のリスクアセスメントスケール「OHスケール」の開発者であり、クリニックの院長としてがん治療に取り組まれる傍ら、在宅褥瘡創傷ケア推進協会の常任理事として在宅褥瘡の分野でも精力的に活躍されている、統合医療 希望クリニック 堀田由浩先生にご登場いただきます。
パラマウントベッド(以下、PBとする):OHスケールを開発するにあたって、どのような経緯があったのでしょうか?
堀田先生: 当時は地域中核病院に勤務しておりましたが、入院患者さんの中に褥瘡のある方が多数いました。形成外科医と して、私も全力で治療したのですが、褥瘡患者さんの人数は全く減らず悩んでおりました。
そんな中、創傷被覆材メーカーさんの紹介で大浦先生(※1) にお会いする機会がありました。大浦先生に相談すると「私の作った褥瘡対策プログラムを試してみなさい」とアドバイスをいただいたので、私の勤務する病院にこのプログラムを導入したところ、驚いたことにそれまでいくら努力しても治らなかった褥瘡が治りはじめ、5週間後には褥瘡患者数が34名から7名(約1/5)になりました。
PB: この褥瘡対策プログラムが高い効果をもたらしたポイントはどこにあるとお考えですか?
堀田先生: 第一に、誰でも簡単に使える評価方法で、その評価をスタッフ間で共有できた点です。第二に、褥瘡発生の危険度に応じて体圧分散マットレスのカテゴリーを選べるといった具体的な対策ができる点です。日本人高齢者660人の褥瘡リスクに対する研究から導き出された、実践的なプログラムだったからこそ、短期間で高い効果が得られたと思います。
非常にシンプルなところは良かったのですが、骨突出の危険度を客観的に測定できるツールが必要になり、簡易的な骨突出判定器「OKメジャー」(※2)を開発しました。 そして、臨床での実践、プログラムの改良を経て、現在の「OHスケール」となったのです。
「OHスケール」の普及によって、看護師の意識も変わり、褥瘡対策の結果が出せるようになったことで、褥瘡対策に様々な職種の方が関わるようになったと感じています。
PB: ところで、堀田先生は予防医学の重要性を普及させるため全国各地の研修会で講演されていますが、実効性を上げるた めに工夫されている点はありますか?
堀田先生: 私が院内で褥瘡対策に取り組み始めたころは、「チーム医療」もまだ試行錯誤の時代でした。多職種が連携しての褥瘡対策を病院内に定着させ、成果に結びつけるには、どうすれば良いのか、日夜知恵を絞っていました。
ちょうどその時、病院内では「サービス向上委員会」なる組織が立ち上がり、接遇のプロの講師をお招きして、指導を受ける機会がありました。「挨拶の仕方」や「院内インストラクター養成」などの講習を受けたのですが、その先生のノウハウを実践し、自分のものにしようとチャレンジしたことは、「分かりやすい言葉で伝える」「体験してもらう」です。特に体験については、熱心に取り組みました。というのは、その講師から「言葉だけの説明では15%しか伝わらないが、体験が加わると70%伝わる」という説明があったからです。
PB: 受講者が体験することで、翌日からすぐにケアが変わったといった経験はございますか?
堀田先生: やはり、医療介護用ベッドで背上げしたときの痛みや苦しさの体験でしょうね。
「ベッドで背上げをすると、上半身の体重が臀部に集中し、体重を受ける面積も狭くなるため、体圧やずれ力が上がります」と言葉で説明しても、ピンと来ない方も多くいます。 そのような方も、背上げを体験すると、直ぐにその痛みや苦しさを理解できます。
背上げを体験した方は、自分のこととして理解できるからでしょうか、患者さんへの配慮や観察が変わってきます。「こんなに痛くしてごめんね」と、スタッフが患者さんに謝っているのを聞き、とても感激したことがありました。
PB: 背上げ体験のお話がありましたが、背上げは褥瘡の発生にも影響を与えているのでしょうか。
堀田先生: ステージIII以上の重度褥瘡は体圧分散マットレスを有効活用することでかなり減ってきましたが、ステージIIまでの軽度褥瘡が尾骨に発生するケースがよく見受けられます。
患者さんのお尻の筋肉が無くなっていたり、骨盤の可動域に制限があったりすると、普段はマットレスに当たらないはずの尾骨がマットレスに当たります。
そのような状況で、背上げをすると、身体が足側に滑り落ちたときに、尾骨にずれが加わり、褥瘡の発生につながっていきます。
このずれが最もよく分かるのが、貼付した創傷被覆材が、次の回診時に創部からめくれあがったり、剥がれてしまっている現象ではないでしょうか。
PB: 背上げ時のずれに対しては、どのような指導をされていますか?
堀田先生: まずは、背上げ時のずれの根本原因であるベッドの寝位置を確認してほしいと伝えています。(詳しくは Paramount Medical Report vol.1をご覧ください。)
また、スタッフが交代するとケアが変わってしまうということでは、ずれは防げませんので、寝位置のことも含めてスタッフ全員にずれを防ぐためのポイントを伝えることも重要です。
背抜きも必須ですね。マルチグローブによる背抜きも背上げのときだけでなく、背下げしたときも、必ず実行するように指導しますが、このケアも実際に体感してもらうことで確実に伝わります。
PB: 堀田先生は、以前より在宅の褥瘡対策にも積極的に取り組まれていますが、在宅介護における背上げの重要性とずれ対策については、どのようにお考えでしょうか?
堀田先生: 在宅では、「寝たきりにさせない」ということが一番重要だと考えております。
具体的に申しますと、ベッドによる背上げは、生理機能の 維持向上につながったり、視野を拡大し、視覚からの刺激 を得やすくするなど、不可欠なケアですが、できるだけ痛みや苦しさを感じさせないことが望まれます。
身体に合わない起こし方をすると、ずれによる褥瘡が発生し、患者さんが痛みを訴えます。家族はどのように対応して良いのか分からず、とにかく本人が痛がらないよう、背上げを止めて、安静にしようとしてしまうため、拘縮にな りやすく、寝たきりを作る可能性があります。
パラマウントベッドの新ベッド楽匠Zシリーズは、背上げするときの痛みや苦しさが、とても少ない機構なので、一日も早く在宅介護で普及することを期待しております。
ベッドの活用も重要ですが、患者さんの褥瘡リスクに合わせたマットレスの選択も大変重要だと思います。
PB: 当社は楽匠Zシリーズの動きに合ったマットレスというコンセプトで、3種類のマットレスを用意しております。マットレスの選択も重要ということですが、この3種類の選択方法についてアドバイスをください。
堀田先生: お尻の筋肉が無く、骨が突出している患者さんは、背上げしたときに痛みを感じますので、背上げしないようになってしまいます。
そのような患者さんには、比較的厚みがあり、体圧分散性 能が高い「ストレッチグライド」を使っていただくのがベストです。
骨突出の危険度の判定には、私が開発した簡易骨突出判定スケールによる測定や、名刺入れを骨突出部に入れた体感テストが、適正な判定に結びつくかと思います。
プロフィール
統合医療 希望クリニック 院長
堀田 由浩(ほった よしひろ)先生
1988年 国立三重大学医学部 卒業
1997年 名古屋大学医学部附属病院 形成外科員
2004年 米国アリゾナ大学統合医療 研修生
2008年 なごやかクリニック 床ずれ往診医非常勤
2010年 統合医療 希望クリニック 院長
※1:大浦 武彦 先生
医療法人社団廣仁会 褥瘡・創傷治癒研究所 所長 日本在宅褥瘡創傷ケア推進協会 理事長
※2:OKメジャー(税込 1,250円)
OHスケール用骨突出判定器。 判定器を仙骨部にあてることで、病的骨突出の度合いを簡単に判定できます。
判定器を仙骨部にあてることで、病的骨突出の度合いを簡単に判定できます。
【問合せ先】統合医療 希望クリニック 052-559-2346