褥瘡対策の新機軸「小さな体位変換」をかなえるエアマットレス

2020.11.27

  • 床ずれケア
#製品活用事例 #オピニオンリーダーインタビュー
佐野厚生総合病院の皆さん

患者さんの負担を抑えながら効果的な褥瘡予防ができるとして、「小さな体位変換」が注目を集めています。佐野厚生総合病院(栃木県佐野市)は、この小さな体位変換を自動で実施できるエアマットレス「ここちあ利楽(りらく)flow」(パラマウントベッド社)を活用しながら、入院中の患者さんの褥瘡予防に取り組んでいます。同製品の評価、導入やスタッフ教育に携わった皮膚・排泄ケア認定看護師の中山美智子さん(写真中央)理学療法士の守屋大輔さん(写真右)中山惟人(写真左)さんに、詳しいお話を伺いました。

佐野厚生総合病院

「小さな体位変換」の魅力を広めることからスタート

 ――貴院の特徴:急性期医療を担う地域中核病院

1937年に開院した当院は、高度急性期および急性期医療を中心に、地域包括ケア病棟、療養病棟、精神神経科病棟も備えたケアミックス型の二次救急医療機関として、長年地域の健康を守り支えてきました。5疾病5事業を担う拠点病院として医師会や行政と連携しながら地域に貢献しているほか、2020年4月には栃木県DMAT指定病院にもなり、今後は地域の災害医療も担っていきます。また、2019年12月に新しい電子カルテシステムを導入するなど、医療の標準化・効率化にも積極的な病院です。

※5疾病5事業:各都道府県の医療計画において特に重点的な施策が必要とされている5つの疾病(がん、脳卒中、急性⼼筋梗塞、糖尿病、精神疾患)および5つの事業(救急医療、災害時医療、へき地医療、周産期医療、⼩児医療)のこと。

 ――新しいマットレスの評価、導入に至った経緯を教えてください。

 WOC中山:当院で小さな体位変換機能を備えた「ここちあ利楽flow」(5台)を評価したのは、2020年5月。きっかけは、皮膚・排泄ケア認定看護師の教育課程の中で、私が小さな体位変換について学んだことです。これまでの一般的な看護教育では「体位変換は絶対に必要なもの」と教わってきましたが、それが時として患者さんの負担になるばかりか、かえって褥瘡を発生させる要因にさえなりうることを知り、衝撃を受けました。

 しかし、既存の褥瘡ケアの考え方とは大きく異なることから、小さな体位変換機能を備えたマットレスをいきなり導入しても、病院全体で使いこなすのは難しいと考えました。そこで、まずは小さな体位変換の概念や意義について、スタッフへの教育を優先することにしたのです。

 ――小さな体位変換に関するスタッフ教育は、どのように実施したのですか。

 WOC中山:まずはリンクナース(院内の各種専門チームと病棟看護師をつなぐ役割をする看護師)に小さな体位変換のことを伝え、数年かけて少しずつ各病棟へ浸透させていったというイメージです。また、褥瘡対策委員会が主催する勉強会を体験学習型にシフトチェンジしました。例えば、ポジショニングの良い例と悪い例を自分の身体を使って体感してもらい、「ここを少し除圧するだけでこんなに楽になるのか!」というように「感じて学ぶ」ことを重視するようにしたのです。

 褥瘡対策委員会が主催する勉強会の様子

褥瘡対策委員会が主催する勉強会の様子

PT守屋:リハビリテーションの観点からも、小さい体位変換は意義のある手法だと感じていました。しかし、問題は伝え方です。新しい考え方を受け入れることは決して簡単ではありませんから、興味を持ってもらうきっかけづくりが大切です。そこで意識したのが「看護師自身の負担軽減にも効果的」というメリットを明確に打ち出すこと。実際、小さい体位変換は夜勤の巡回時などの業務量削減につながり、看護師の心身の負担を減らしてくれるものです。

 PT中山:もちろん、患者さんの負担を減らすということが第一義ではあります。仰臥位から側臥位へといった「大きな体位変換」を夜中に行えば、睡眠を妨げてしまいます。大きな体位変換と小さな体位変換を併用して、患者さんが熟睡できれば、日中は元気に活動できるようになり、リハビリテーションもよりスムーズに進むはずです。

ADLの変化に柔軟な対応ができる「ここちあ利楽flow」

――「ここちあ利楽flow」を実際に病棟で使ってみて、どんなメリットを感じていますか。

 WOC中山:患者さんのADLは日々変化していきます。急性期の場合、循環動態が不安定なため不必要な体位変換は実施したくありません。そこで小さな自動体位変換機能により、最適な体圧分散を実現できる点は大きいです。

また、バックサポート(背上げ時の姿勢保持機能)に助けられることも多いですね。患者さんに活動性が出てくると、少しずつ背上げする場面も増えていきます。従来のエアマットレスでは仙骨座りになりやすく、患者さんがベッドの足側に寄ってしまっていることも多かったのですが、バックサポートのおかげでそうしたずれを感じることはなくなりました。

さらにADLが改善して自分で動けるようになると、スモールフロー(小さな自動体位変換機能)の動きを邪魔に感じる患者さんもいます。しかし、「ここちあ利楽flow」は全自動となっている機能をオフにすることも可能なので、シンプルな体圧分散マットレスとしても使用できます。こうした使用できるシーンの幅広さも、このマットレスの魅力ではないでしょうか。

 PT中山:理学療法士の視点からは、マットレス全体が硬くなる「しっかりモード」がリハビリテーションを行う上で便利な機能です。これまで当院で使用していたエアマットレスでは、患者さんが沈み込んでしまうことがありましたが、「ここちあ利楽flow」では、「しっかりモード」のおかけで、端座位の姿勢が安定するためリハビリテーションが行いやすくなったと思います。ベッドサイドに着いたらまず「しっかりモード」のボタンを押し、いろいろと準備しているうちにちょうど硬くなるため、時間のロスもありません。

 ここちあ利楽flow 各種機能に対する院内アンケート結果(6病棟、約160名が回答)

バックサポート(背上げ時の姿勢保持機能)に関するアンケート結果

スモールフロー(小さな自動体位変換機能)に関するアンケート結果

しっかりモード(端座位安定機能)に関するアンケート結果

――「ここちあ利楽flow」の評価が功を奏した事例があれば教えてください。

 WOC中山:「ここちあ利楽flow」は180kgまでの高体重者に使用できることも特徴の一つです。実際に当院で最初に評価した患者さんは80歳代の患者さんで、体重は90kgほどあり、自重だけでも褥瘡ができかねない上、循環動態悪化、浮腫あり、栄養状態不良と、非常にリスクが高い患者さんでした。しかし、「ここちあ利楽flow」を使用してから2か月たっても、介助グローブを用いての除圧や最小限の体位変換だけで褥瘡は発生しませんでした。また、人工呼吸器をはじめとする多数のラインがつながった患者さんでしたが、最小限の体位変換であったことは、患者さんや看護師の負担を大きく軽減したといえるでしょう。

チームとして成功体験を積み重ねたい

――患者さんや他の医療従事者の皆さんは、「ここちあ利楽flow」を使ってみてどのような感想だったでしょうか。

PT守屋:患者さんからは「もっと早くこのベッドに寝たかった」「包み込まれるような感覚で寝心地がいい」といった声が届いています。理学療法士からも「痛みが減って患者さんの表情が穏やかになった」という話を聞きますね。

WOC中山:看護師からも「体位変換の回数が減って患者さんもスタッフも楽になった」「小さい体位変換を取り入れたことで循環動態が改善した」といった前向きな意見が出ています。正直、最初のころは、本当に体位変換をしなくて大丈夫なのかと不安に感じているスタッフが多かったように思います。そこで「何かあったら、いつでも私に相談してください」と伝え、不安の種を一つひとつ解消していきました。

 また、当院にはパラテクノ株式会社のスタッフが月曜日から金曜日まで常駐してくれ、製品のメンテナンスや管理はもちろん、何か困ったことがあればすぐに相談できる環境であった点も大きかったと思います。今では、リンクナースを中心とした多くの看護師が患者さんのADLを的確にアセスメントし、「ここちあ利楽flow」を導入すべきかどうか見極められるレベルにまで到達しています。

病棟からオーダーがあったベッドを搬送するパラテクノ株式会社スタッフ

病棟からオーダーがあったベッドを搬送するパラテクノ株式会社スタッフ

※パラテクノ株式会社…パラマウントベッドのグループ会社で、医療機器等のメンテナンスサービス、施設内常駐型の業務サポートサービスなどを提供している。

――褥瘡対策委員会の取り組みと、今後の目標について教えてください。

 PT守屋:当院では褥瘡対策委員会が中心となって褥瘡回診を実施していますが、単に褥瘡の評価をするだけでなく、ここでも教育という視点を大切にしています。病棟看護師とリンクナースにも回診に参加してもらい、実際の患者さんの状態を確認しながら、最適な処置の仕方やポジショニングについて伝えていきます。その一環として、「ここちあ利楽flow」の使い方についても実践的に説明しています。つまり、褥瘡回診が現場教育の一つの軸になっているといえると思います。

 WOC中山:「ここちあ利楽flow」をデモ評価したことで、重症の患者さんでも褥瘡の心配なく治療に集中でき、早期からリハビリテーション介入できるようになったのは喜ばしいことです。本製品は基本的には全自動で、詳細設定もリモコン一つで操作できます。

 導入後は、看護師が患者さんの状態に合わせてリモコン操作ができるようにするため、簡単な取り扱いマニュアルを作成していきたいと考えています。また看護師だけでなく、より多職種のスタッフがエアマットレスを活用できるように働きかけ、院内全体に周知していきたいと考えています。

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