「タカノクッションR 清拭タイプ」は、老舗メーカーであるタカノ株式会社ブランドのクッションに、パラマウントベッド社オリジナルの耐薬品性の高い清拭できるカバーが付属した車椅子クッションです。熊本赤十字病院(熊本県熊本市)で皮膚・排泄ケア認定看護師として活躍する西村奈緒さんに、本製品の採用に至った経緯、活用事例、メンテナンス方法などについて伺いました。
熊本赤十字病院
西村 奈緒さん
医療従事者以外の声も参考に選定
――貴院の特徴と、車椅子クッションの購入を決めた経緯を教えてください。
1944年に日赤熊本支部診療所として開設された当院は、赤十字の使命である救急医療や災害救護活動に注力し、現在は地域の高度急性期医療を担う総合病院(490床)にまで発展しました。超高齢社会を迎えた今、当院に来院する患者さんも年齢を重ね、身体・認知機能の低下した方が多く、2020年度には院内デイケア※を開設しました。その中には褥瘡リスクの高い方も多く、日ごろから予防的な視点を持ってケアに当たることが必要だと思っています。
※院内デイケア:入院中の高齢者などに日中の離床を促すため、デイケアの形式でリハビリテーションやレクリエーションなどを提供している(現在は感染予防のため、スタッフが各病棟に出向いて実施)。
そうした当院にとって、車椅子クッションは欠かせない福祉用具の一つです。これまでも褥瘡リスクの高い患者さんが車椅子を使うときに活用していましたが、最近になって「枚数が不足している」という声が現場から挙がるようになりました。そこで、皮膚・排泄ケア認定看護師が状況を確認したところ、当時在庫していた車椅子クッション48枚のうち、約半数が経年劣化により使用できない状態になっていました。また、院内で日中に使用する車椅子の台数を計算したところ、約100台であることが分かりました。これは早急に不足分を補うべきだと判断し、さっそく追加購入を検討し始めたわけです。
――各社が様々な車椅子クッションを販売していますが、採用品の選定はどのように行いましたか。
まずは必要枚数の確保を優先するため、予算の範囲内において、よりコストパフォーマンスの高い製品を選びたいと考えました。また、消毒液で清拭できることも希望の条件でした。カバーを洗濯するタイプのものは、洗濯に出してから病棟に返ってくるまでに時間がかかるため、現場で一時的な不足が生じる可能性もあるからです。
もちろん、クッションである以上、座り心地が快適であることは絶対条件です。当初は褥瘡対策委員会のメンバーなどで検討していましたが、各メーカーの製品について事前知識があるだけに、フラットな目線で評価するのが難しいことに気付きました。そこで当院の事務部門の方々に協力してもらい、リハビリテーション室で複数の車椅子クッションを座り比べてもらったところ、最も評価が高かったのが「タカノクッションR 清拭タイプ」(以下、タカノクッション)だったのです。あえて医療従事者以外の意見を聞いたことで、患者さん目線に近いところから選定できたと思います。座面の形状の違いから3種類のラインアップがありますが、当院では前方が高くなっている前ずれ防止タイプを導入しました。
座面形状の異なる3種類のラインアップ
座位安定タイプ
座ったときの臀部と脚部の位置を保持しやすい凹凸をつけた形状です。
長時間座り続けることが多い方に向いています。
前ずれ防止タイプ
体圧分散性と姿勢の安定性を高める、前方が高くなった形状です。
前ずれによる姿勢の崩れが気になる方に向いています。
フラットタイプ
移乗がしやすいフラットな形状です。
移乗回数が多い方に向いています。汎用性が高いタイプです。
絶妙なバランスのカバーがクッションの性能を高める
――実際にタカノクッションを導入して、現場からはどんな声が聞こえますか。
以前使っていた車椅子クッションでは身体の位置が安定せず、患者さんが頻繁に身体を動かすことがありました。しかし、タカノクッションを導入してからは「座り心地が大幅に向上した」という声が多く、「座位が崩れにくくなった」と理学療法士からも好評です。また、本体部分の体圧分散性が高いことに加え、カバーの伸縮性やクッション性、滑らかさが優れていることも実感しています。車椅子クッションのカバーには「滑りすぎると座位が崩れるが、まったく滑らないと座り直しがしづらい」という難しさがあるのですが、本製品ではそのバランスが絶妙です。
――タカノクッションを使用した印象に残る事例はありますか。
当院で車椅子座位が原因での褥瘡はほとんど発生していませんが、過去には発生した事例があったと聞いています。例えば、ある脊椎損傷の患者さんが車椅子に乗れるまでに回復したところ、車椅子座位のために褥瘡が生じてしまったというケースです。そうした背景もあり、最近になって別の患者さんが脊椎損傷で入院してきたときは、「絶対に褥瘡を作らない!」という強い思いを持ってケアに当たりました。
その取り組みの一環として、患者さんにタカノクッションを用いて車椅子座位を取ってもらい、体圧値を測定したところ、なんと40mmHg台でコントロールできていることが分かったのです。これは驚くほど低い数値であり、何かの間違いではないかと測り直したほどです。その患者さんは、一度も褥瘡を生じることなく退院していきました。タカノクッション導入による成功体験として、スタッフ間で共有した事例の一つです。
もちろん、単にタカノクッションを入れればいいというわけではなく、正しく使用するための技術が必要なことは間違いありません。当院では年6回ほど褥瘡予防の勉強会を開催し、毎回約100人の参加者にポジショニングやシーティングの方法など実技を交えて伝えています。2020年度はコロナ禍で集合研修が難しかったので、褥瘡対策委員会とリンクナースによる小規模な伝達講習を開くことで、各病棟にその知見を持ち帰ってもらいました。私たち皮膚・排泄ケア認定看護師は、毎日全エリアを巡回し、褥瘡リスクの高い患者さんすべてに予防ケアをできるわけではありません。「最近、どこからも呼ばれないな」「私の仕事減ったな」と思えるくらい現場のスタッフが考え、実行できるように支援していくことが、私の役割だと思っています。
車椅子を正しく使用するポイント
めざすのは「座れてよかった!」の一歩先をゆくケア
――タカノクッションのメンテナンス方法について、以前のクッションとの違いを教えてください。
新型コロナウイルス感染症の拡大により、医療現場ではより厳密な感染対策が求められるようになりました。導入当時、こうした事態になるとは考えてもいませんでしたが、消毒液で簡単に拭き上げられるタイプを選んでおいて本当によかったと思います。部署ごとに必要枚数を管理・メンテナンスしてもらい、基本的にはアルコール消毒液で、失禁などの汚染がある場合は次亜塩素酸ナトリウムで清拭を行っています。
また、以前使っていた車椅子クッションはカバーを外して洗濯するタイプだったのですが、洗濯後にカバーの前後が逆にセットされてしまうことがありました。そして、「前」「うしろ」とカバーに印字されていただけに、クッション自体を前後逆の状態で車椅子に置き、そのまま患者さんが座ってしまうケースも……。タカノクッション導入後は、こうしたエラーは起こっていません。
――福祉用具をスムーズに購入してもらうためのポイントがあれば教えてください。
当院では、日中に約100台の車椅子を使用していますが、そのすべての患者さんが車椅子クッションを必要としているわけではありません。冒頭でもお話しした通り、既存の車椅子クッションのうち20枚強はまだ使える状態だったので、タカノクッション60枚を追加購入し、現状では合計80枚ほどを保有しています。これは現場のニーズに対してまったく不足のない数量であり、むしろ「少し余裕がある」くらいです。
ここまで病院として車椅子クッションの購入に積極的になってくれたのは、製品選定時に購入管理課を巻き込んだことも影響しているかもしれません。車椅子クッションあり/なしの状態で座り比べてもらい、どれだけ大きな差があるかを体感してもらいました。どれだけ口頭で説明を重ねるよりも、実際に試してもらうことが一番だと思います。また、クッションは「消耗品」であり、数年後に買い替えが必要なことをあらかじめ説明しておくことが重要です。
ベッドに臥床していた患者さんが車椅子に座れるようになると、本人はもちろん、医療従事者もうれしい気持ちで満たされるものです。しかし、「長時間座れるほどいい」という思いが強くなりすぎ、思考停止してしまうようであれば問題です。車椅子座位にも褥瘡のリスクがあることを認識し、適切な圧抜きや車椅子クッションの使用などを通して、予防的に介入する必要があります。「車椅子に乗れてよかった!」で終わらせるのではなく、「その後」に目を向けたケアの重要性を、これからも伝え続けていきたいです。