パラマウントベッド社の「サイドレールカバー」は、ベッド柵(サイドレール)を包み込んで高齢者の皮膚をスキン-テアから守る目的で開発されました。しかし、最近では精神科病棟の患者さんをケガなどから守るために使われるケースも増えています。そうした使い方の実例と効果について、三河病院(愛知県岡崎市)の看護部長・太田智香子さんにお話を伺いました。
リニューアルオープン時にサイドレールカバーを一新
――まずは貴院の特徴や、地域で果たす役割などについて教えてください。
当院は、2021年4月に創業82年を迎えた、歴史のある精神科病院です。2019年に建て替えを行い、従来の精神一般病棟(60床)、精神療養病棟(60床)に加えて児童・思春期病棟(30床)を開設し、全面的にリニューアルオープンしました。この児童・思春期病棟は、東海地方の民間病院としては初めて開設されたものですが、当院の理事長(大賀肇先生)の専門が児童精神科であることが大きく関係しています。当院が所在する愛知県西三河地区に限らず、県内の他地区からも児童相談所経由で受診の相談がかなり多く寄せられており、現在では児童・思春期病棟の患者さんの約半数が児童相談所経由で入ってきています。
外来では作業療法とデイケアを提供していますが、「ジュニア」という別枠を作っていて、週1回、児童・思春期の年齢に当たる子どもたちがやって来てプログラムをこなしています。訪問看護の対象も、児童・思春期の子どもが3割くらいいる状況です。デイケアに通っている小中高生はなかなか学校に行くことが難しいのですが、デイケアに参加することを「登校」とみなしてくれる学校もあります。ご家族と作業療法士が連携しながら、デイケアでどう過ごしているかという情報を学校と共有したり、作業療法の中で学校に行く練習をしたりということも行っています。
――貴院がリニューアルオープンする際、サイドレールカバーも一新したということですが、それはどのような理由からですか。
病院の建物自体が古かったこともあり、10年ほど前までは、入院している患者さんが畳に布団を敷いて寝ていることもありました。それは良くないだろうということで、全室フローリングに改装した上、ベッドを購入したり、足りない分は他の病院さんなどから譲り受けたりして療養環境を整えてきたという経緯があります。
そのようにしてそろえた結果、様々なタイプのベッド柵が混在することになりました。中には、「そのベッドには適合しないベッド柵を付けてしまっている」こともあり、安全面に大きな課題があったのです。それどころか、百均のお店で買えるような、プラスチックを段ボール状に成型したボードを、結束バンドで柵にくくり付けて使っているケースもありました。もちろん、それは容易に破損してしまい、そうなるたびにスタッフが修理に追われるという状況でした。
――導入前の検討段階では、スタッフの皆さんにサンプルを試用してもらい、意見を吸い上げたそうですね。
複数のタイプを試用させてもらい、クッション性や安全性がどうだったか聞き、それを参考にして決定しました。サイドレールカバーは、衝撃吸収性に優れたウレタンフォームのクッションが入っていて、患者さんの身体がベッド柵にぶつかったときのダメージを軽減するものですが、ウレタンフォームの厚さが1cmと3cmの2タイプがあります。また、カラーバリエーションが4パターン(スカイブルー、ライトピンク、ライトグリーン、ベージュ)あるので、どれがより圧迫感の少ない色なのかということも検討のポイントでした。結果として、当院ではウレタンフォームの厚さ3cm、ベージュ色のものを選びました。
ちなみに、サイドレールカバーは防水仕様で、耐薬品性も高いため、消毒用アルコールや次亜塩素酸ナトリウムでの清拭消毒が可能です。コロナ禍の感染対策において、スタッフの業務負担の軽減につながっています。
サイドレールカバーで精神科病棟の患者さんを守る
――病棟のベッドやベッド柵に起因する事故としては、どんなものがあるでしょうか。
例えば、カバーが付いていないベッド柵の間に指や腕を引っかけて骨折やケガをします。電動ベッドを上げたときに柵との間にできた隙間に挟まったり、ベッド柵を乗り越えて転落したりということもあります。子どもの場合は、ベッド柵の間に頭や足を突っ込んでしまったり、注意欠如・多動症(ADHD)のためにベッドサイドで走り回り、ベッドやベッド柵に激突したりということもありますね。
精神科の患者さんの場合、危険な行為をしていても、それが危険だと思えない方もいます。一般の病院でも起こりうる事故ですが、精神科病院ではもっとリスクが高いといえるため、サイドレールカバーが患者さんの安全に貢献する部分は大きいと思います。
頻度は高くないですが、パニックになった患者さんがベッドやベッド柵に頭をガンガン打ち付けてしまうというケースもあります。そういう患者さんについては、そもそもベッドを使わないでマットレスだけで過ごしていただく対応をしています。
それから、ベッド柵を患者さんが勝手に外して脇に置いてしまうこともありましたが、サイドレールカバーを導入してからはなくなりました。カバーがあることで、柵だということを意識させない効果もありそうです。
――転倒・転落リスクが高い患者さん、希死念慮がある患者さんについてはどうでしょうか。
ベッド柵は転倒・転落リスクを下げるために役立つので、入院時にスクリーニングとして転倒・転落リスク評価を行い、そのリスクが高い患者さんについては必ずベッド柵+サイドレールカバーを取り付けています。
自殺を試みるケースでは、ベッドやベッド柵、ドアノブ、廊下の手すりなどにひも状のものをくくり付けることがあります。このうち少なくともベッド柵については、サイドレールカバーがあることで自殺企図のリスクを下げていると思います。ベッドを低床にして、仮に何かを引っかけて身体を預けても強い力が加わらないようにすることも対策の一つです。ただ、環境に気を配ることでリスクを下げることはできても、完全に防ぐことは難しいといえます。本当にやろうと思えば、ベッド以外のところで、自身が着ている服を使ってでもできてしまうので…
――安全を追求するあまり、必要以上にベッド柵で囲って患者さんの自由を奪うと、身体拘束になってしまいます。貴院ではどのように運用しているのでしょうか。
「ベッド柵を四点にして降りられないようにしよう」と考えたところで、どうしても降りたい患者さんは柵をまたいででも降りますよ。そうなったら、柵をまたぐ分だけ高いところから落ちることになり、ダメージが大きくなります。ベッドを壁際に寄せて二点の柵で囲うのも同じことです。
そもそも、転倒・転落リスクが著しく高いのであれば、ベッドを使わなければ大きな事故には至りません。その上で、スタッフが注意深く見守り、必要に応じて対策を取ることが大切です。転倒・転落の原因が筋力低下であれば歩行訓練を取り入れるというように、別のアプローチで転倒・転落リスクを下げる意識を病院全体で持つことも欠かせないと思います。
サイドレールカバーに関するアンケート調査結果(一部抜粋、N=44) |
Q1.サイドレールカバーの導入により 、患者さんの安全はどうなりましたか?・安全につながった:44人 ・安全につながっていない:0人 |
Q2.前問で「安全につながった」と回答した方は、その理由を教えてください。・頸部や四肢の柵への巻き込みを予防できている。 ・柵による身体圧迫のダメージを軽減できている。 ・カバーが柔らかいので、頭などをぶつけてもケガをしない。 ・ソフトな質感で皮膚の損傷(スキン-テア)を防いでいる。 |
Q3.サイドレールカバーの導入前後で、ケアが変わった点があれば教えてください。・柵に手や足を挟まないように、枕などで予防する必要がなくなった。 ・体位変換やおむつ交換時、柵の隙間から手足が落ちなくなり、やりやすくなった。 ・安楽枕がベッド下に落ちることがなくなった。 |
Q4.サイドレールカバーの導入により、清掃のしやすさはどうなりましたか?・清掃しやすい:42人 ・清掃しにくい:2人 |