小児の褥瘡ケアの現状と今後の課題~NICU、PICU、小児病棟の症例に見る

2022.04.20

  • 床ずれケア
#症例 #オピニオンリーダーインタビュー
小児の褥瘡ケアの現状と今後の課題~NICU、PICU、小児病棟の症例に見る

褥瘡は成人の創傷と思われがちですが、新生児を含めた小児にも発生します。そのケアについては、まだ十分なガイドラインがなく、各病院、各医療者が試行錯誤しながら行っているのが現状です。小児の看護に長年携わっている皮膚・排泄ケア認定看護師の鎌田直子さん(兵庫県立こども病院)に、小児ケアの現状と課題をうかがいました。

【プロフィール】

兵庫県立こども病院 皮膚・排泄ケア認定看護師 鎌田 直子 様

兵庫県立こども病院 皮膚・排泄ケア認定看護師

鎌田 直子 様

兵庫県立こども病院看護部に所属。外来ではストーマ・排泄外来、二分脊椎外来、皮膚・排泄看護外来などの患者のケアにあたる。褥瘡管理者として褥瘡対策に関わるカンファレンス、褥瘡回診、職員研修などを行う。

ウレタンフォームマットレスで対応する小児の褥瘡ケアの現状

あまり注目されることのない小児の褥瘡ですが、以前から小児に携わる医療の現場では課題になっています。患者の絶対数が少ないことから、ケア用品が成人向けのように充実しているわけではありません。日本褥瘡学会が2016年に発表した『実態調査委員会報告』(*)によると、小児専門病院の総患者2604名に対して褥瘡有病者39名。発生場所は施設内が約90%で、褥瘡有病率は1.5%です。なお、調査対象の施設が387病院のなかで小児専門病院は12施設(3%)に過ぎないことからも、小児の褥瘡という分野が、とても小さいことがうかがい知れます。

(*)第4回(平成28年度)日本褥瘡学会実態調査委員会報告
http://www.jspu.org/jpn/info/pdf/survey4-1.pdf

——はじめに、褥瘡リスクの高い小児患者について教えてください。

基本的に、自力で動くのがむずかしい患者さんです。たとえば手術後に鎮痛剤、鎮静剤を投与されて活動が低下している方などがリスクの高い患者になります。いわゆる「寝たきり」になると褥瘡リスクが高まるのは成人と同じです。ただ、寝返りをする前の乳児の場合はもともと除圧する動きはありませんから、月齢に合わせて活動性が低い、成長に応じた活動のない乳児がリスクの高い患者にカウントされます。

床ずれの発生要因
床ずれの発生要因

※Braden , B.j. ,Bergstrom ; A conceptual schema for the study of the etiology of pressure sores, Rehabi.Nurs 1987;12(1):8-12

——近年、医療的ケア児が増えていますが、褥瘡のある小児も増えているのですか?

医療的ケア児の疾病や症状はとても広範なので、イコール褥瘡ハイリスク患者になるわけではありません。ただ、人工呼吸器を利用している0歳〜4歳の医療ケア児の増加は顕著です。人工呼吸器を使う小児は重症度が高い傾向があるので、その点では、褥瘡ケアの必要な小児の増加とつながるかもしれません。

——小児専門病院で受け入れる患者さんは、体重1000gに満たない新生児から、時には100kg近くもある学童〜青年期という幅広さがあります。小児と成人の褥瘡の違いについて教えてください。

乳幼児の場合は体重が軽いので自重関連褥瘡が少なく、医療関連機器による圧迫創傷の率が高いのが特徴です。また、体の大きさに対して頭部が大きいことから、小児の自重関連褥瘡は後頭部に発生しやすい点が成人との大きな違いですね。

前出の日本褥瘡学会の「実態調査報告」(2016年)によると、自重関連褥瘡ができる部位は、一般病院では仙骨部34%、踵部12%と、合わせて5割に近いのに対し、小児専門病院ではそれぞれ30%、5.0%と半分以下になります。一方で、後頭部15.0%(一般病院0.6%)、耳介部20.0%(一般病院0.8%)と頭部の割合が高くなっています。

——小児の褥瘡ケアのどんな点に苦心、工夫されていますか?

鎌田 適切なケアを行うためには、患者の褥瘡リスクを診断する「リスクアセスメント」が重要なのですが、厚生労働省の「褥瘡に関する危険因子評価票」は高齢者に使いやすいスケールです。この評価票を小児を対象とする各施設が、各施設の現状に合わせてアレンジして使っており、まずリスクアセスメントのむずかしさがありますね。

また、小児の褥瘡ケアの場合、使える用品が限られています。体格に応じた適切な体圧分散マットレスを使う必要があるのですが、体重10kg台以下の患者さんに使えるエアマットレスがありません。今は体重に応じたウレタンフォームマットレスがベストの選択で、リスクに応じて硬さや反発度の違う製品を組み合わせて対応しています。

兵庫県立こども病院における病棟ごとのケース

鎌田さんが勤務する兵庫県立こども病院における小児の褥瘡の症例をご説明いただきました。

NICUにおけるケース

NICUでは、在胎28週未満の超早産児、体重1000g未満の超低出生体重児を多く受け入れています。リスク要因として、生まれてすぐ昇圧剤や鎮静剤が投与されること、皮膚が未成熟であり非常に脆弱であること、すぐに栄養を投与できず、栄養状態の不良につながるおそれが高いこと、また、皮下脂肪が乏しく骨の突出が著明なことなどがあげられます。

28週未満の超早産児は、ストレスや不安定な循環動態により容易に脳室内出血を起こすため、出生後72時間は、子どもにストレスをかけないよう、安静が保持されます。体位変換もできないことが多く、後頭部や背面に褥瘡ができるリスクが高いのです。状態が安定し、体位変換可能となって、褥瘡を発見するケースもあります。

ケア(介入方法)としては、体重に合わせたウレタンフォームマットレスを使用します。
循環動態が不安定で体位変換ができない場合は、体の下に手を入れてマットレスを押し下げ、一時的な除圧行為を行います。
ただ、超低出生体重児にとっては、マットレスを1cm押し下げるだけでも大きな変化が生じます。
人工呼吸器などさまざまな医療機器を装着していますので、その機器の位置をずらさないためにも、除圧行為には細心の注意が必要です。

生後72時間が経過し循環が安定しはじめたら頭部のみ小さく向きを変える、体圧分散マットレスの下にリネンなどを入れて身体の傾きを変えるなどの除圧ケアを行います。
いずれのケアも主治医と看護師でカンファレンスを行い決定します。

鎌田様

PICUにおけるケース

乳児期の活動性の低い患者さんが多いので、褥瘡発生部位は頭部が多いのが特徴です。当院の場合、褥瘡発生リスクの高いケースとして、気管形成手術後の筋弛緩剤や鎮痛・鎮静剤を使っている患者さんが挙げられます。

手術部位の安静を保つために、体をねじるような体位変換ができません。体軸をねじらず姿勢を保ちながら、肺理学療法を目的として、患者さんを体圧分散マットレスを敷いた板に寝かせて、定期的に傾きを変える処置を行います。一見体位変換の目的を達しているように見えますが、患者さんの身体の同じ部位が板に接するので、傾きによるずれも加わり、褥瘡の好発部位である後頭部の褥瘡発生が多くなります。

ケアはNICUのケースと同様、乳幼児に使えるエアマットレスがないため、ウレタンフォームマットレスを組み合わせて使います。できるだけ骨突出部位とマットレスの接触部位を大きくし、沈み込ませて体圧を分散させています。

小児用体圧分散マットレスと成人用体圧分散マットレスを組み合わせて使用
小児用体圧分散マットレスと成人用体圧分散マットレスを組み合わせて使用

その他小児病棟におけるケース

年齢、体格ともに広範な患者さんがいらっしゃいますが、褥瘡発生リスクの高い重症心身障害児のケースをご説明します。

重症心身障害の患者さんは活動性が低く、除圧できる有効な体動がありません。褥瘡のリスク要因はさまざまですが、多臓器の障害や摂食障害のため、低栄養になりがちです。体格の特徴としてやせていると骨突出が著明になり、側弯などの体幹の変形のため局所に圧迫がかかりやすく、また不随意運動により皮膚の摩擦が生じやすく褥瘡発生のリスクは高いです。

小児集中治療室でのケアの様子
小児集中治療室でのケアの様子

お子さんによっては自分の取りやすい好む姿勢や体位が決まっていて、その場合同じ部位に圧がかかりやすい状況になります。好まない姿勢を取ることにより、呼吸状態が悪化したり、不随意運動が増えたりするため、効果的な体位変換ができないというむずかしさもあります。オムツを使用している患者さんも多く、皮膚の浸軟が原因の褥瘡も見られます。

また、多くのお子さんはコミュニケーションが取りにくく、自分から痛みを訴えることが難しいため、褥瘡の発見が遅れることもあり、看護師や保護者の観察がより重要になります。褥瘡の発生部位は様々ですが、頭部、とくに耳介部が多いです。

エアマットレスの開発を! 小児の褥瘡ケアの課題

——小児の褥瘡ケアの課題について聞かせてください。

先述の重症心身障害の患者さんは、基本的に在宅療養です。病院だけの介入では適切な褥瘡ケアはできません。褥瘡ケアについて小児ならではの特徴や方法について、訪問看護師や訪問医はもちろん、福祉用品を扱う事業者とも情報共有する必要性を感じています。もちろん、日常的に介護される方の負担も考慮されなければならないでしょう。

鎌田様

行政に関わる点としては、在宅ケアの患者さんが褥瘡予防用具を使用する際、小児では介護保険が使用できないため、家族が高額の負担を強いられることがあります。公的助成にも年齢の制限があります。何歳からでも、どこに住んでいても、必要な支援を受けられる体制づくりも必要と考えています。

また、小児用のエアマットレスの開発が望まれます。大人用のエアマットレスが転用できればいいのですが、乳幼児に使用できるものはありません。現在のウレタンフォームを組み合わせて使用する方法では限界があると感じています。できるだけ早く、開発されることを期待しています。

在宅療養中のケア方法の理解、介護の負担軽減、ケア用品の充実。小児ならではの課題がいくつも浮かんできました。鎌田さん、本日はありがとうございました。

鎌田様

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