現場で根付いているケアは、習慣化しているがゆえに、見直される機会がないまま実施され続けることが多いといえます。しかし、佐賀県医療センター好生館(佐賀県佐賀市)は、よりよい体位保持のために、従来の習慣的な対応を見直してポジショニング用品「バナナフィット」(パラマウントベッド社)を導入しました。その後、患者さんの反応や看護師の業務負荷はどう変化したのでしょうか。
【お話を伺った方】
佐賀県医療センター好生館 皮膚・排泄ケア認定看護師
江口 忍 様
従来の「当たり前」を見直し、最良のケアを追求
――まずは、貴院の特徴と地域で果たしている役割を教えてください。
当院の歴史は古く、第10代佐賀藩主・鍋島直正公が1834年に創設した「佐賀藩医学館・医学寮」に源流があります。2013年に現在の嘉瀬地区に新築・移転し、現在は34の診療科と450の病床を擁するまでになりました。ドクターヘリの協力病院であり、県の中核医療機関として地域連携にも努めています。「好生」という名前には「心身ともに健康で生きがいのある人生を送る」という意味が込められており、その名に恥じぬよう、患者さんやご家族、そして地域の皆様の心に寄り添った最良の医療を目指しています。
――貴院で「バナナフィット」を導入したきっかけを教えてください。
適切な褥瘡予防や、よりよい安楽の提供を目指して、ポジショニング用品を見直したことがきっかけです。本製品を導入する前、当院には2サイズ(60cm/40cm)のピロー型クッションがあり、患者さんの体型や姿勢に応じて組み合わせて使っていました。ただ、それでは1人につき複数個のクッションが必要になるので、数が不足する病棟もありました。足りないときは、薄い布団やベッドパッドを丸めてクッション代わりに使っていたのですが、「この方法で本当にいいのか?」「最適なポジショニングを提供できているのか?」と葛藤する日々だったのです。看護部長に相談したところ「良い看護をするためには、良いグッズも必要です。これを機会にポジショニング用品を見直し購入しましょう」と部長の一言がきっかけとなりました。
よりよいポジショニング用品を導入するにあたっては、日ごろから褥瘡関連の学会や展示会に出向いていたので、そのときに知った「バナナフィット」を候補に挙げました。そして、緩和ケア病棟で機能性や感触を試したところ、「体位保持しやすい」「使いやすい」と現場スタッフの評価が高かったことを受けて本製品の導入を決めました。耐熱性や耐薬品性に優れ、清拭や洗浄がしっかりとできる点も安心でした。医療現場で使う製品であり、ましてやコロナ禍という状況なので、感染対策に関しても慎重に吟味したことは言うまでもありません。
抜群の安定感・安心感で高評価
――「バナナフィット」を実際に使ってみて、患者さんの反応はどうでしたか。
患者さんの反応を見るにつけ、導入してよかったと実感しています。特にそう感じるのは、疼痛や呼吸苦を抱えている患者さんが多い急性期や緩和ケアの病棟です。中には、オーバーテーブルにもたれかからなければ苦しくて仕方ないという方もいます。そうしたとき、左右の殿部の下に本製品を差し込むと、除圧できると同時にベッド上での座位が安定します。また、身体の形にぴったりフィットするので、安心感があるようです。「苦痛が取れて楽になった」「とても気に入っています」といった患者さんの声が、本製品のよさを物語っています。
また、手でグッとつかみやすい素材なので、患者さん自身で扱いやすいところも好評です。つい先ほどまで身の置き所なくつらそうにしていた患者さんが、本製品を抱きかかえて気持ちよさそうに眠っている場面を目にすることもあります。まるで全身の不快感が優しく包み込まれているようで、「本当に安楽を提供できているか?」と葛藤していたかつての日々を思うと胸が熱くなります。
――「バナナフィット」を導入して、ケアやリハビリテーションに変化はありましたか。
看護師のケアは、以前に比べてスマートになりました。例えば、側臥位を保持する際、導入前は2~3個のクッションをベッドサイドに運び、患者さんの身体が安定するための当て方を模索していました。しかし、今は本製品が1つあれば解決します。しかも、製品自体にモデル図が描かれているので、そのイラストを見れば当て方に頭を悩ませる必要はありません。
また、いくつもクッションを使うと、患者さんがほんの少し動いただけで、クッションの一部がずれたり床に落ちたりすることがあります。これでは体位が安定しないどころか褥瘡リスクにつながる上、看護師が体位を保持し直す必要があるため業務負荷にもなっていました。しかし、本製品の導入後は、そうした問題は起こらなくなりました。
2~3個のクッションを使用すると姿勢が崩れることが多かったため、看護師の業務負担増大につながっていた。
身体をしっかりと支えられ、姿勢の安定保持につながったため、看護師の業務負担軽減につながった。
理学療法士からの評判も非常によく、患者さんを待たせることがなくなったということです。以前は、看護部が管理していたピロー型のクッション(各病棟で保管)のほかに、理学療法士たちが独自に管理していたポジショニング用品(リハビリテーション室で保管)がありました。リハビリテーションは患者さんのベッドサイドで行われることもありますが、そのときに理学療法士管理のポジショニング用品を急に使いたくなった場合は、リハビリテーションを中断してリハビリテーション室まで取りに戻るというのが従来のやり方でした。こうしたやり方では患者さんを待たせてしまう上、リハビリテーションそのものにかける時間が短くなってしまいます。しかし、各病棟に置いてある本製品を使うようになってからは、その心配もなくなりました。
ちなみに、「レディスライド」も活躍してくれています。最も重宝しているのは、安楽の提供が最優先となる緩和ケア病棟です。この病棟では、人の手が余計な刺激となり、必要以上の負担をかけてしまうこともあります。そこで、体位変換時に本製品を活用することで、患者さんに対する刺激が最小限になるよう努めています。同時に看護師の負担も軽減してくれるので、ないと困ってしまうほど頼りにしています。
身体の下に敷いた後、そのままサッとスライドさせるだけで体位変換できる、ロール状のスライディングシートです。
習慣に縛られない柔軟な発想でニーズを満たす
――「バナナフィット」を導入する際、院内にどう普及・浸透させていきましたか。
初めの一歩として導入前の説明会を実施し、パラマウントベッド社の担当者に本製品の特徴や使い方を解説していただきました。院内から参加したのは、褥瘡担当のリンクナースです。実際に本製品を手に取りながら説明を受けたので、理解がグッと深まったと思います。
次のステップとして、リンクナースが各病棟のスタッフに動画を使って説明しました。パラマウントベッド社が作成した動画がとても分かりやすかったので、忙しいスタッフたちも面倒がらずに応じてくれました。また、先ほども言ったように、製品自体に描かれたイラストを見れば、誰でも瞬時に使い方を思い出すことができます。こうした配慮が行き届いているからこそ、現場にもスムーズに浸透していったのだと思います。
――「バナナフィット」の導入後の効果を感じていますか。
本製品を用いて体位保持や体圧分散を行うとともに、スキンケアやテープの適正使用を行っています。当院において自重関連による褥瘡発生率は高くなく、褥瘡予防はうまくいっていると考えています。また、数値では測りきれない安楽の提供にも効果を発揮していると考えています。
習慣や思い込みに縛られていると「ポジショニング用品は褥瘡予防のためだけに用いるアイテム」と考えがちですが、緩和ケアや術後の患者さんが疼痛や呼吸苦による苦痛を和らげるために使ってもいいのです。実際、本製品はさまざまな患者さんのニーズを満たし、さらには医療従事者の業務負担を軽減してくれる優れモノです。引き続き、柔軟な発想で活用しながら、褥瘡予防のみならず安楽の提供に努めていきたいと思います。