看護師がいるべき場所はベッドサイド セル看護提供方式®の導入で業務パフォーマンスの最大化を目指す

2024.04.08

  • 床ずれケア

患者さんにもっと寄り添った看護をしたい――。本来あるべき看護の在り方を実現するために、小松市民病院(石川県小松市)はセル看護提供方式®を取り入れています。近年、注目度が高まっているセル看護提供方式®とはどのような内容で、導入によって現場はどのような変化を遂げたのでしょうか。同院看護部長の湯野智香子さんに伺いました。

【お話を伺った方】

小松市民病院 看護部長  湯野智香子 様

小松市民病院 看護部長

湯野智香子 様

もっと患者さんに寄り添うため、看護方式を一新

――まずは、貴院の特徴と地域で果たしている役割を教えてください。

1950年11月に石川県厚生連農業協同組合から譲渡を受けて市立小松病院が設立され、1989年4月に新築移転して名称を国民健康保険小松市民病院に改称しました。石川県の南加賀医療圏(小松市・加賀市・能美市・能美郡川北町)人口約 22万人の中核医療機関で、地域医療支援病院、救急告知医療機関、地域がん診療連携拠点病院などさまざまな機能を担っています。コロナ禍においては、第二種感染症指定医療機関として専用病棟を確保したり、2024年1月の能登半島地震では災害拠点病院として被災した医療機関や傷病者への支援に注力したりと、様々な側面から地域を支えています。診療科は28、病床数は340床(一般病床300床、精神病床26床、結核病床10床、感染症病床4床)です。

――看護部の概要を教えてください。

2024年3月1日現在、看護職員は298人(看護師292人、准看護師6人)、看護補助者は48人です。離職率(正規職員)は約5%で、常に経験豊富な看護師が側にいて、心強く、頼れる環境であり、当院の強みと考えリクルート時のアピールポイントにしています。特に子供を持って働く看護師が80%ですので、お互い支え合い、思いあいながら働き続けられる看護部です。

――貴院で取り入れているセル看護提供方式®とは、どのようなシステムですか。

セル看護提供方式®とは、飯塚病院(福岡県飯塚市)が開発した「患者や看護師にとって利益にならない“ムダ”を省いて、ケアの受け手の価値を最大化すること」を目指す看護提供方式です。
従来の看護方式では、ケアや処置が終わった看護師はすぐにナースステーションへ戻り、他のナースコールに対応したり、記録に取りかかったりすることが普通でした。しかし、看護師が本来いるべき場所はナースステーションではなく「患者さんのそば」、つまりベッドサイドであるはずです。本システムは、これまで当然と思われていた看護の在り方を根底から見直し、ムダを徹底的に省くことで、業務パフォーマンスが最大化するように作られています。

――導入のきっかけについて教えてください。

より安心・安全な看護を患者さんに提供したいと思ったことが、一番のきっかけです。かつて当院では、緊急入院が非常に多い、入退院支援や手厚い介助を要する患者さんが増加するなど、人員確保が難しい中で多重課題に直面していました。結果的に看護師の心身の負担が増し、インシデントやアクシデントの発生につながっていたのです。観察が必要な患者さんはナースセンターの近くにいてもらうことで対応することも多く、看護部は変革の必要性に迫られていました。

そうしたとき、前看護部長がDiNQL大会(日本看護協会主催)で出合ったのが、セル看護提供方式®だったのです。看護師がベッドサイドにいる状態を維持できれば、患者さんに対する観察の精度が上がり、転倒・転落や床ずれなどのリスクを最小化できるはず。また、導入を機に業務の効率化や負担の軽減が実現すれば、看護師の充実感や働きがい、ワークライフバランスの向上にもつながると期待しました。米国の研究※では、患者看護師比が1増えるごとに患者死亡率が7%増加、看護師の情緒的消耗や職務不満足度の上昇に関連すると報告があります。
本来の看護業務を全うできるように環境を整えるため、導入を決意しました。

Dr.Aikenらの研究(JAMAに掲載)・対象 1998~1999年米国ペンシルバニア大学から収集した23万件の退院データと1万人の看護師(質問紙調査)

2018年度から飯塚病院へ視察研修に出向いたり、看護部内で意見交換を重ねたりしながら導入の準備を開始。2019年8月に、全部署でセル看護提供方式®の導入に至りました。現場の声を聞きながら微調整を重ね、4年以上が経過した今、本システムの「醸成期」に突入した感覚です。北陸3県を含む他県から多くの病院関係者が視察に訪れており、注目度の高さを実感しています。
また、飯塚病院のご支援を頂き、2023年11月3日「Let‘s チャレンジ セル看護」と題してセル看護推進研究会第1回北陸地方会を開催しました。

セル看護推進研究会第1回北陸地方会のお知らせ
セル看護推進研究会第1回北陸地方会 スタッフの皆様(前列左から3人目が湯野看護部長)

■看護業務における「3つのムダ」を徹底的に省く

――業務のムダを省くとは、具体的に何を指すのでしょうか。

セル看護提供方式®が考える看護業務のムダとは、「動線のムダ」「記録のムダ」「配置のムダ」の3つを指します。1つ目の「動線のムダ」というのは、あらゆる看護業務を患者さんのそばで行えるように工夫し、ベッドサイドとナースステーション間の移動を省くというものです。

これまでは、ナースコールが鳴るたびに看護師が病室へ向かい、対応が終わると再びナースステーションに戻るという往復を繰り返していました。ところが、導入後はナースコール音がピタッとなくなりました。看護師がそばにいれば患者さんはナースコールを鳴らす必要がないし、たとえ鳴ったとしてもすぐ消音・対応できるからです。「病棟にはナースコール音が付きもの」というイメージを覆すこの光景に、視察者の皆さんはとても驚いていました。「ナースコールのコンセントを抜きましたか?」と聞かれたこともあるくらいです。視察後、さっそく本システムを導入したある病院からは、「病棟が本当に静かになり、半年足らずで見事に現場が変わりました」と報告を頂きました。

ベッドサイドで業務を行う看護師

また、物品の表示や配置の見直し・標準化も同時に行いました。どの病棟でも統一した方法で医療資材を管理することにより、「探す手間」が大幅に減りました。表示に色やイラストを活用したことで、部署異動や応援業務に対応しやすいことはもちろん、外国籍の看護助手にも分かりやすくなったと思います。なお、この取り組みは、日本看護協会の「先進事例アワード2022」において奨励賞を受賞しています。

色やイラストを活用した医療資材管理 改善前と改善後
日本看護協会「先進事例アワード2022」 表彰式の様子

――2つ目の「記録のムダ」についても、詳しく教えてください。

働き方改革の一環で2021年度に看護師の業務調査を行ったところ、16時以降の看護記録が時間外労働の主な要因だと判明しました。そこで、記録にかかる時間や記録するタイミング、記録すべき内容について改善するため、次世代型の看護記録システム「チームコンパス」(INNOXIA社)を2023年5月から使用しています。それ以降、記録を後回しにせず、廊下やベッドサイドでタイムリーに入力できるようになりました。この変化により、記録にかかる時間がグッと短縮され、時間外労働の解消につながりました。

また、入力画面を開くと記録をナビゲートしてくれるので、用語や観察項目が一斉に標準化されたことも大きいです。以前は、看護師が叙述的な長々とした記録を残しても、次の勤務者や他のチーム医療メンバーが目を通す時間がなく、利活用されていないという問題がありました。どの看護師の記録も簡潔で分かりやすくなった今、記録の意義はこれまで以上に増していると感じます。

■「看護を語り合う専用の時間」がもたらす好循環

――3つ目の「配置のムダ」については、どのように省くことができましたか。

看護師の配置を見直し、看護師1人当たりの受け持ち人数や重症度の偏りをなくしました。当院では、看護師1名が3~5人/日勤を受け持ちます。

また、同じ勤務帯の看護師が同じタイムスケジュールで動くスタイルに変えたところ、看護を語り合う時間を持てるようになりました。これまでは「看護師Aはバイタルサインを測った後にケアをする」「看護師Bはケアをした後にバイタルサインを測る」といったように、動き方が一人ひとり異なりました。その上、看護師の力量はバラバラなので、定時前に記録まで終えているスタッフがいる一方で、定時を過ぎてもケアが終わっていないスタッフがいるという状況だったのです。全員がタイムスケジュールに沿って業務に当たることで、互いの動きが把握でき、補完に入ることも容易になりました。

各病棟2~3つのブロックに分けており、看護経験年数などを考慮してブロック編成を行っています。リーダーができる看護師や新人看護師の配置など、ブロックごとの力量がほぼ均等になるようにしています。また、毎日のスケジュールの中に申し送りとは異なるブロックカンファレンスの時間を設けています。ここでは、患者さんに対する考えや思いを自分の言葉で語り合う思考発話を促進し、「看護の思考」と「看護実践」を離さない「実践型看護過程」を取り入れています。この取り組みにより、各自の看護観を高めるだけではなく、チームワークの活性化にもつながっている印象です。そして、それらがすべて患者さんの看護に還元されるという好循環が生まれています。

ブロックカンファレンスの様子

――看護師の皆さんの反応はいかがですか。

自分たちで生み出した時間が、看護ケアにしっかりと生かされているようです。その一例が、床ずれケアの改善。患者さんに向き合う時間が増えたことにより、背抜きや体位変換などのケアをタイミングよく、あるいは頻回に実施できるようになりました。看護師がベッドサイドにいるからこそ実現できる、細やかで即時的な対応といえるでしょう。他にも、「忙しくて後回しになりがちだった洗髪ケアが、今日は2人の患者さんに提供できた」「ゆっくりと会話しながら患者さんの爪を切ることができた」などと、笑顔で話す看護師が増えました。
また、ワークライフバランスにおいても、「帰宅後に犬の散歩ができるようになった」「お風呂を楽しむ時間が増えた」といったうれしい声が届いています。セル看護提供方式®に魅力を感じて、当院に入職する看護師も増えているほどです。

ありがたいことに、さまざまな場面でセル看護提供方式®導入の成果を感じています。しかし、これで終わりではありません。今以上に安心・安全な看護を提供していけるよう、引き続き、よりよいシステムに磨き上げていきたいと思います。

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