回復期リハビリテーション病院における床ずれ対策に迫る

2025.03.24

  • 床ずれケア

回復期リハビリテーション病院や介護施設では、ADL(日常生活自立度)が低い患者さんが多いことなどから、床ずれの発生を完全に防ぐことが難しい現状があります。そこで今回は、床ずれ防止に注力して成果を上げているメリィホスピタル(広島県広島市)の取り組みをご紹介します。同院で働く皮膚・排泄ケア特定認定看護師の松本典子さんに、床ずれの発生状況や対策についてお話を伺いました。

【お話を伺った方】
松本典子様(メリィホスピタル 皮膚・排泄ケア特定認定看護師)

回復期リハビリテーション病院で床ずれの発生リスクが高まる理由

――まず、貴院の特徴についてご紹介ください。

当院は、広島市内で高齢者施設などを複数展開する医療法人社団八千代会の系列病院です。「医療と介護は究極のサービス業」という信念の下、常におもてなしの心を大切にしながら患者さんに接しています。2018年に開院し、現在は20の診療科と199床を擁しています(回復期リハビリテーション病棟102床、地域包括ケア病棟50床、緩和ケア病棟 47床)。急性期での治療を終えた後、いわゆる回復期に該当する患者さんが多く入院していて、地域の他院からの受け入れも積極的に行っています。

――実際、床ずれの発生状況はいかがですか。

私が当院に入職する前に勤めていた急性期病院と比べると、床ずれの発生リスクは高いと感じます。その要因の一つは、ADLが低い患者さんが大半を占めていることです。当院は回復期リハビリテーション病院のため、急性期病院で救命・手術・治療を終えた後、在宅生活に移行することが難しい方や継続的な医療を必要とする方が多く入院しています。患者さんの平均年齢は85歳と高齢で、しかもADLは日常生活自立度B~Cランク(寝たきりに該当)と低い方が大半なので、床ずれが発生しやすい状況にあると言えます。

また、終末期の患者さんに生じる防ぎ切れない床ずれ(KTU)も散見されます。「栄養状態が悪い」「皮膚が脆弱である」「骨の突出が見られる」「呼吸状態を改善するための背上げによりずれが生じる」「医療用麻薬を使用しているために皮膚の痛みに気付きにくい」など、さまざまな発生リスクを抱えた患者さんに関わることが多いです。当院に転院してくる際に「床ずれはない」と情報共有されていたものの、実際に患者さんの皮膚を確認すると表面が赤黒く変色していて、すでにDTIだった――といったケースもあります。

床ずれ防止に向けてWOCによる指導と対策

――どのような対策や教育をしているか教えてください。

皮膚・排泄ケア認定看護師(WOCナース)として、院内および系列施設において、床ずれに関するすべての相談に対応しています。私が大切にしているのは、とにかくフットワークを軽くし、相談があればすぐに現場へ駆け付けること。そして、床ずれが発生した要因をスタッフと共に考え、一緒にケアに取り組むことです。発生したこと自体を責めても仕方がありません。「なぜできてしまったの?」などと問い詰めるのではなく、まずは相談しやすい雰囲気をつくることが重要です。根拠を示しながら丁寧に楽しく指導することで、スタッフの納得感を高め、より効果的なケアにつなげられるよう心がけています。
また、当院はスキンケアに力を入れており、入院患者さんに週3回の入浴ケアを実施しています。絶対安静の指示がなければ、気管切開中の患者さんや人工呼吸器を装着している患者さんも含め、すべての方が対象です。入浴後は、母体である八千代会グループ内で開発した植物由来のオイル「Mesoins(メソワン)」を患者さんに塗布し、しっかり保湿しています。

Mesoins(メソワン) ボディーオイル

――指導と対策を強化した結果について教えてください。

もちろん、状態によっては軟膏の塗布や特別な処置が必要な場合もありますが、基本的なスキンケアを改善することの重要性をひしひしと実感しています。実際、私が入職した当初と現在を比べると、床ずれの発生率は約2%低下するという成果も出ています。これからも、「洗浄・清潔・保護・保湿」というスキンケアの基本を徹底し、さらなる改善を目指していきたいと思います。

教育面では、皮膚・排泄ケアの強化を目的に、当院独自で認定している「褥瘡院内認定看護師」という制度を設けています。具体的には、皮膚・排泄ケアに関する資料を作成し、院内のどこからでもアクセスして学べるようにしています。勉強した内容をチェックし、合格した看護師は褥瘡認定シールを名札に貼ることが出来ます。
それ以外にも勉強の機会を積極的に設けており、院内だけでなく系列施設にも定期的に訪れて、介護職を含めたスタッフへ勉強会等を行っています。また当院の介護スタッフは多国籍なため、ひらがなで記載した資料や動画を活用し、おむつの正しい当て方やスキンケアの基礎知識などを分かりやすく指導しています。

圧再分配への理解を深め、高リスクの患者さんにも安楽を

――明日から実践できる床ずれ対策についてアドバイスをお願いします。

すぐに実践できる取り組みとしてお勧めしたいのは、身体にかかる体圧を自分の手で実感することです。床ずれを発生させないためには圧再分配が重要ですが、その原理を頭で理解するのは難しいこともあります。そこで当院では、介助用グローブや市販のビニール手袋をはめて、患者さんの体の下に滑り込ませる体験をしてもらっています。医療用の手袋ではゴム素材が摩擦を生んで身体の下に入りにくいため、スルッと滑るものを選ぶことがポイントです。

介助用グローブを使用したとき
市販のビニール手袋を使用したとき

患者さんの身体の下に手を入れてみたスタッフは、床ずれが発生しやすい場所にいかに体圧がかかっているかを実感できるようで、「これでは床ずれが発生しても当然ですね」と驚くような反応がよく返ってきます。ここで、ポジショニングを整えて圧再分配を行い、再度手を入れてもらうと、今度は体圧が改善していることを感じてもらえるわけです。測定器を使って体圧を数値で確認する方法もありますが、「本当だ!」「なるほど!」という体験型の学びの方が記憶に残りやすく、圧再分配に対するスタッフの理解が深まり、患者さんへのケアがより効果的になると考えています。

――地域医療を支える基幹病院として、他機関とはどのように連携されていますか。

勤務先に関係なく、WOC同士の横のつながりを大切にしています。日頃から連絡を取り合える関係を築き、分からないことがあればお互いに相談し、スタッフへの教育や患者さんへのケアがより充実するよう高め合っています。

また、退院した患者さんで引き続き床ずれケアが必要な場合は訪問看護師に同行させてもらっています。経過を観察し、本人だけでなく家族の相談や不安にも対応しています。床ずれだけでなく、その他のスキントラブルやストーマなど、皮膚に関連する悩みは退院後も続くことが少なくありません。だからこそ、訪問看護師と一緒に、継続的に関わることで解決を図っています。こうした活動は診療報酬の加算※にもつながるので、病院の経営に貢献できるという側面もあります。

※在宅患者訪問看護・指導料

当院のスタッフは、床ずれが発生しやすい状況にある患者さんを目の前にしながら、「どうすれば患者さんに安楽を提供できるか」というテーマに日々向き合っています。私もWOCナースとして、引き続きこの重要なテーマに果敢に取り組み、よりよいケアを提供できるよう力を尽くしていきたいと思います。

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