産む力・生まれる力を最大限に引き出す、助産師主導のお産のカタチ

近年、お母さんの主体性を尊重するフリースタイル分娩が注目を集めており、自分の選んだスタイルでの出産を希望するケースも次第に増えているようです。助産師が主体となり、より自然なお産の実現を追い求めている湘南鎌倉バースクリニック(2016年開院)を訪れ、助産師長の松本智恵さんにお話を伺いました。

鎌倉バースクリニック看護師長_main.jpg湘南鎌倉バースクリニック
助産師長 松本智恵さん

 

助産師の一貫したサポートで実現する自然なお産

 

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――湘南鎌倉バースクリニックの特徴、特に助産師の業務内容について教えてください。

当クリニックの一番の特徴は、「お母さんの産む力」と「赤ちゃんの産まれる力」を最大限に発揮してもらい、より自然なお産を実現しているところです。そのために重視しているのが、14人の助産師が主体的に動き、産前から産後までを総合的にサポートすること。お母さんと赤ちゃん、そしてご家族に対して、助産師が継続的に関与するスタイルです。

例えば、産前に実施する外来の妊婦健診においても、メインとなって妊婦さんに関わるのは助産師です。合併症がある場合など、特に医学的な管理が必要なケースでは医師にも健診へ入ってもらい、胎児超音波スクリーニングで詳細に胎児の状態を把握するなどして出産の方法を検討しています。

実際のお産に際しても、リスクが低いことが事前に分かっていれば、基本的には助産師だけで対応します。医師は分娩室には入らず近くで見守っていてもらい、万が一トラブルが起こったときにはすぐに対応してもらうというイメージです。

産後も継続的に助産師が関わっていくため、「顔見知りの助産師さんたちがずっと一緒にいてくれる」という安心感をお母さんに持ってもらうことができます。一貫性のある支援を通して信頼関係を築き、お母さんに寄り添うクリニックを目指しているのです。

また、2016年に開設されたばかりでもあり、クリニックの施設自体が美しいということもアピールポイントだといえると思います。木のぬくもりや間接照明を生かしたロビーは、まるでホテルのようだと言っていただくことも多いですね。また、病室は完全個室となっており、プライバシーに配慮した空間で落ち着いて入院生活を送ることができます。19床の中にはスタンダードな和室・洋室があるほか、家族と過ごせる広々とした空間を備えたスペシャルルームも設けています。

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温かみのある和室 

――本院である湘南鎌倉総合病院と緊密に連携しているそうですが、具体的にはどのようなことでしょうか。

例えば、母体である湘南鎌倉総合病院とはカルテを共有しています。当クリニックで出産できるのは比較的リスクが少ないケースですから、帝王切開の既往があったり、心臓病や高血圧などの持病があったりする場合は、湘南鎌倉総合病院での出産をお勧めすることになります。しかし、出産のリスクをどの程度に見積もるかは、妊婦さんの状態によって様々。一律に判断できるものではないため、本院とクリニックの助産師が協力し、カルテを確認しながら合同カンファレンスを重ねていきます。お母さん自身の希望や医師の見解も踏まえて、どちらでどのように出産するのがベストかを検討するわけです。

もともと、本院で働いていたスタッフの一部が当クリニックに異動しているので、メンバーの多くはかつての同僚たちでもあります。一緒にお母さんを支える「チームの一員」としての意識が高く、日々の連携も非常にスムーズですね。定期的な合同カンファレンスはもちろんのこと、気軽に電話をして「一度、そちらで健診して意見を聞かせてくれる?」などと依頼することもあります。

ケースによっては、お母さんに出産の途中で本院へ移動してもらうこともあります。あらかじめ救急搬送することも想定して話し合いを重ねているため、その場合でもお母さんをお待たせすることはありません。逆に、本院ではお産だけを行い、産前の健診や産後の入院はクリニックで、ということもあります。

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出産を迎えるまでに伝えるべきこと、聞いておくべきこと

 

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――出産までのお母さん(妊婦さん)との関わりにおいて、ポイントとなるのはどんなことでしょうか。

いわゆるフリースタイル分娩を実現するためには、妊娠中の体づくりが欠かせません。産前には、出産の際に欠かせないストレッチや呼吸による体の緩め方を習得できる「マタニティー・ヨーガ」や、体力維持に効果的な「マタニティービクス」のクラスを開催し、積極的に参加してもらっています。最近では、鎌倉の建長寺を訪ねての「マタニティー座禅」というプログラムを始めました。座禅の「自然に身を任せる」「無になる」という感覚は、出産にも通じるところがあるようです。

もちろん、お産に関する知識を学んでもらうことも重要です。母親学級と両親学級をダブルで行い、お母さんにもお父さんにも出産について知ってもらうことを大切にしています。これらの学級で講師を務めるのも助産師ですが、「オキシトシンの働き」「医療介入」といった一部のプログラムは医師が担当しています。心も体も準備万端でお産に臨むことで、体の持つ自然な働きを上手に使って出産できる方が多いですね。

もう一点、外せないのがバースプランの作成です。決まった書式に書き込んでもらい、どのような点を大切にしたいのか明らかにしていきます。私たちが特に注目しているのは、どうすればその人がリラックスできるかということ。「柑橘系のアロマが好き」「足湯に入りたい」など、できるだけ具体的に希望を聞いておくことが大切です。また、赤ちゃんが産まれたときにどうしたいかも、この時点で確認しておきます。例えば、誰がへその緒を切りたいのか、誰が真っ先に抱っこしたいのかといったことですね。このとき、お母さん自身はもちろんですが、ご家族の希望も把握しておくようにします。

――出産は助産師さんの介助がメインとのことですが、どのように動くものなのでしょうか。

お産の当日は助産師1~2人が付きっきりになり、お母さんが不安を感じないように配慮しています。分娩室には必ず2人以上の助産師が入り、お産を介助します。長い時間がかかることもありますから、お母さんの気持ちが萎えてしまわないように励ましたり、何気ない会話を続けたりすることも、助産師の大切な仕事の一つです。

当クリニックでは、お母さん自身が受け入れているのであれば、誰でも立ち合い可能としています。ご家族やご親戚はもちろんのこと、ご友人が一緒に出産を見守っていただいてもかまいません。あるケースでは、お母さんのご両親やごきょうだいも含めて7~8人が立ち会ったケースもあり、さすがに私たちもびっくりしましたが、アットホームでにぎやかな出産となり、皆さんとても満足そうでした。

逆に、「出産に集中するため立ち合いを遠慮してほしい」と考える妊婦さんも少なくありません。それを本人から言いづらそうであれば、助産師が間に入って説明することもあります。こうした細かい対応で不安を解消し、お母さんには安心してお産に臨んでほしいと思っています。

使用感の良い授乳チェア(HugHug)新生児ベッド(KB-115)に感動

――出産後のお母さんにも継続的に関わるそうですが、どのようなタイミングで介入するのでしょうか。

まずは、2週間健診や母乳外来で、赤ちゃんとお母さんの健康状態を確認していきます。産後うつを予防・早期発見するためにも、1か月健診のタイミングより一足早く介入することに大きな意義があると感じています。赤ちゃんの体重の増減や黄疸の有無などについても、この段階で確認しておくことが重要です。

通院が難しい場合は「産後訪問」を申し込んでもらい、助産師が自宅まで伺うこともあります。逆に、自宅にいることが不安だったり、お母さんにリフレッシュが必要だったりする場合は、「産後デイケア」で日帰り入院してもらうことも可能です。赤ちゃんのお世話を助産師が手伝いながら個室でゆっくり過ごしてもらう内容で、昼食・おやつ付き。「実家にも夫にも頼れず、全然眠れない」といった悩みを抱えているお母さんも多いため、ぜひ気軽に活用してほしいですね。

産後、お子さんが少し大きくなったら、「産後ヨガwithベビー」「アフタービクスwithベビー」「おとあそびクラス」などのプログラムに参加するお母さんも増えています。さらに、年3回の「ベビー同窓会」や予防接種などで来院される方も多く、そこで気軽に育児相談してもらったり、お母さん同士で仲良くなったりすることもあります。私たち助産師としても、出産に関わったお子さんが元気に成長している姿を見るのが大きな喜びとなっています。

――授乳チェアの「HugHug」や新生児ベッド(KB-115)を導入されているそうですが、使い心地はいかがですか。

当クリニックでは産後は母児同室で、母乳ケアも早期から実施しています。全室に備えている授乳チェアの「HugHug」は、背もたれ部分にはまっている授乳クッションが取り外しでき、授乳の際に疲れがちな腕の負担を軽減してくれます。アームレストの位置や椅子の高さも工夫されているようで、足をしっかり踏ん張った姿勢で授乳できます。産後の疲れて傷付いた体に、とても優しい作りだと思います。助産師から使い方を説明すると、皆さん授乳の際には必ずといっていいほど使っていて、「自宅に持って帰りたい」という声が出るほどです。

新生児ベッドは、洋室の場合はそのままお母さんのベッドの横に置きますし、和室の場合にはかごの部分だけを取り外して使用しています。クリアな透明のかごですから、真横から見ても赤ちゃんの様子がはっきりと分かります。「一緒に寝ているきょうだいの寝相が悪くて、赤ちゃんがつぶされないか不安……」と言うお母さんも多いのですが、かごを活用することで安心してもらえます。本体のキャスターが大きいため動きやすく、小回りが利くため、助産師にも好評ですね。また、かごの角度を変えることもできて、げっぷが出にくい赤ちゃんの場合は頭部を少し上げておくといった工夫も簡単です。3~4か月くらいの赤ちゃんまで入るので、病室はもちろん、外来で使用することも少なくありません。

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授乳チェアの「HugHug」。座面の中央内部に空洞があり、産後の局部痛を軽減してくれる。
第11回キッズデザイン賞 奨励賞 キッズデザイン協議会会長賞、第5回かわいい感性デザイン賞 企画賞を受賞。

 

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手前の新生児ベッド(KB-115)は、若葉をイメージした丸みのあるフォルムが特徴。2007年にグッドデザイン賞を受賞している。 

――今後は、どのようなクリニックのあり方を目指していくのか教えてください。

私自身、以前は湘南鎌倉総合病院に勤務していましたが、クリニックの開設とともにこちらへ異動してきました。専門クリニックとしてお産のことに集中してケアできる環境で、様々な病気を抱えた患者さんが訪れる総合病院とはまた違った魅力を感じています。おかげさまで、オープン当初から少しずつ取り組みを拡大していき、現在では多くのお母さんとお子さんを支えられるようになりました。今後は、育児サロンのさらなる充実を図るなどして、お母さんやお子さんがもっと気軽に立ち寄れるような場を作りたい。そのために助産師長として頑張っていきたいと思っています。

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