
母子ケア
胎児の状態を把握し、安全に出産を促すためのCTGとは
母親の胎内で成長してきた胎児は、出産を境に自分の力で成長していくことになります。出産に際しては医師をはじめ、助産師、看護師がそれぞれの役割を果たし、安全に生まれてくるように細心の注意を払います。その時に、胎児の状態を把握するための情報がCTGです。
最近では分娩の兆しが確認されると産婦は掛かり付けの病院に入院をするのが一般的です。その際、CTGを用いて、胎児の状態(well-being)を把握するための処置を行います。ここでは分娩における胎児の状態を的確に判断するためのCTGの概要について見ていきましょう。
CTG(胎児心拍数陣痛図)とは何か
CTGとは、胎児心拍数と子宮の収縮圧を時間経過とともに記録をしたものです。胎児心拍数陣痛図(CTG:Cardiotocogram)と呼ばれます。
母体の腹壁にトランスデューサーと呼ばれる計測用の機器を装着して、胎児の心拍数の状態と、胎動や子宮収縮に対して胎児の心拍数がどのように変化するかをチェックするために用います。
胎児の心拍数の変動を確認することにより、胎児の中枢神経系や循環系機能を経時的に知ることができます。また、胎児の心拍数は胎児の自律神経によってコントロールされているものであるため、胎児の心拍数の変化を分析すれば、その時の胎児の中枢神経系の働きがどうなっているかを評価することができます。
では、分娩中に監視装置を使った、胎児の心拍数を記録や胎児の状態を把握は、いつごろから始まっていたのでしょうか。FHRモニタリングと呼ばれる胎児心拍数の記録は、1960年代初めには行われていました。その目的は胎児の低酸素・酸血症を早期に判断し、適切な処置を施すことで、分娩中の胎児の死亡や新生児の死亡を防ぐためです。FHRモニタリングは胎児の健康状態を把握する一般的な方法とされました。そしてFHRを確認する方法として、胎児聴診器、トラウベ、ハンドヘルドドップラー超音波装置、CTGが用いられるようになりました。
CTGで何を見るのか
子宮にいるときの胎児は安定している状態であり、ストレスを受けていない状態であるとされます。しかし、出産がはじまり、陣痛(子宮収縮)が起こると胎児にとってストレスがかかります。その時の胎児の様子を把握するためにCTGのグラフは有効であるとされています。
胎児基礎心拍数
子宮収縮のない間に確認できる安定した心拍数のことを基礎心拍数といいます。
正常値は110〜160bpmとされ160bpm以上になると頻脈と判断されます。逆に110bpm以下の場合は徐脈と判断されます。
*bpm=beats per minute:1分間の拍動数
胎児心拍数基線細変動
胎児心拍数基線細変動は副交感神経を介して行われる中枢性の心拍コントロールの状態と、心臓が持っているコントロールの状態を把握するためのグラフです。
1分間に2サイクル以上の胎児心拍数の変動を表し、振幅、周波数とも規則的でないものをいいます。また、細変動の振幅の大きさによって4段階に分類されます。
① 細変動消失:肉眼では認められない
② 細変動減少:5bpm以下
③ 細変動中程度:6〜25bpm
④ 細変動増加:26bpm以上
基線細変動は中程度の6〜25bpmのものを正常としています。
一過性頻脈
一過性頻脈というのは、心拍数が開始からピークになるまでの時間が30秒未満で起こり、急速な増加を示したもので、開始からピークまでが15bpm以上、元に戻るまでが15秒以上2分間未満のものを指します。
胎児が健常である場合、一定の割合で胎動が起こります。胎動は胎児にとって軽い運動と同じ程度の刺激となり、心拍数が増加するきっかけになります。一過性の頻脈はそうした胎児が刺激を受けたことで発生した心拍数の増加を示しています。
逆に一過性の頻脈が発生していない状況というのは、胎児が動いていないことを示します。何らかのストレスがかかって、動きを止めていることを示していると考えられます。
一過性徐脈
基本的に、一過性徐脈は圧変化か低酸素によって発生するとされています。また一過性徐脈にはいくつかの種類があるので、それぞれの原因を理解し、判断することが重要です。
CTGで分類されている一過性徐脈は以下の4種類です。
- 早発一過性徐脈:子宮収縮とほぼ同じタイミングで起こります。収縮曲線のピークと心拍曲線の谷が一致するグラフを描きます。原因は児頭内圧の一時的な亢進によるものと考えられます。
- 遅発一過性徐脈:子宮の収縮開始にくらべるとやや送れて起こる徐脈です。収縮曲線がピークに達してからも徐脈が続き、収縮が終わったあとも心拍数が収縮前の数値に戻るまでしばらく時間を要します。
予定日超過のほか何らかの胎盤機能不全や子宮収縮剤の影響なども原因となるケースがあります。
- 変動一過性徐脈:早発や遅発の徐脈と異なり、心拍数が急速に下降したり、一定の形を示さなかったり、または前後に頻脈を伴うなどの特徴があります。
急速に低下する原因は、圧変化による迷走神経反射が出現するためのものなどが考えられます。
一定の形を示さない原因は、子宮収縮に伴う場合は圧迫の場所や程度が一定ではないためとされます。また臍帯巻絡や卵膜付着などに原因がある場合も考えられます。
- 遷延一過性徐脈:心拍数の減少が15bom以上であり、開始から回復するまでに2分以上10分未満の波形を示したものをいいます。遷延一過性徐脈の場合は、低酸素によるものが最も危険であるため、「単発で発生したものかどうか」「先に一過性徐脈で観察されているものは何か」「波形はどういう変化をとっているか」などを総合的に判断する必要があります。
子宮収縮
妊娠中にも不規則に弱い子宮収縮が起こりますが、一般的には分娩中に起こるものを指します。子宮が張った状態になったり、硬く収縮した状態になったり繰り返しながら、子宮口が開き、胎児が通りやすい状態へと変化します。その様子をモニタリングし、胎児のストレスを判断する材料にします。
CTGの重要性とは
CTGは胎児の状態を把握するために重要なモニタリング方法で、このシステムを活用して分娩中の胎児の状態を把握することは、安全な出産を促すことにつながっています。
しかし、CTGによるモニタリングをするためには産婦(母親)の腹部に装置を取り付けなくてはなりません。つまり出産をする母親にとっては、身体を一部拘束された状態となり自由度を制限されるため、不快さを感じる人も少なくありません。
CTGモニタリングをしないで出産をする母親の場合とくらべると、装置をつけることによるストレスは高く、快適性の面では劣るものとなります。では、健康な妊婦であり、妊娠中に課題点などが見当たらないケースでは、不快さをともなうCTGによるモニタリングは不必要なのでしょうか。
そうとは断言できません。近年は高齢出産を経験する産婦も少なくありません。また胎児にとって分娩中はさまざまなストレスを伴い、原因不明の急変が起こることもあります。時間経過とともに変化する胎児の心拍数、子宮収縮の状態を並行して記録することは、急変に対応する手立てとなり、より安全で確実な出産を維持するものとなります。健康に過ごしてきた妊婦であっても、分娩時にCTGによるモニタリングは有効であるといえます。
出産において最重視すべきは母子の安全という考えにおいて、CTGを活用して、それを正確に使える医療環境が必要であることを認識しておきましょう。
