医療的ケア児がいきいきと暮らすために ~在宅ケアと社会に残された問題~

医療的ケア児とは、呼吸のために気管切開をして機器を装着していたり、食事のためのチューブを胃に通していたりなど、日常的に医療ケアを必要とする子どもたちのことです。医療の進歩に伴って、新生児集中治療室:NICUで一命を取りとめ、気管切開や経管栄養などの医療的ケアを受けた状態で退院する医療的ケア児が増えており、現在では全国で1万8,000人にのぼります。しかしその一方で、医療的ケア児の受け入れに対応した保育施設や福祉サービスは著しく不足しているのが現状であり、NICUを退院した後は、医療的ケア児の多くが家族による在宅ケアを受けて生活しています。

医療的ケア児をとりまく現状や、医療的ケア児とその家族を支える社会全体としての今後の課題についてみていきましょう。 

医療的ケアについて

医療的ケアとは、呼吸を助けるケアとして「気管切開・痰の吸引・酸素吸入」、食事を助けるケアとして「経管栄養」、そして排泄を助けるケアとして「導尿や人工肛門」などを病院の外で行うことです。いずれのケアも、呼吸・食事・排泄といった生きるために必要な介助であり、日常のルーティンとして継続して行わなければなりません。多くの場合、NICU退院後は在宅でケアを行いますが、これらの医療的援助を行えるのは医師や看護師などの資格を持った医療従事者の他に、医師が許可をした家族のみに限定されています。

医療的ケア児のいのちと暮らしを守る生活環境づくり 

医療的ケアが必要になった原因は、ひとりひとり様々ですが、医療的ケア児に共通するのは、気道や食道など、身体に何らかの器具がつながった状態で生活しなければならないということです。NICUを退院した後、引き続き自宅で医療的ケアを行う場合は、医療的ケア児が生活する部屋に医療機器やそれに付随するケア道具を設置し、受け入れの準備を整えます。医療機器の揃え方や、自宅に設置する際の注意点を見ていきましょう。

医療機器の調達

医療的ケア児の在宅ケアでは、人工呼吸器、酸素濃縮器、吸引器、吸入器(ネブライザー)、輸液注入ポンプなどの医療機器を調達する必要があります。このうち必須の物品に関しては、多くが「医療機関からの処方」として保険適応でレンタルすることができます。様々なメーカーから複数のタイプの製品が出ていますが、子どもの状態に適合した機種を、医療機関が選んで処方するケースがほとんどです。しかし機器のなかには、ネブライザーや痰吸引器、その他の消耗品、外部バッテリーなど、患者自身が購入する必要のあるものもありますが、自治体によるレンタルや助成制度が利用できることがあります。

医療機器設置場所の注意点と工夫

医療機器を自宅に設置する場合は、いくつかの注意点があります。特に酸素療養を行う場合は、酸素装置や酸素チューブの側では火気厳禁です。これらの装置は湿気や水でも不具合を起こすので、暖房器具、ガスコンロ、加湿器、窓際を避け、壁からは15㎝離れたところに設置します。また、医療機器は非常に多くの電力を消費します。医療的ケア児は、人工呼吸器の他に、エアコン、加湿器、ネブライザー、痰吸引器等、一度にたくさんの機器を使用するので、一般家庭用の電力供給では足りないことがあります。賃貸物件であっても、家主の協力があれば、電力増強工事が可能な場合もあるので、NICU退院前に、医師や福祉機関に相談し、準備を整えるようにします。

生活空間になじむ工夫

一般的な日本の家庭では、スペースが限られるため、医療機器やケアに使用する消耗品のレイアウトには工夫が必要です。人工呼吸器等の器具は、キャスター付きのラックにケア用品と共に設置すれば、必要に応じて移動させることが出来、少ないスペースを有効に活用できます。ラックは、医療機器専用の製品もありますが、生活空間にはなじまないデザインのものが多く、高価なため、あえて一般家庭用の収納ラックを活用するという家庭も多いようです。十分な強度があり、インテリアになじむものを選ぶと良いでしょう。最近では、外出時に携帯可能なコンパクトなタイプも在宅用機器も増えてきています。生活スペースの問題や外出の有無等をあらかじめ医師に伝えておけば、各家庭の生活イメージに合った機器を提案してもらえることがあります。

医療的ケア児の心を育てるケア

医療的ケア児は、身体に障がいを持って生まれてきますが、情緒は年齢に応じて発達していきます。医療的ケア児の心を育てるためには、日常的なケアをする中で家族や医療者が声掛けをし、心と身体のふれあいを増やしていくことがとても大切です。

子どもの状態が良い時には、顔や頭皮を優しくマッサージしてあげると良いでしょう。顔や頭皮を優しくマッサージしてあげると、血行が良くなり、唾液腺も刺激されるため、飲み込みのトレーニングになります。鼻からチューブを入れている場合は、チューブ交換の度に、鼻周囲を柔らかくするようなマッサージをしてあげましょう。脳の発達を促すためには、手のひらや足裏マッサージが有効です。感覚神経が集中している場所なので、やさしくマッサージすることで心地よい刺激が大脳皮質に伝わり、神経活動を活発にします。このような心の発達を促すケアは、子どものコミュニケーション能力を伸ばし、その子が自分らしく、社会のなかで成長してい力を育みます。

医療的ケア児が直面する問題

pixta_33967533_M.jpg

在宅ケアを行う場合は、医療操作のほか、使用する器具やそれに付随する道具の調達や、メンテナンスも必要になるため、家族の負担は非常に大きくなります。そのため、親が離職しなければならないケースも多いため、自宅以外で医療的ケアを受けられる施設のニーズが高まっています。しかし現在は、NICU退院後の医療的ケア児の受け入れ先は殆どなく、一時預かりさえ難しいのが現状です。在宅での訪問看護を利用するという選択肢もありますが、小児を専門に扱える看護師は全国的に不足しており、医療的ケア児の増加に追いついていないのが現状です。

医療的ケア児が成長し、3~4歳の学齢期に達すると、また新たな課題に直面します。医療的ケア児が通える保育園や幼稚園が見つからないのです。保育園や預かり施設では、軽度の障がいのある子どもの受け入れをしているところはあっても、医療的ケア児の受け入れ態勢はほぼ整っていません。吸引や経管栄養の摂取、酸素吸入などの医療的ケアを保育の場で行うには、看護師や医師を配置する必要がありますが、そのような専門職を保育施設に配置する余裕がないのです。

医療的ケア児と家族を支える社会的支援に期待

医療的ケア児の受け入れ施設が非常に少ないため、ほとんどの家庭が在宅での医療的ケアを選択しています。しかしながら、在宅ケアを支える社会のしくみも未だ整備されていないのが現状です。在宅医療を行う場合、高齢者であれば介護保険が適用されるため、介護施設や訪問介護などのサービスが充実していますが、小児の場合は介護保険が適用されないので、小児専門の介護サービスも普及していません。

医療的ケア児が利用できる公的サービスとしては、障害者総合支援法あるいは児童福祉法の2つ法令に基づいた在宅支援の取り組みがあります。しかしながら、それぞれの相談窓口は異なっており、医療的ケア児を総合的にマネジメントする仕組みになっていません。就学児になれば、さらに学校などの教育機関との連携も求められるため、医療的ケア児を支える仕組みはより複雑になります。切れ目ない支援を行うには、専門のケアマネージャーが介入し、医療・福祉・子育て支援・教育が一体になってサポートしていく仕組みづくりが必要です。今後も増えていくであろう医療的ケア児とその家族を支える社会的支援のさらなる充実が求められています。

関連記事