ADL(日常生活動作)の分類と評価法

ADL(日常生活動作)の分類と評価法

高齢化社会が進み、高齢者だけで暮らす世帯が増加しています。そのため高齢者が自立した生活を過ごすことができる環境整備だけでなく、活動能力を客観的に表す指標が必要です。その時に用いられる概念をADLと言います。

ADLは医療や介護の現場で、患者や利用者の自立度を図る指標として用いられています。そして、リハビリに関わる専門職が、それぞれの領域において患者や利用者のADL向上を目指しています。

また、ADLは人が自立した生活を送るために必要な能力を分類し、区分された動作ごとに健常者と比較できるようになっています。そして、ADLを元にしてさまざまな拡大概念が生まれ、より高度な評価法が開発されてきました。 

ADL(日常生活動作)の概念

ADLという概念はアメリカが源流とされています。日本では、日本リハビリテーション医学会が1973年より検討を始め、1976年に概念に関する合意をし、発表しました。日本リハビリテーション医学会の1976年の定義によると
「ADLは、ひとりの人間が独立して生活するために行う基本的な、しかも各人ともに共通に毎日繰り返されている一連の身体動作群をいう。この動作群は、食事、排泄等の目的をもった各作業(目的動作)に分類され、各作業はさらにその目的を実施するための細目動作に分類される。リハビリテーションの過程や、ゴール決定にあたって、これらの動作は健常者と量的、質的に比較され記録される。」
とあります。

この概念を元にADLは以下のように分類されました。

Self Care:家庭における身の回りの動作(狭義のADL)

Self Careは食事・排泄・入浴・更衣・整容といった自宅や自室内で必要な動作のみを範疇に入れています。

APDL:身の回りの動作と生活関連活動(広義のADL)

一方でAPDL(Activities Parallel to Daily Living)では、家事・育児・裁縫・家屋修繕と維持・買物・庭や車の手入れ・交通機関の利用といった、社会的な生活で行われると考えられる動作を指します。

BADLとIADL

そして近年になり、ADLの分類方法について検討が重ねられBADLとIADLの2つに分けられるようになっています。

BADL:基本的日常生活動作(ADLということもある)

起き上がりや立ち上がり、坐位といった起居動作からトランスファーや歩行といった移乗・移動、そして食事・排泄・整容・更衣・入浴といった生活の基本動作がBADL(Basic ADL)に含まれます。

IADL:手段的日常生活動作

IADL(Instrumental ADL)は、BADLに比べてより社会性や高度な認知能力が求められる動作を指します。具体的には家事動作や買物、服薬や金銭の管理といった総合的な判断力が求められる動作です。また、趣味活動などの社会性の高い動作もIADLに含まれます。

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ADLを評価するうえでの視点

次にADLを評価するときに抑えておくべき視点について解説します。実際の場面で患者や利用者の動作に対して「自立度」を判定することがあります。その時、何をもって自立と判断するのかに関して、5つの視点から評価することがポイントです。

安全性

行っている動作が安全に行われていなければ、身体機能を悪化させる可能性があります。転倒する可能性の高い動き方や、極度な負荷をかけている動作は安全とは言えません。例えば、骨折している下肢に過剰な荷重を乗せて歩くことは安全性に問題があります。

安定性

安全に行える動きであっても、常に同じ動作ができなければ自立した動作とは言えません。ADLは日常生活で何度も繰り返されます。したがって、100回試して100回同じことができる程度でなければ、自立しているとは言えないのです。

耐久性

安全な動作方法を十分理解していても、遂行できるだけの体力が必要です。例えば、心肺機能に問題のある方にとって、階段昇降を繰り返す動作は耐久性の面で自立困難な場合があるのです。

スピード

ある程度のスピードを保つことはADLの自立には重要です。特に屋外歩行や交通機関の利用といった社会性が求められる動作では、スピード不足は自立度を大きく下げることになります。

社会性

上記の4つでクリアできる動作能力があっても、社会的に受け入れられる動作である必要があります。例えば、認知に問題のある方は屋外歩行ができる体力があっても、社会的に自立できません。

ADLに関わり合う医療職の役割

リハビリテーションに関わる医療職は、ADLにおいてそれぞれの専門とする領域があります。患者や利用者への治療や訓練では専門職同士で連携を取りながら、それぞれの領域の業務を進めていきます。

理学療法士(PT)

PTは起き上がり、立ち上がり、歩行など姿勢変化や移動に関する動作を中心に訓練を実施します。また、PTはADL拡大に必要な身体機能(関節可動域、筋力)を改善するための治療や訓練を実施しています。

作業療法士(OT)

OTはADLでもより具体的かつ目的のある動作を中心に訓練を実施します。例えば家事動作やトイレでの一連の動作、更衣や整容といった動作が挙げられます。また、OTは身体機能を助ける「自助具」と呼ばれるものを作成し、自立度を高めます。

看護師(Ns)

看護師は患者や利用者の日常動作を常に観察することで、PTやOTで行われているADL訓練が実際に行われているかどうかを評価します。もし、訓練での動作(できるADL)と実際場面の動作(しているADL)に違いがあれば、患者やリハビリ担当者と話し合い、調整する役割があります。

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ADL評価手法

ADLに対する考え方が進んでいくにつれて、さまざまなADL評価法が開発・考案されました。ここでは日本でよく知られている6種類のADL評価手法を紹介します。

①バーセルインデックス

1965年にアメリカで考案されたADL評価手法です。100点満点で表示され、自立度も4段階に分けて評価されます。比較的簡便な評価基準と100点満点表記で分かりやすいというメリットがあり、日本では広く普及しているADL評価手法です。評価項目は以下の10種類です。

食事、椅子とベッドの移乗、整容、トイレ動作、入浴、移動、階段昇降、更衣、排便自制、排尿自制

②カッツインデックス

1959年アメリカで8年間かけて開発されたADL評価手法です。6つの動作項目をそれぞれ「自立」か「介助」に分けて、自立の数や項目でAからGと「その他」の8段階に評価します。動作をする身体能力があっても遂行を拒否した場合、自立とは認めない点が評価での特徴です。6つの動作項目は以下の通りです。

入浴、更衣、トイレ、移動、排尿排便自制、食事

③FIM 機能的自立度評価法

1978年アメリカで開発されたADL評価手法です。世界で広く使用されており、日本でもリハビリ専門職を中心に広く用いられています。動作は6つの大項目と、さらに細分化した18項目に区分され、それぞれを完全自立から介助度に応じて7段階に分けて評価します。評点は1~7点で、満点は126点、最低点は18点になります。実際の動作項目は以下の通りです。

セルフケア

  • 食事、整容、清拭、更衣(上半身)、更衣(下半身)、トイレ動作

排泄コントロール

  • 排尿コントロール、排便コントロール

移乗

  • ベッド・椅子・車いす、トイレ、浴槽・シャワー

移動

  • 歩行・車いす、階段

コミュニケーション

  • 理解、表出

社会的認知

  • 社会的交流、問題解決、記憶

④DASC-21

地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメントシートとして、日本で開発されたADL評価ツールです。地域包括ケアに関わるさまざまな職種が対応でき、かつ短時間で「認知機能」と「生活機能」の自立度を評価できるようになっています。評価項目は21項目で、うち6項目はIADLの領域です。また評価時に口頭でインタビューできなくても、動作を観察することで評価できます。

 評価スケールは「~できますか?」といった質問形式なっています。なお得点は各項目1~4点で区分され、点数が高い方が自立度の低い評価です。合計点が31点以上の場合、認知症の疑いがあると定めています。

DASC公認シート最新版は、dasc.jpサイトにてダウンロード可能です。

⑤Lawton (ロートン)の尺度

1969年に手段的日常生活動作(IADL)に着目したADL評価法して開発されました。社会的な生活に必要な活動のうち8種類を評価します。また、評価対象は高齢者とし、評価項目で男女(女性は全8項目・男性はうち5項目)に違いのあることが特徴です。Lawtonの尺度における評価対象の8項目は以下の通りです。

電話使用、買物、乗り物利用、服薬管理、家計管理、食事準備、家屋維持(掃除など)、洗濯

※男性は前5項目のみ評価する

⑥Frenchay Activities Index(FAI)

IADLに視点を置いた評価法として1983年に開発されました。自らが積極的に社会参加しているかを評価できるようになっているのが特徴です。評価は面接方式で実施し、3ヶ月もしくは6か月間の行動を振り返って採点します。評価項目数は15個で3点ずつ、合計45点満点です。基本的な動作能力よりも「社会的な生存能力」を評価できる手法として信頼を得ています。FAIの評価項目は以下の通りです。

食事の用意、食事の後片付け、洗濯掃除力仕事買物外出屋外歩行趣味交通手段の利用旅行庭仕事家や車の手入れ読書勤労

 

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