リハビリにおけるバランスの仕組みと評価の方法

意識せずとも正常な歩行ができていた人が、以前のような正常な歩行を獲得することは難しいものです。リハビリによって正常な歩行を獲得するには、どのようなことが必要になるのでしょうか。その要素としては、関節可動域や体を支える筋力・持久力の確保、また、バランスをとる能力など多岐に渡ります。

ここでは、人体がバランスを保つために必要な能力や仕組み、2足歩行のバランスにおいて重要なCOP(Center of Pressure: 足底圧中心)の分析、さらにバランス能力を評価する方法について紹介します。

バランスの2つの要素

バランスには大きく2つの要素に分けることができます。1つは「静的バランス(能力)」で、もう1つは「動的バランス(能力)」といいます。人だけでなく動くものは全て、これら2つのバランス能力を兼ね備えている必要があります。

静的バランス(能力)

静的バランス能力とは、動かない状態を保ち続けるための能力です。身体が転倒しない程度にできる姿勢やその姿勢を維持するための筋力や骨の支持力が、静的バランス能力に必要な要素として挙げられます。さらに外的なストレスを受けた時でも転倒しない姿勢を保ち続けられる機能も必要です。

動的バランス(能力)

一方で、動的バランス能力は動きを伴いながらも転倒しない状態を保ち続ける能力です。動きが伴うためバランスを保つために必要な身体の機能は刻々と変化します。したがって人体には高い機能が求められます。 

身体バランスはさまざまな機能の組み合わせ

バランスには2つの要素があることが分かりました。では、人がバランスを保つためには身体をどのように働かせなければならないのでしょうか。実は、人が身体バランスを保つためには、以下の機能が組み合わさって働く必要があります。

感覚機能

人は感覚機能から伝わる情報を元に、正しい動きを指令します。視覚や聴覚といった感覚だけでなく、触覚や深部感覚(位置覚・関節覚など)も重要な感覚機能です。例えば、足を見ないで歩くためには、足の裏から伝わる触覚や足の位置や動きを捉える深部感覚が重要な情報になります。 

それから平衡感覚も大切な感覚機能です。平衡感覚や主に耳の中にある三半規管がセンサーとなり、自分の身体と(重力に対しての)上下関係を察知します。例えば、目を閉じていたとしても自分の身体が傾いているという感覚が察知できるのは平衡感覚による情報があるからです。

運動機能

運動機能も人がバランスを保つうえで必要な機能です。筋肉が力を出すことで骨を支えて、バランスの良い状態を保ちます。関節が動くことでバランスの良い位置に骨を動かすことができます。また骨は身体を支える柱として大切な役割を果たしているのです。

認知能力

バランスを保つうえで、認知能力も必要不可欠です。なぜなら人を取り巻く環境は刻一刻と変化します。環境が変化するなかで、入ってくる感覚情報を即時にかつ何度も統合して、自分がするべき運動を指令しなければなりません。 

例えば街を歩く時は、周囲の人や物にぶつからないように、目的地へ正しく向かっていることを確認する必要があります。そこで、人はさまざまな感覚機能を駆使し、さらにそれらの情報を瞬時に理解して、やるべき運動を指令しているのです。

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バランスの安定性の2要素と安定の条件

次に、バランスを保つ要素を物理的に考えてみましょう。地球上のあらゆる物体は重力に従って「重心」と「支持基底面」という2つの要素で、バランスの安定性を決定づけているのです。

重心

重心とは物体に作用する万有引力の合点といわれています。分かりやすく言い換えれば、何の力を加えなくてもバランスを保つことができる1点です。重心の位置が分かっていれば指一本でも物を支えることができます。人の場合重心は骨盤の中、仙骨の前方にあると言われています。

支持基底面(しじきていめん)

支持基底面とは地面や床に接している部分を囲んだ面のことを指します。例えば4脚のテーブルの場合、4つの足を囲うようにある床がテーブルの支持基底面です。人の場合立っているときは両足の裏を囲う面が支持基底面になります。

重心が支持基底面内の中にあるとバランスが安定する 

では、重心と支持基底面がバランスにおいてどのような関係があるのでしょうか。原則として重心から地面へ垂直に下ろした線が支持基底面の中にあればバランスは安定していると言えます。例えば、机の上にある箱を机から少しはみ出しても落下しないのは箱の重心が箱の支持基底面(机に乗っている部分)の中に入っているからなのです。

重心が支持基底面から離れるとバランスは崩れる

一方で、重心が支持基底面から離れてしまうとどうなるのでしょうか。原則では重心のある位置に向かって物体が転倒します。しかし、何かしらの反発力があればその力でバランスを保つことができます。また支持基底面が重心の位置に合わせて移動すれば、バランスを安定させることができるのです。

例えば、倒れそうになっている物体を人が支える行為は、物体の重心が倒れる方向にあるため、人が支えとなって支持基底面を広げて物体の重心を支持基底面の中に収めているのです。

歩行におけるバランス

2足歩行は人類特有の運動です。では、人が2足歩行をする時どのようなバランスを取っているのでしょうか。歩行時の重心や支持基底面の動きと、歩行時に足底が受ける圧力について解説します。

歩行での重心の移動とCOP

人が歩行をする時、両足が地面についた状態と片足立ちの状態を繰り返しながら進みます。そのため支持基底面は左右の足底だけの状態が何度も繰り返すことになるのです。したがって人は重心を支える側の足に寄せる動きを左右に繰り返し、それに合わせて関節や筋肉が働きながら歩いていきます。

また片足立ちになる時(立脚期)に圧力がかかっている面の圧力中心、その点をCOP(足底圧中心)と呼びます。COPは歩行時、踵の下から足裏の外側を移動してつま先に向かうといわれています。しかしCOPの軌跡は個人差が大きく、さらに病気やケガで歩容が変化した場合におけるCOPの軌跡は通常とは大きな違いが出ます。

COP分析は適切な動作訓練に有用

歩行におけるCOP分析は患者や利用者のリハビリに重要な意義を持っています。COPが正常を大きく逸脱している場合、その足底や下肢にバランスを保つために必要な機能の低下があると推察できます。また、足底の触覚機能が低下している可能性や、下肢の筋力低下も疑われます。過去研究では、健常者のCOP軌跡は踵から小指の付け根にかけて移動し、最終的には拇指方向へ抜ける、とされているものが多いです。

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リハビリのための身体バランスの評価法

最後に、身体バランスの評価によく用いられている方法を紹介します。ここで紹介する2つのテストは「運動器不安定症」と呼ばれる疾患を判定するために用いられる運動機能テストです。

①開眼片脚立位テスト

このテストでは、目を開けたまま片足立ちをしてもらいます。そして片足立ちの状態を何秒間保持できるかを計測します。15秒未満になると運動器不安定症の診断基準に相当します。

②Timed Up & GO テスト

このテストでは、肘付きのイスなどでゆったりと座った状態から立ち上がってもらいます。そして3m先まで苦しくない程度のスピード歩きます。そしてすぐに折り返してもらって元のイスにリラックスして座ってもらうまでの時間を計測します。このテストで11秒以上かかる場合、運動器不安定症の診断基準に相当します。

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