
リハビリテーション
介護度判定で使われる動作評価法バーセル・インデックスとは
介護保険の分野では、サービスの利用によって利用者の介護度が軽減されたことを評価する動きが出てきています。そして2018年の介護報酬改定において「ADL維持加算」という形で、介護度の悪化を防いだ成果に対して報酬が得られるようになりました。
このADL維持加算のアウトカム(成果)を評価する方法として「バーセル・インデックス(バーセル指数)」を用いることが定められました。バーセル・インデックスはADL評価手法としてかねてから国内外で広く用いられていました。そして介護業界においてもバーセル・インデックスへの理解が求められるようになっています。
バーセル・インデックス(バーセル指数)の概要
バーセル・インデックスは、ADLの自立していない患者が機能回復していく過程を計るための簡易的な査定法として、アメリカの理学療法士であるバーセル氏によって開発されました。そして1955年から、アメリカにあった3つの慢性期病院で使われ始めました。さらに、1965年には論文として報告され広く知られるようになります。現在バーセル・インデックスは世界的に普及し、日本でもエビデンスのあるADL評価手法として高い評価を得ているのです。
日常生活の動作を10種類に分類
バーセル・インデックスでは日常生活に必要な動作を10種類に分類し、それぞれを評価の対象としました。10種類の動作とは、食事、移乗(椅子とベッドの間)、整容、トイレ動作、入浴、移動(歩行や車いす)、階段昇降、更衣、排便自制、排尿自制です。
それぞれの項目を評価・配点
バーセル・インデックスでは、満点を100点として、それぞれの動作に5~15点で配分して評価します。さらに各動作は満点から5点刻みで評価できるようなっています。そのため点数計算を素早く正確に行うことができます。
「自立」の定義
バーセル・インデックスでは自立に対して厳格に評価することを求めています。いずれの動作項目においても介助者や監視者が不要であることが求められ、誰もいない状況でも安全に動作ができなければ自立として認められません。
「できるADL」で評価
バーセル・インデックスでのADL評価は原則「できるADL」と呼ばれるもので評価を行います。できるADLとは患者や利用者が検査や訓練という形で実施できた能力を指します。したがってバーセル・インデックスでは患者や利用者の最大限の能力が評価されやすくなるのです。
IADL(手段的日常生活動作)に対する評価はできない
バーセル・インデックスで100点満点であっても1人で生活できるという評価はできません。なぜならバーセル・インデックスでは電話応対や金銭管理など、生活に必要なより高次な動作に関連する評価を行えないからです。
バーセル・インデックスの10項目の配点・判定基準
次に、バーセル・インデックスで評価する10の動作と配点、そして判定基準について解説します。原則として自立できる動作には満点として15点から5点が与えられます。そして全介助や全くできない動作に関しては0点と評価します。
① 食事
10点:自立。標準時間内で食べきれる。自助具の使用は可能。
5点:見守りや介助を要する。(きざみ食を用意する・食べこぼしを管理するなど)
0点:全介助
② 移乗(車いすとベッド間)
15点:介助無しで動作可能。ブレーキやフットレストなどの管理が可能。※歩行自立も15点
10点:軽度の介助や監視・声掛けが必要(ブレーキの管理など)
5点:座ることはできるがほぼ全介助
0点:全介助・不可能
③ 整容
5点:自立(整容:洗面・整髪・歯磨き・髭剃り)
0点:部分介助・不可能
④ トイレ動作
10点:自立(衣服の着脱や後始末も含める。ポータブルトイレの場合、その洗浄を含める)
5点:部分介助(身体的介助・衣服操作や後始末・洗浄での手助けも含める)
0点:全介助・不可能
⑤ 入浴
5点:自立
0点:部分介助・不可能
⑥ 歩行
15点:45m以上の歩行(補装具の使用可 ※車いす・歩行器は除く)
10点:45m以上の介助歩行(歩行器の使用可)
5点:歩行不能の場合、45m以上車いすでの操作可能
0点:上記以外
⑦ 階段昇降
10点:自立(手すりなどの使用可)
5点:介助もしくは監視が必要
0点:不能
⑧ 着替え
10点:自立(靴・ファスナー・装具などの着脱を含む)
5点:部分介助(標準時間内、半分以上は自分で行える)
0点:上記以外
⑨ 排便
10点:失禁なし(浣腸や坐薬の取り扱いも可能)
5点:ときに失禁あり(浣腸や坐薬の取り扱いにも介助を要する者も含める)
0点:上記以外
⑩ 排尿
10点:失禁なし(収尿器の取り扱いも可能)
5点:ときに失禁あり(収納器の取り扱いの介助を要する者も含める)
0点:上記以外
合計得点とその判定基準
バーセル・インデックスでは上記の項目ごとに評価し採点します。そして合計点に応じてADLの自立度を計ることができるのです。
- 100点:動作全般が自立している
- 85点以下:介助を要するが程度は少ない
- 60点以下:姿勢を変える動き(起居動作)にて介助を要する
- 40点以下:ほとんどの項目にて大きな介助を要する
- 20点以下:全介助を要する
バーセル・インデックスのメリット
バーセル・インデックスは国内だけでなく世界的にも普及しているADL評価法です。それはバーセル・インデックス特有のメリットがあるからだといえます。
100点満点表記なので自立度が分かりやすい
バーセル・インデックスは100点満点で表します。そのため患者や利用者の得点がそのままパーセンテージ化しやすく、現状をイメージしやすいのです。
評価区分が比較的少ないため記録しやすい
バーセル・インデックスは評価区分が2~4段階で分けられています。区分が比較的少ないため誰でも簡単に記録することができるのです。また、点数も5点刻みのため合計点を算出することが容易にできるというメリットもあります。
最大限の能力を表記できる
バーセル・インデックスでは日常生活動作が完遂できたことを評価します。実際に普段から行っているものではなくても、「できる」ものであれば評価対象となるのです。したがって患者や利用者の最大限発揮できる能力を表しやすくなります。もし実際の動作でバーセル・インデックスの評価に達していなくても、訓練や指導次第で能力を改善できる可能性があります。
バーセル・インデックスのデメリット
一方でバーセル・インデックスにはデメリットもあります。それは評価が簡便かつ容易だというメリットに反して現れるものです。
介護度の区分が大まかで患者や利用者ごとの詳細が分からない
バーセル・インデックスでは部分介助・全介助といった大まかな評価しか行いません。したがってバーセル・インデックスだけでは患者や利用者にとって必要な介助について詳細を表すことができません。
時系列的な変化を捉えにくい
バーセル・インデックスでは評価区分が多くて4つにしか分かれていません。したがってわずかな介助量の変化に対して評価の差が現れないことや、格段に点数が上昇してしまう可能性があります。
「しているADL」(実生活のなかで実際に活用しているADL)の評価ではない
バーセル・インデックスでは「しているADL」を評価しません。そのため日常生活で繰り返し行われる動作において実態以上の評価が下される可能性があります。
バーセル・インデックスでは上記のようなデメリットが指摘されています。しかし、必要に応じて動作や介助の詳細を記録し、報告することでデメリットを打ち消すことが可能です。
バーセル・インデックスは医療介護の共通言語として最適
バーセル・インデックスはADL評価法としてどのような立場の方にも使いやすく、理解しやすいというメリットがあります。前述したようなデメリットを把握し、きちんと対処すれば、バーセル・インデックスは患者や利用者のADLを素早く共有できる評価手法として最適だといえるのです。
