母子ケア
母子の〝絆〟を深めるNICUでありたい いわき市医療センター本田義信先生インタビュー
いわき市医療センター 未熟児・新生児科主任部長
本田義信先生
35万都市の福島県いわき市を中心に、地域唯一の周産期医療センターとしての役割を担っているのがいわき市医療センターです。未熟児・新生児科で主任部長を務める本田義信先生に、いち早く導入いただいた「すやすやコットGCU」「すやすやコットLARGE」「ハードパーティション ロピメックス」の使用感や、本田先生が理想とするNICU環境においてパラマウントベッド製品がどのような役割を果たしているかについてお聞きしました。
パーティションによる「半個室化」で愛着形成を支援
──本田先生がお勤めのいわき市医療センターは、地域に置いてどのような役割を担っているのでしょうか。
当センターの前身であるいわき市立総合磐城共立病院は昭和25年に発足し、現在はいわき市医療センターという名称に変わり70年近い歴史があります。通常、35万人ほどの人口を擁するレベルの都市サイズであれば、産科と小児科が併設されている総合病院が2〜3箇所あるものですが、いわき市には当センターしかありません。ですから、地域で唯一の周産期医療センターという重要な役割も担っています。
──本田先生が所属されている未熟児・新生児科が行なっている医療について教えてください。
未熟児・新生児科はNICU(新生児集中治療室)の運営が主な業務となります。地域で出生した病的な新生児(未熟児・仮死・先天性心疾患・新生児外科疾患等)の治療はもちろん、NICU退院後の赤ちゃんに対するフォローアップにも力を入れています。NICUを持つ病院は、当センターを中心とすると北に140キロ、南に100キロ、西に80キロと近隣にはありません。新生児の長距離搬送は赤ちゃんに悪影響を及ぼす懸念があるため、いわき市内に限らず、周辺地域から治療を必要としている赤ちゃんがこのNICUに集まってきています。
──本田先生が理想とするNICUの在り方について聞かせていただけますか。
私がNICUを運営するなかで一番大切だと考えているのは、母子の愛着形成です。当センターは2018年末に新病院として生まれ変わり、NICUもこれまでより広いスペースがとれるようになりました。現在はまだ実現できていませんが、いずれは、お母さんが帝王切開後にベッドのままNICUに入れるようなイメージで活用しようと思っており、そのためにはNICUをパーティションで区切って「半個室化」し、それぞれの母子がまわりに気兼ねすることなく過ごすことのできる空間づくりが必須になると考えています。私事ですが、私の妻も帝王切開で、産後に4〜5日ほど個室を利用して同室しました。私は論文や本を読みながら、赤ちゃんが泣いたときに妻の胸に赤ちゃんを乗せるだけでしたが、今でも鮮明に、そのときの幸せな気持ちを思い出すことができます。我が子が病気を持って生まれてきたお母さんたちは、精神的に大きな不安を抱えているはずです。そんな不安や悲しみを癒やしてくれるのは他ならぬ赤ちゃんであり、赤ちゃんの温もりを近くで感じられるNICUでありたいと思います。
──母子の愛着形成の場としてNICUを活用するためには、「半個室」という空間が大事になるということですね。
私はそう考えています。大病院では完全な個室化を目指しているところもありますが、私がパーティションで区切ることによる半個室化が最適だと考えている理由は、日本ではほとんどの病院が人員的にも面積的にもNICUを個室化が実現できるような状況にないからです。半個室化することによってお母さんがリラックスできる環境をつくることができれば、必ず赤ちゃんもリラックスして予後が改善するはずですし、我々医療者も観察がしやすく手厚い医療が可能になります。当センターでそれが実現できるようであれば、地方の病院でも実現可能なはず。そのモデルケースをつくり出したいと考えています。
──そのほか、母子の愛着形成という観点から必要だと考えていることはありますか。
病気を持って生まれた子を持つお母さんたちが一番不安なのは、退院後の生活です。母子同室によってしっかりと赤ちゃんのことを受け入れてから退院することが、今後の生活を見据えた上でとても大事になると考えています。1996年に「カンガルーケア」というケア方法が日本で推奨されるようになりました。これは出産直後に裸の赤ちゃんをお母さんの胸に乗せて、早期皮膚接触をはかるというものです。カンガルーケアでたった1時間、赤ちゃんとお母さんが接触するだけでも、1年後のお母さんの愛着構造には差が出てきます。1歳時のお母さんの愛着構造が3歳時の子どものキャラクターに影響するという研究もあり、3歳時のキャラクターはその子の一生のキャラクターに影響を及ぼすそうです。〝三つ子の魂百まで〟とは、まさにその通りということでしょう。愛着形成のみならず、将来の発達まで見据えたNICUの在り方を提示していけたらと考えています。
母子の安心感を高める、NICUで役立つパーティションや新生児ベッドとは
──いわき市医療センターでは、パラマウントベッドの「すやすやコットGCU」「すやすやコットLARGE」「ハードパーティション ロピメックス」を導入いただいています。導入の経緯はどのようなものだったのでしょうか。
それぞれ細かい理由はありますが、大きくは「半個室化」による母子が安心できる空間をつくりたかったからです。パーティションで言えば、母子同室でお母さんがリラックスしていると赤ちゃんの反応もまったく違ってきます。個人的には〝気〟というものがとても重要だと思っており、赤ちゃんは家族の気を感じて安心感を得る。その状況を守るためにはパーティションを使用して「半個室化」にする必要性があったということです。
飛沫感染対策にも
「ハードパーティション ロピメックス」について
──導入前の状況を教えてください。
これまではスクリーンを使用して仕切りをしており、移動させるときにガラガラとうるさく、音の面で赤ちゃんに悪影響を及ぼす懸念がありました。「ハードパーティション ロピメックス」は従来のものよりも音が静かで、その点ではとても安心感があります。折りたたんだり広げるたりすることができるのも、スクリーン使用時は何個かをつなげなければならなかったため、とても手軽です。
そしてもう一点、パーティションを使用する大きな利点は飛沫感染対策です。スクリーンは布が張られているものが多く、汚れた場合は洗濯しなければなりませんが、パーティションであれば汚れたとしてもすぐに拭き取ることが可能です。新生児はとくに感染に対して注意を払わなければならないので、この点においてもスクリーンよりも安心です。
──実際に使用されているお母さんたちからはどのような声が聞こえていますか?
お母さんたちが気にしているのはまわりの目です。授乳や搾乳を見られるのを嫌がるのは当然ですし、スクリーンだとどうしてもつなぎ目に隙間ができてしまいます。そういった面でも、パーティションでしっかりと囲われているのは安心だということでした。パーティションで囲うことによって、人の目を気にせず授乳や搾乳ができ、なおかつ医療者がモニター等でいつでも赤ちゃんの状態をチェックできる環境が整えば、必ず赤ちゃんの予後に良い影響が出るはずです。
NICUやGCU向けに開発された新生児ベッド「すやすやコットGCU」「すやすやコットLARGE」について
──「すやすやコットGCU」と「すやすやコットLARGE」についてはいかがですか。
コットに関しても、従来のものよりも赤ちゃんとお母さんがより密接に、なおかつ赤ちゃんのストレスが軽減されるようなつくりになっていたので導入を決めました。「すやすやコットGCU」も「すやすやコットLARGE」も、従来の無機質な雰囲気とはまったく違うフォルムをしており、赤ちゃんはもちろんお母さんへのメンタルケアと言った意味合いにおいても、一役買っていると思います。
──使い勝手に関して感じる部分はありますか。
両製品に共通して言えるのは、パーティションと同じように移動時の音や操作音が小さくなったことが大きいです。赤ちゃんは音に対して非常に敏感で、とくに突発音に対して強いストレスを感じます。音や光によるストレスを緩和し成長をうながす「デベロップメンタルケア」というケア方法も提唱されていることから、この進化は我々NICUに従事している者にとってとても助かるものです。NICU内の床を絨毯のように柔らかくしている病院もありますが、さまざまな使い勝手を考えると、コット自体をこのように改良してもらえるのはありがたいことです。
──「すやすやコットGCU」について、使用されている看護師さんたちからはどのような意見があがっていますか。
「すやすやコットGCU」に関しては、かごの高さ調節ができるのが良いと聞いています。傾斜があることによって、食べたものが逆流して吐いてしまったときの誤嚥を防ぐこともできます。従来製品よりもかごのサイズが大きく透明なのも、ケアする側としては観察がしやすく助かっています。加えて、私の意見としてとても良いと感じているのが、収納用の引き出しやかごがコットにまとまっているところです。これがないと、コットとは別に収納用のワゴンを置くことになってしまいます。私は2011年に東日本大震災を経験しましたが、避難の際に困ったのが赤ちゃんとケアに必要なものを一緒に持ち運べないことでした。この点も、「すやすやコットGCU」にオプションとして引き出しやかごを取り付けることで解消できています。
──「すやすやコットLARGE」についてはいかがでしょう。
「すやすやコットLARGE」導入までに使用していたサークルベッドは見方によっては鉄格子のようで、我が子がそんな環境に置かれていて不安にならないわけがありません。サークルベッドはケアのときに柵を上げ下げする必要がありましたが、「すやすやコットLARGE」は柵を倒すことができるのでとても使いやすいようです。大きなサイズのコットが必要な赤ちゃんはある程度月齢が経っていて、人工呼吸器を使っていることが多い。それらのチューブを固定するチューブ受やチューブガイドがついているのも良いと思います。「すやすやコットGCU」もそうですが、マットレスがウレタン素材で防水使用になっているので、掃除しやすいのもケア目線で見たときにありがたい部分だと思います。
──最後に、今後の未熟児・新生児医療について本田先生はどのようになって欲しいとお考えでしょうか。
繰り返しになりますけども、未熟児・新生児医療において大切なのは母子の愛着形成であり、そこから生まれる〝絆〟です。お母さんが赤ちゃんを受け入れ、強い絆で結ばれていれば、母子ともに人生の幸福度は上がっていくはずです。子どもたちが幸せな人生を送れるような準備をNICUで整えてあげたいですし、そのためにも、こういった医療現場の機器についてさらなる改良が進んでいけばうれしいですね。
──このたびはお忙しいところ、誠にありがとうございました。
本田義信先生
福島県立医科大および福島医科大小児科学講座大学院を卒業後、いわき市立総合磐城共立病院(現・いわき市医療センター)に勤務する。竹田綜合病院小児科を経て1998年にいわき市立総合磐城共立病院未熟児・新生児科に戻り、2002年より同科部長。現在は主任部長として地域の周産期医療を見守るかたわら、講演活動などを精力的に行なっている。
