日本とドイツで子宮頸がんのスクリーニングはどう違う? ――「NRWジャパン炉端会議」のディスカッションをレポート

2019年12月4日、東京アメリカンクラブ(東京都港区)にて、「子宮頸がんのスクリーニング」をテーマに「NRWジャパン炉端会議」が開催されました。日本とドイツ、両国の参加者が意見交換に花を咲かせたこのイベントについて、当日の様子をレポートします。

 

日本とドイツの親睦を深める「炉端会議」

NRWとは、ヨーロッパの中心に位置するドイツの経済拠点、ノルトライン=ヴェストファーレン州のこと。NRW州はヘルスケア領域でも非常に重要な地域とされていますが、そこでの事業展開や投資を考える企業をサポートするNRW.INVEST社の日本法人(NRW州経済振興公社日本法人)は、年8回程度「炉端会議」を開催しています。英語では“Fireplace Talk”と表現されるこのイベントは、1 つのテーマをめぐって専門家が講演したり、参加者同士でディスカッションしたりするもので、「NRWジャパン炉端会議」は日本とドイツが力を合わせて連携するためのプラットフォームとしても機能しています。

 

約5年前から産婦人科領域に進出したパラマウントベッド株式会社は、婦人科用診察・処置台のリーディング・カンパニーであるSchmitz & Söhne社(ドイツNRW州)とアライアンスを組み、2019年4月より代理店として同社の製品を取り扱っています。NRW州経済振興公社日本法人の社長がSchmitz & Söhne社とつながりを持っていたことから、パラマウントベッドとのアライアンスを後押しする意味も込めて、このたび3社共同での炉端会議を開催する運びとなりました。

 パラマウントベッドが選んだ今回のテーマは、「子宮頸がんのスクリーニング」。日本では子宮頸がん検診の受診率が他の先進国よりも低く、、社会的課題の一つとなっているためです。こうした現状において、日本とは異なるアプローチを用いるドイツの事例は、私たちに大きな示唆を与えてくれるのではないでしょうか。当日の参加者は、婦人科の医師をはじめとする医療従事者や製薬関係者など総勢32人。ディナーを共にしながら、自由闊達な意見交換がスタートしました

 ※当日のやり取りの大部分は英語により行われました。この記事は、その音声データの和訳をもとに作成しています。

 

日本では子宮頸がんの罹患率・死亡率ともに上昇傾向

今回の炉端会議をリードしたのは、Schmitz & Söhne社のローレント氏。「このイベントを非常に意義深く感じており、ぜひ今後も続けていきたい」とあいさつした上で、次のようにプレゼンテーションしました。

 今日を迎えるにあたって、日本とドイツの子宮頸がんの現状について調べてきたのですが、その結果には驚かされました。というのも、ヨーロッパでは子宮頸がんの罹患率が低下しているのに対して、日本では上昇傾向にあったからです。日本では10万人当たり22.4人が子宮頸がんに罹患していますが、ドイツでは9.5人に過ぎません。日本の年齢階級別罹患率をみると、特に30~39歳の女性で顕著に高いことが分かります。また、残念なことに致死率も上昇してきています。最初は、これらの結果を知って信じられない思いでした。

日本とドイツの違いを考えたとき、見逃せないのが子宮頸がん検診の受診率です。ドイツでは、受診を促すために様々な方策が考えられていて、2014年時点で80%以上の受診率を記録しています。ところが日本では、2016年時点で40%程度と、まだまだ受診することが一般的とはいえない状況です。こうした現状を打破するためにはどのような解決方法があるのか、本日の炉端会議でぜひ話し合っていきたいと思います。

 

ドイツの開業医に聞いた「子宮頸がん検診の実際」

このように子宮頸がん検診の受診率について問題提起されたところで、毎年2万人ほどの患者さんが訪れる婦人科クリニック(ドイツ・リートベルク市)を開業するレーツェル医師のインタビュー動画が流されました。

 

Q.ドイツで子宮頸がん検診の受診率が上昇したのはなぜですか?

A.シンプルかつ効果的な仕組みがあるからです。ドイツでは、医師から処方箋を受けなければ避妊薬を購入できません。患者さんは来院した上で診察を受ける必要があるわけですが、そのときに子宮頸がんに関して啓蒙し、検診を受けるよう勧奨しています。

 

Q.ドイツでは、子宮頸がん検診はどのように実施されているのでしょうか?

A.年に1回、産婦人科で子宮頸がん検診を受けることが基本とされています。しかし、避妊薬を希望する場合は半年ごとの来院が必要となるため、多くの患者さんは子宮頸がん検診のパップテスト(細胞学的検査)を半年ごとに受けています。

 

Q.年齢が若い患者さんは、より頻繁に検診を受ける必要がありますか?

A.パートナーを変える頻度が高いほど、子宮頸がんに罹患するリスクが高くなるため、若い人はより高頻度に検診を受けることが重要だと考えます。

 

Q.クリニックへの検査費用の支払いは、どのように行われるのでしょうか?

A.通常の診察費用は健康保険から四半期ごとに受け取りますが、子宮頸がん検診の助成金は年に一度の受け取りです。ですから、患者さん全体の約半数が四半期に一度来院し、またその半年後に同じ患者さんが来院する、というのが私たちにとっては理想的です。

 

Q.患者さん志向の診察環境は大切だと思いますか?

A.極めて大切です。半年または1年ごとに検診を受けてもらうためには、私たち医師が患者さんからの信頼を勝ち得なければなりません。顔と顔を合わせてコミュニケーションし、リラックスできる環境を整えると、より信頼を得やすくなると感じています。

 

Q.初診の場合と再診の場合では、検査の流れに違いがありますか?

A.当クリニックでは、医師それぞれに問診用と処置用の2つの部屋が用意されています。初診の患者さんに対しては、これから実施する検査内容の説明に多くの時間を割きます。2回目以降の患者さんであれば、そうした点はある程度省略し、迅速に処置を進めていきます。

 

Q.検査を迅速に行うことと、患者さんの心理的負担を軽減することは、どうすれば両立できるでしょうか?

A.問診中はもちろん、検査中にも顔と顔を合わせながら、リラックスした雰囲気の中で会話を組み立てることが大切です。患者さんが「いつでも自分の意思で降りられる」と感じられる快適な診察台も、その雰囲気醸成の助けになります。私がこの仕事に就いた当初は患者さんの足を固定するタイプの診察台が多かったのですが、現在では国内の多くのクリニックに女性が自分の意思で自由に動けるタイプの診察台が置かれています。

QSchmitz & Söhne社の製品は、先生の診察をどうサポートしていますか?

A.私のクリニックではもう10年間も同じ診察台を使っていますが、まだ導入した頃のままのように見えますね。現在も問題なく動きますし、これまで問題があった記憶もありません。多様な機能を備え、スピーディーに動き、しかも頑丈です。毎日10時間以上も働いてくれるこの診察台は、私にとってなくてはならないものです。

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その後、ドイツにいるレーツェル医師と中継をつなぎ、会場の参加者との間で質疑応答が行われました。その中では、日本では積極的勧奨が中断されているHPVワクチン接種についての質問もありました。

 これに対してレーツェル医師は、「子宮頸がんは非常に深刻な疾患の一つです。ドイツでは、婦人科クリニックを受診する患者はもちろん、その子どもにもワクチンを接種するよう促します。最近では男性にもHPVワクチンが適用となり、高い効果を挙げています。テレビでのキャンペーンなども含めて、様々なレベルでワクチン接種の必要性を国民に働きかけるべきではないでしょうか」と述べ、HPVワクチン接種の勧奨を支持する見解を示しました。

 

両国の文化の違いをめぐって弾む議論

続いて、会場の参加者同士で自由に意見交換する時間です。最初に話題となったのは、日本とドイツにおける診察台の違い。ローレント氏は、「日本の病院を訪問したとき、診察台が自動で動いて患者さんの足を開かせたこと、そして医師と患者さんとの間にカーテンが引かれていることに驚きました。もし、ドイツの女性がそのような扱いを受けたら、二度とその病院へは行かないでしょう」と所感を述べました。

 参加者の女性からは「そうした診察台が当たり前のように思っていましたが、そうあるべきではないのかもしれません」、婦人科の医師からは「私たちの病院でもカーテンを引いていますが、こうした現状は変えていくべきだと感じています」といった意見が挙がりました。一方で、「文化が違えばニーズが違うのも当たり前。ヨーロッパとアジアでは、女性の感覚にも差があるのでは?」と疑問を呈する声も。それぞれの国の文化を尊重した上で、当事者の声を反映したモデルを普及させることが大切だということで話がまとまりました。

 また、レーツェル医師との質疑応答にもあったHPVワクチンについても議論が繰り広げられました。早期発見・早期治療はもちろんのこと、予防に焦点を当てることが重要とされる子宮頸がんですが、「日本ではHPVワクチンに否定的な人が多い」「深刻な副作用のリスクが強調され、過剰にマイナスの印象を抱かれている」といった状況を訴える声が聞かれました。

 実は、ドイツでもワクチン全般に対して反感を抱く人がいるそうです。ローレント氏は、「正しい情報を伝えるためには、医師と患者さんとのコミュニケーション、そして行政の適切な対応が必要でしょう。日本では乳がん検診に対する啓発活動が成功しているので、それを応用できるかもしれません」と話しました。会場からは「子宮頸がんをテーマにしたテレビドラマを放送すれば反響が大きいのでは?」という意見もありました。

 また、「日本の女性は自分の意思で避妊方法を選べないケースが多い」と、バースコントロールに関する問題を指摘する人もいました。これを受けて、当事者である女性の参加者が「若い世代を中心に、性交や性感染症についての考え方も変化しつつあります。医療機関や企業、研究者などが力を合わせて、より婦人科を受診しやすい環境を作っていけば、子宮頸がんや婦人科検診の常識も変わっていくかもしれません」と述べると、会場は大きな拍手に包まれました。

 「子宮頸がんのスクリーニング」という難しいテーマをめぐって胸襟を開いて語り合う、まさに理想的なディスカッションが展開されたこの日。日独両国の関係者の親睦を深めることができただけでなく、問題意識を共有して前向きな解決策を探るためのきっかけにもなったのではないでしょうか。

 

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