NICU環境のパラダイムシフト 音と光の四則演算 ~いま私たちにできることからバイオフィリアの可能性まで~(第22回新生児呼吸療法・モニタリングフォーラム セッションレポート1)

2020年2月13~15日、大町市文化会館(長野県)にて「第22回新生児呼吸療法・モニタリングフォーラム」が開催されました。本フォーラムは「産学一体」をコンセプトとした学術集会で、パラマウントベッド株式会社も2つのセッションに協賛しました。今回は、その1つである「NICU環境のパラダイムシフト 音と光の四則演算~いま私たちにできることからバイオフィリアの可能性まで~」(14日:企業企画セッション3)について、3人のスピーカーの発表内容をダイジェストでお伝えします。


I.オープニング

モデレーター:聖隷浜松病院 新生児科 杉浦 弘先生

今日は、夢のある話をしたいと思います。かつて、私が勤める聖隷浜松病院のNIUCは「無機質」な場所でしたが、2013年に生まれ変わりました。患児だけでなく家族やスタッフにも配慮して環境を整えたのです。NICUのあり方については様々な考え方がありますが、機能性ばかりを追求すると、まるで人工子宮を並べたような寒々しい空間になってしまうかもしれません。本セッションでは、未来のNICUのあるべき姿について、「音」と「光」という観点から考えていきたいと思います。

 

Ⅱ. 赤ちゃんが心地よい音と光ってなんだろう?~FCC(ファミリーセンタードケア)に基づいた個室化病棟での四則演算~

スピーカー:聖隷浜松病院 新生児集中ケア認定看護師 寺部宏美様


■今までの四則演算 「引き算」「割り算」

静岡県西部に位置する聖隷浜松病院の総合周産期母子医療センターは、NICU21床とGCU20床から構成されています。かつてはワンフロアでしたがFCC(ファミリーセンタードケア)の推進を目的に再設計され、2013年に新病棟となりました。4床1室ずつのユニットに分けて個室化し、患児は重症度別に入室してもらいます。退院支援の場でもある「母子家族室」や、子どもと家族が一緒に過ごせる「ケアルーム」なども設けられています。24時間いつでも面会可能で、家族がゆったりと患児のそばで過ごせることを大切にしています。

従来、NICU・GCUの環境改善に関して注目されてきたテーマは、「音や光をいかに減らすか」ということでしょう。つまり、四則演算でいうところの「引き算」です。当院では、医療機器などが発する騒音をできるだけ減らすほか、保育器やコットにカバーをかけて照度を調整してきました。具体的には、12時間ごとの明暗サイクルを明確にし、カバーのかけ方などを工夫。夜間の処置時には、部屋全体が明るくならないよう処置用ライトを使い、患児にはアイマスクを着けてもらっています。

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2013年から個室化したことにより、部屋やフロアごとに、より細やかな音や光の調整が可能となりました。これは、音や光の「割り算」だといえるでしょう。

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■24時間モニタリング調査で見えてきた限界

このたび、新病棟においてパラマウントベッド社の照度・音圧レベルセンサーを用い、初めて24時間連続モニタリングによる実態調査に取り組むことにしました(2018年9~11月、2019年6月に追加調査)。同社の「すやすやコット」にセンサーを取り付け、NICU・GCUの音と光を経時的に把握していったのです。

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その結果、NICUの平均照度は昼間70ルクス、夜間5ルクス。GCUでは昼間247ルクス、夜間10ルクスであることが分かりました。
日中のNICUの照度はGCUの照度よりも低い値を示しております。これは、GCUが構造的に自然光を取り入れやすいということ、更にNICUとGCUでは調光ライトの調整方法を変えていることを反映した結果と考えられます。夜間については、いずれも低い照度レベルを実現しています。

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また、平均騒音レベルはNICU・GCUともに52dBでした。旧病棟よりずいぶん静かになったという感覚でしたが、それでも米国小児科学会の推奨騒音レベル(45dB)*より高いことが分かったのです。とはいえ、空調を入れるだけでも50 dBに達してしまうため、この推奨レベルを下回ることは現実的には難しいと考えられます。

*Guidelines for perinatal care 8th edition / American Academy of Pediatrics 2017

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この調査を通して私たちは、音を減らすことの限界を感じると同時に、むしろ「患児の発達に寄与する音」を加えることに注目するようになりました。

■「足し算」と「掛け算」で実現する新時代のNICU・GCU

これからのNICU・GCUの環境を考えるためには、四則演算のうち「足し算」と「掛け算」が重要になるはずです。当院でも、どのような音や光を足したり掛けたりすべきか、検討が始まっています。例えば、これまでも面会中に家族が患児へ読み聞かせを行うことがありましたが、その音声を録音しておけば、家族がいないときにも聞かせてあげることができます。また、患児にとって不快な騒音を相殺できるような、音楽療法の導入もよいでしょう。心地よい音楽は、面会に来る家族の不安や緊張を軽減する効果もあるそうです。そして、勤務時間帯や場所に応じて音楽を変えることで、スタッフの集中力アップやストレス緩和につながるかもしれません。

光についても、天井からの照明だけを考えるのではなく、足元を照らす温かみのあるライトなどを上手に活用したいところです。また、四季や天候などに合わせた自動調光システムも魅力的です。患児にとってよりよい場所であることはもちろん、家族やスタッフも心地よく、心穏やかに患児へ向き合うことができる……。そうした空間をめざし、創造的な視点から新しいNICU・GCUを作り上げていたいと思います。

 

Ⅲ. バイオフィリアがNICUを子宮に変える~KooNeによる+、-の可能性~

スピーカー:株式会社JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント 
エグゼクティブプロデュサー 榎本誠也 様

■人間は「聞こえない音」も感じている

ハイレゾリューション音響空間ソリューションであるKooNe(クーネ)は、「人間は先天的に自然を好む性質を備えている」というバイオフィリア仮説から誕生しました。交差点の雑踏の音と川のせせらぎの音からは、まったく違う印象を受けますね。この両者はまったく異なる音の成分から構成されており、自然の音(川のせせらぎの音)はより豊かな周波数の成分を含んでいます。人間の可聴領域はおよそ20Hz~20kHzですが、聞き取れない領域の音も体のどこかで感じ取り、心身に影響することが分かっています。

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KooNeを用いた実験で、森林および都市の音(ハイレゾリューション音源)を60秒間ずつ被験者に聴取してもらったところ、森林の音を聞いたときのほうが右前頭前皮質中のオキシヘモグロビン濃度が低下し、鎮静効果があると確認できました。また、自律神経(LF/HF)や心拍数の減少、気分状態の改善も示され、森林由来の聴覚刺激が心身をリラックスさせることが分かりました。

■自然界そのものに近い音空間を表現

KooNeの特徴は、独自の空間音響デザインにより、インターネット経由で高品質のハイレゾリューション音源を提供すること。「川」「波」「森」といったカテゴリーごとに、時間帯や季節に応じて音が展開していきます。四季や朝昼晩といった自然の移ろいを再現することで、人間の生体リズムと同期するイメージです。使用音源は、森林などに1週間ほどこもりながら採録。ハイレゾリューション音源はCD音源と比べて約555倍もきめ細やかで、高周波数成分を含むため、よりリアルに自然の音を再現できるのです。

sinshu1-9.jpg従来の音響デザインでは、1か所から流れる音を直接的に聞くかたちになり、「スピーカーからの距離によって感じ方が違う」「ずっと聞いていると疲れてしまう」といった問題が生じがちでした。そこでKooNeでは、そこにいる人を柔らかく包み込むような「間接音」にこだわりました。スピーカーの本数や配置を工夫し、鳥のさえずりは頭上から、川のせせらぎは足元からといったように、自然界そのものに近い音空間を表現しています。

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■「音×〇〇」で実現するバイオフィリックデザイン

KooNeは、商業施設やホテル、企業、図書館などのほか、医療機関でも採用されています。例えば、大阪国際がんセンターのエントランスでは、がん患者のストレス軽減を主な目的として、神奈川県立こども医療センターのNICU/GCUでは、音を通して一日の時間感覚を表現することを主な目的として導入されています。自然の周波数に包まれることで、「リラックスできる」「会話しやすい」「集中力や想像力が増した」といった効果を感じる方は少なくありません。これは、冒頭のバイオフィリア仮説を裏付けているともいえるでしょう。

近年、欧米を中心に注目されているのが、バイオフィリア仮説を建築・環境デザインに適用する「バイオフィリックデザイン」です。次の4つのベネフィットが期待できると考えられています。

・ストレスが軽減され、元気を取り戻すことができる。
・集中力が高まり、快適かつ効率的に作業できる。
・幸福感が向上する。
・職場の健康・福祉が向上する。

バイオフィリックデザインを取り入れた医療機関では、入院期間の短縮、鎮痛薬使用の減少などの効果が得られたという事例もあるほどです。

KooNeのような聴覚へのアプローチに他の要素を「掛け算」することで、バイオフィリックデザインの可能性はさらに広がっていくはずです。例えば、アロマセラピーを活用した「音×香り」、壁紙などのデザインを工夫した「音×アート」といった具合です。よりよいかたちで五感が刺激されることで人間は心地よさを感じ、ありのままの自分でいられるもの。これからのNICUは、そうした「安心できる場」としてデザインすることが大切ではないでしょうか。

 

Ⅳ. 最新子宮内イメージ×先端医療工学による環境整備=五つ星NICU?それともカプセルホテル?

スピーカー:名古屋市立大学 新生児・小児医学分野 岩田欧介先生

■赤ちゃんは自分の「誕生時間」を知っている?

NICUの理想的な環境は、どのような医療を目指すかによって異なります。今日は、NICUの赤ちゃんが何を求めているか、原点に立ち返って考えていきましょう。まずは「光」の側面から。かつては、生後3か月ごろまでの赤ちゃんは概日リズムが整っていないと考えられていました。これが、多くのNICUが日中でもうす暗い理由の一つです。しかし、母親と帝王切開で生まれた直後の児のコルチゾール値を測定したある実験では、両者に6時間ほどの「時差」があることが分かり、この胎児由来の夜型リズムにどう配慮するのかが、概日リズム早期獲得には大切なのかもしれません。

それでは、赤ちゃんの概日リズムはいつごろから成人型(昼型)に移行してくるのでしょうか。この疑問から調査を始めたところ、生まれた時間を起点として24時間ごとにコルチゾール値がピークに達することが分かりました。つまり、新生児期早期にも概日リズムは存在しているのです。新生児は自分の「誕生時間」を知っていて、毎日「ハッピーバース・タイム」をお祝いしているのかもしれません。このリズムは生後1週ごろまで続きますが、NICU入院児では、いちど胎児型・夜型のリズムが優位となり、その後は次第に成人型のリズムへと近付いていきます。
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赤ちゃんは光の情報を収集する能力が高く、それによって眠る時間も異なってきます。これは家で過ごしている生後1か月の赤ちゃんについての研究からですが、規則的かつ早めの時間に消灯する場合は、夜間の睡眠時間が長くなります。一方で、消灯時間が不規則だと、8時間未満しか眠ってくれません。つまり、赤ちゃんは生まれてたった一か月でもその家の生活習慣を把握して眠るようになります。また、春生まれの子は秋生まれの子に比べて1時間以上よく眠るということから、年単位のおおきな概日周期のうねりがお母さんのメラトニンを経由して赤ちゃんに伝わっていると考えられます。

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こうした知見をベースに名古屋市立大学で行っている臨床研究が「お母さんを守る明暗環境調整プロジェクト」。在院中に昼夜による明暗周期をはっきりとさせ、赤ちゃんの睡眠を安定させていきます。そうすることでお母さんの睡眠時間も長くなり、産後うつの予防につながると考えています。赤ちゃんがしっかりと眠れる状態になってから退院させることは、お母さんを守ることにもつながるのです。

■静かなNICUがベストとは限らない

続いて、「音」について考えていきます。最近では早期抜管を促す流れが強まっていますが、NIPPVの呼吸補助ではかなり大きな音が発生しますね。鼻式であれば60~120dB程度になり、赤ちゃんにとっては騒音でもあるのです。こういったことを理解しながら早期抜管をすすめていかなければならないと考えさせられます。

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そして、以前のNICUは赤ちゃんの周りで医療者がワイワイガヤガヤディスカッションしておりましたが、だんだんと音に配慮するNICUが増えてきており個室化するところも出てきました。赤ちゃんたちの周りの音はどんどん制御されてきております。しかし、静かにすることは本当に赤ちゃんにとって良いのでしょうか?赤ちゃんの聴覚は、私たちの想像以上に敏感です。特にお母さんの声は胎児の間からよく伝わっていて、生まれた直後から他人の声と区別できるという話は有名ですね。近年では、生後に語りかけられた語数が多ければ多いほど、早産児の言語発達指数が上がるということが指摘されています。大部屋で過ごした赤ちゃんのほうが、個室のNICUで過ごした赤ちゃんより良好な言語発達がみられたというデータもあるほどです。赤ちゃんにとって、単純に静かな環境がベストというわけではなく、早期からの言語曝露という視点から「音を加える」ことも大切になってきそうです。

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■赤ちゃんが本当に望むNICUを目指そう

ディベロップメンタルケアを支持するエビデンスは、症例数が限られているなど不完全なものも少なくない現状があります。同じテーマで相反する結論を示している論文もしばしばみられます。私たちが赤ちゃんに提供している「子宮内環境」は、本当に赤ちゃんが望むようなものになっているでしょうか。

医療者が思いやりのあるケアをすることは当然大切ですが、その意図がそのまま通じるとは限らず、患児にとって正反対の意味を持つ可能性さえあります。自分が考える「優しさ」や「思いやり」を盲信するのではなく、ケアの正しさを科学的に説明できるよう、絶えず検証し続ける姿勢が必要なのではないでしょうか。そして、早く生まれた子どもならではのハンディーキャップを埋めるためには、NICU環境におけるマイナスを減らすだけでは不十分です。奪われるものを最小限にするだけでなく、それ以上に「何かを与える」という発想を忘れず、NICUのあり方を四則演算していきましょう。

 

V.クロージング

モデレーター:聖隷浜松病院 新生児科 杉浦 弘先生

これからのNICUの環境を考える上で、今回のセッションはよいきっかけになったのではないでしょうか。皆さんの施設では「加法・減法・乗法・除法」のうち何が求められているのか、ぜひ話し合ってみてください。20XX年のNICUは、緑あふれる植物園のようになるのか、ガラス張りの光あふれる空間になるのか……。その答えを導いていくのは、ほかでもない私たちなのです。

 

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