天井走行型リフトで広がる歩行訓練の新たな未来

患者さんの移動・移乗にはもちろんのこと、より良い歩行訓練のためにも役立つリフト。しかし、具体的な活用方法が共有されず、せっかく導入したにもかかわらず「宝の持ち腐れ」になってしまう現場も少なくないようです。ここでは、天井走行型リフト「ライズアトラス(RiseAtlas)」を導入されている久留米リハビリテーション病院リハビリテーションセンターの今村純平さんを訪ね、リフトがリハビリテーションにもたらすメリットについてお話を伺いました。

 【プロフィール】

今村純平(いまむら・じゅんぺい)

医療法人かぶとやま会 久留米リハビリテーション病院

リハビリテーションセンター 副センター長

認定理学療法士(補装具)、回復期セラピストマネージャー、医療経営・管理学修士(MPH) 

 

リフトは医療・介護従事者にとって「3本目の手」

久留米2.jpg

リハビリテーションセンター 副センター長  今村純平さん

――医療・介護現場にリフトを導入することには、どのような意義があるのでしょうか。

リフトを導入する最も大きな意義は、患者さんの安全管理に役立つことでしょう。専門的なトレーニングを積んできた理学療法士(PT)であっても、ハンドリングだけで介助や訓練を行うことにはどうしても限界がありますし、身体的な負担も大きくなります。無理に持ち上げたり支えたりして、転倒や皮膚剥離といった事故を招いてしまうおそれもあります。特にPTと患者さんとで体格差がある場合は、そのリスクが高くなると考えてよいでしょう。

 また、PTがそうした点にばかり気を取られていると、肝心のリハビリテーションが十分なものではなくなってしまうかもしれません。そのため、必要な場面では躊躇なくリフトを使い、患者さんの様子をしっかりと確認しながら移動・移乗や各種訓練に臨むべきだと思います。患者さんを転倒させない状況を担保し、医療の質を高めるために貢献してくれるリフトは、われわれにとって「3本目の手」とも言うべき重要な存在なのです。

 さらに、スタッフの労働安全という側面でも見逃せない意義があります。PTの職業病ともいえる腰痛は、休業の原因にもなることも珍しくないくらい大きな課題です。リフトを活用できれば、無理に患者さんを抱え上げる必要がなくなり、腰痛が発生する可能性は大幅に低下するはずです。実際に当院では、業務上の移乗や訓練が原因で腰痛が発症するケースはゼロになりました。患者さんの事故やスタッフの労働災害を未然に防ぐことは、経営上のリスク管理という観点からも病院にメリットをもたらしてくれるはずです。

 

――貴院では、ライズアトラスを導入される前までは、リフトは使われていなかったのでしょうか。

当院では、私が入職した2004年時点で浴室のリフトは導入していたものの、それ以外の場でリフトはほとんど使われていませんでした。リフトを使うという文化が定着していたとは言えず、ベッドサイドでの移乗も「よいしょ!」と人力で行っていました。床走行型リフトはありましたが、部屋の片隅でほこりを被っていたというのが正直なところです。

なぜ、リフトが使われなかったかというと、「わざわざ機器を使うよりも抱え上げたほうが早い」という思い込みがあったからだと思います。そもそも理学療法士の養成学校では、リフトに関する授業がほとんど行われていません。ほとんどの理学療法士は、リフトを備えた職場で働くのでなければ、使用することは少ないと思います。結果として、使用方法が分からない。したがって、「リフトを使ったほうがよいのでは?」という発想自体が生まれてこないのです。しかし、患者さんやご家族が自宅で使うケースもあるくらいですから、理学療法士が知らない、使えないというのは、本来おかしなことのはずです。

 当院では、30年ほど前のデンマーク視察を機に院長からリフトを使用することの重要性が発信されていました。浴室にリフトが設置されていたのもそのためです。あらためて、「もっと積極的にリフトを活用しよう!」と大号令がかかったこともあり、2010年ごろから本格的な導入が始まりました。現在では、床走行式リフトや据置型リフトとは別に、浴室に3台、リハビリテーションセンターに2台、居室に1台の天井走行型リフトが設置されています。導入するにあたって機種の相談から研修までサポートしていただいたのが、福祉用具プランナーでありリフトインストラクターの清水隆師さん(日本ケアリフトサービス株式会社)でした。当時はリフトに対する現場の意識が低い状態でしたから、まずはリハビリテーションセンターのPT・OTが、清水さんに使い方を教えていただくことから始めていきました。

 

歩行訓練に求められる「安全な危険」をリフトが実現

久留米3.jpg

 

――病院全体でリフトを活用できるようになるまで、どのような工夫をされましたか。

 病院全体でリフトを活用するためには、一部のスタッフだけが使い方を学んで終わりではなく、その知識や技術を横に広げていく必要があります。そこで、清水さんの教えを受けたPT・OTに今度は院内で「講師」の役割を果たしてもらうこととし、ある程度使い方が理解できた段階でマニュアルや10分程度の教材ビデオを作成してもらいました。これらのツールのおかげで誰が教えても同じ内容が伝えられるようになっただけでなく、ディスカッションを重ねながら要点をまとめることを通して、講師役のPT・OT自身にも大きな学習効果があったように思います。

 また、院内の他職種まで活用の幅を広げていこうとしたとき、キーパーソンになってくれた一人が病棟のマネージャー(看護師長)でした。看護師向けの研修スケジュールを携えて相談しに行ったところ、「私のほうから看護師たちに参加を促すわ」と心強い言葉をもらったことを覚えています。その言葉通り、勤務時間の調整などの苦労をかけながらも、看護・介護職の皆さんが積極的に研修へ参加してくれたことが、病院全体でリフトを活用するための推進力になりました。現在では、セラピスト職はもちろんのこと、看護師や介護職も含めて「全スタッフがリフトを当たり前のように使える」レベルまで到達できたと自負しています。もし、当院でリフトなしで移乗させようとするスタッフがいたとしたら、「危ないからきちんとリフトを使いなさい」と皆から注意されるはずです。

 

――天井走行型リフトがリハビリテーションに与える影響について、もう少し詳しくお聞かせください。

 近年、リハビリテーションの世界では「早期に立ち、歩く」ことが重視される傾向にあります。実際、早期から立位・歩行訓練に入るほど高い効果が得られるという実感があるのですが、それを効果的にサポートしてくれるのが天井走行型リフトなのです。

 歩行訓練をする上で大切なのは、転倒しそうになった時に姿勢を立て直す「おっとっと」という感覚を患者さんが得られること。これがあることにより、バランス能力が養われていくからです。ライズアトラスのようなタイプのリフトの場合、体重移動に合わせてある程度の可動性があるため患者さんの動きを阻害しません。患者さんにとって「倒れるかもしれない」という感覚があるものの、可動範囲の限界があるため実際に転倒するリスクはありません。こうした「安全性が担保された危険」があることで、歩行訓練をより効果的なものにできると感じています。特に、高次脳機能障害などの影響でPTの指示がうまく伝わらない患者さんなどに対して、「転びそうだ!」と気づく機会を提供できるのがよいですね。

 ただし、この効果が得られるのは、患者さんの重心に合わせてリフト本体が左右に動いてくれるライズアトラスのようなタイプのリフトだけです。振れ幅がないリフトでは、中央のラインから患者さんが引っ張られるようなかたちになってしまい、「おっとっと」とは感じられません。

 

まずは全スタッフを「60点のレベル」まで到達させる

久留米4.jpg

――天井走行型リフトを使うことでPTの皆さんのお仕事ぶりにも変化がありましたか。

 これまでは歩行訓練が難しかった患者さんにも、できるだけ積極的に離床を促し、歩行訓練につなげていこうという雰囲気が生まれてきたように思います。例えば、半側空間無視の症状があり、左右どちらかがまったく認識できないような患者さんにも、余裕を持って対応できるようになりました。リフトがなかったら、PTが患者さんの全身を抱えるような状態になるため、歩行訓練は難しいと判断せざるを得ないはずです。

 最近の事例で特に印象に残っているのは、脊髄損傷で不全麻痺のある、体重140㎏ほどの大柄な患者さんです。普通のベッドや車椅子が使用できず、急性期病院では特殊なベッドに寝たきりだったそうです。当院でも、パラマウントベッドさんの協力を得て耐荷重性の高いベッドを導入していましたので、病棟からリハビリテーションセンターまでベッドごと移送しました。この患者さんのケースでも最大荷重が205㎏のライズアトラスは大活躍で、リフトを装着することで安全に立ち上がる練習ができ、入院して初めてのシーツ交換はリハビリ中に行いました。さらに、少しずつ歩行訓練へと発展させていき、現在では杖を使って自立歩行できるまでになりました。このように、リフトはリハビリテーションの展開に多様性や積極性をもたらしてくれるわけです。

 リフトを活用するようになってから、昔、担当させていただいた患者さんのことをたびたび思い出します。座位になれない80歳代の男性で、同じく高齢の奥様と二人暮らしでした。退院の際にご自宅まで同行したとき、奥様から「車椅子に乗せるときはどうしたらいいですか?」と聞かれたのですが、当時の私は「午前中の訪問介護で乗せてもらい、午後の訪問介護でベッドに移乗させてもらいましょう」という提案しかできませんでした。今であれば、入院時から移乗にリフトを活用し、ご自宅でも使えるように家族へ提案しているはず。患者さんのその後の生活も、まったく違ったものになっていたのではないかと思います。苦い思い出です。

 

――最後に、天井走行型リフトの導入を検討している方々へメッセージをお願いします。

 リフトなどのリハビリテーション機器を導入したら、その操作や活用方法に関して、できるだけ早く「スタッフ全員が60点を取れるレベル」まで到達することが大切だと思います。90点のスタッフと30点のスタッフの平均を取っても60点にはなりますが、30点のスタッフが対応する患者さんのことを考えれば許される状態ではありません。当院では、まずは全員のレベルが60点まで達するよう院内教育に励み、それを超える難しいケースについては清水さんのような専門家にサポートしてもらうことで乗り越えてきました。

リフトの活用は単なる介護技術の選択肢の1つではなく、それ自体が目的でもありません。リフトを活用することは患者さんの安全を確保し、職員の労働安全衛生に貢献すると考えています。つまり、リスクマネジメントです。リスクマネジメントの手段としてリフトをどのように使うかを考えていくことが重要であると思います。リフトを適切に活用するという当院の文化(風土)を今後も継続できるように努力したいと思います。

 

 追記:本文に出てくる「リフトの使い方」のビデオ教材と天井走行リフトの使用場面を久留米リハビリテーション病院様のホームページに掲載してますので、よろしければご参照ください。

 リフトの使用手順

 天井走行リフト使用事例

 

↓「ライズアトラス」商品ページはこちら

 atlas-main.png

 

 

関連記事