利用者の離床や立ち上がりを促す移乗用具「リターン」

座位からの立ち上がりの訓練に用いるほか、移乗・移動の手段としても活用できる「リターン」。製造はスウェーデンのHandicare社で、同社と提携したパラマウントベッドが国内での販売を担っています。今回は福岡県福岡市で特別養護老人ホームなどの介護サービスを展開する「アットホーム博多の森」を訪ね、リターンの導入経緯や具体的な活用方法について、施設長の中村孝也さんと理学療法士の北田祥二朗さんにお話を伺いました。

 

【プロフィール】

社会福祉法人敬愛園 アットホーム博多の森

施設長 中村孝也(写真:左)

機能訓練指導員・理学療法士 北田祥二朗(写真:右)

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「歩行器と車椅子の間」を埋める大切な存在

――貴施設で「リターン」を導入された経緯を教えてください。

中村:きっかけは、偶然の出合いでした。パラマウントベッドのショールームへ足を運んだとき、当初の目当てだったリフトをチェックした後、部屋の片隅に置かれていた見慣れない用具が目にとまりました。担当の方に尋ねたところ、立ち上がりの訓練や移乗・移動時に使えるリターンというだと教えてくれました。

その使い方の説明を聞きながら、「これは現場で大いに役立つぞ!」と直感が走ったことを覚えています。私は整形外科で働いた経験もある看護師なのですが、当時は歩けないと判断された方には当然のように車椅子を使用していました。そうした中で、「立ち上がることだけなら自力でできる方なのに……」と釈然としない思いをすることもあったのです。リターンなら歩行器と車椅子の中間のような存在として活用できると考え、さっそくデモ機をお借りすることに。スタッフたちも即座に良さを理解してくれ、2017年6月に最初の1台を、翌年4月に追加で2台を導入しました。

 

――「リターン」の使用対象としているのは、どのような状態の利用者ですか。

 

北田:当施設では3台すべてを特別養護老人ホームで導入しており、利用者の約10%に対してリターンを使っています。中心となるのは「長らく歩行器を使って歩いてきたけれど、筋力やバランス機能が低下してサポートが必要になった」という方々。「リターンベルト」という専用のベルトを使って利用者の殿部をサポートしながら、ベッド・生活椅子間での移乗時、ベッド・トイレ間の移動時に活用することが多いです。現在では、よほど移動距離が長い場合を除けば、基本的に施設内で車椅子を使うことはなくなりました。

私が初めて現場でリターンを使った相手は、90歳代の女性の利用者。次第に歩行器にもたれかかって歩くようになり、左右の足が絡んで転倒リスクが高い状態でした。従来なら直ちに車椅子へ移行していたところですが、ご本人の同意を得てリターンを使ってみることにしました。ハンドルをつかんでの立ち上がり訓練はとてもスムーズで、まったく問題なし。キャスターを滑らせながら移動するときは少し驚いた様子でしたが、すぐに慣れて協力的に動いてもらえるようになりました。

 

「リターン」の活用で利用者の目線を上げる

――初めてリターンを使う利用者には、どのようなサポートが有効でしょうか。

 

北田:「百聞は一見に如かず」の言葉通り、まずは介助者自身が利用者の目の前でリターンに乗ってみせ、どのように動くかを具体的に理解してもらうことが大切です。このプロセスを踏むことで、新しい機器にも恐怖心や抵抗感なく挑戦してもらいやすくなります。また、しっかりと自分の力でハンドルをつかんでもらうため、あらかじめリーチ動作の訓練を行うこともあります。前方に手を伸ばし、骨盤の前傾など下半身の動きも引き出す訓練です。それまで寝たきりだったり、車椅子での生活が長かったりする場合は、こうした訓練が欠かせません。

リターン使用時は利用者と介助者が向き合うかたちとなるため、立ち上がりのときは不安を感じにくく、動きも理解してもらいやすいです。しかし、リターンから降りるときは注意が必要です。例えば、トイレなどに到着して降りるとき、利用者はまったく見えない後方に向かって降り、便座に座らなくてはなりません。そのときに荷重のかかっているリターンベルトをいきなり外すと、全身が落下するような恐怖を感じるはずです。そのため、「一度、膝を伸ばしてみましょう」といった声かけで立位になることを促してから、ゆっくりと安心して座ってもらえるように配慮しています。

 

中村:利用者のご家族に対しても、年に1回開催している家族会で、新しく導入する機器のことを説明するようにしています。リターンについても利用者が実際に使っている場面を動画にまとめ、それを観てもらうことで情報共有しました。

寝たきりや座りっぱなしの状態と、立ち上がって目線を上げながら移動できる状態では、利用者から見える世界がまったく異なります。目線が上がると視界が開け、精神的にプラスの変化が生じるケースも少なくありません。こうした変化は、ご本人はもちろんご家族にとっても大きなもので、施設にいらしたご家族が「まるでうちのおばあちゃんが自分で歩いているみたい!」と驚きの声を漏らしたこともあるほどです。

 

――ほかにも「リターン」がもたらしたメリットはありますか。

 

北田:立ち上がるという行為は、それ自体が身体的にもプラスの影響をもたらします。例えば、骨に適度な負荷がかかることによりカルシウムの排出が抑制でき、骨の強度を保つことにつながります。また、従来はベッドから生活椅子へ移乗するまでの間に「いったん車椅子に乗る」というプロセスが必要でした。しかし、リターンで立ち上がってしまえば、そのままスムーズに生活椅子へ座ることができます。車椅子への移乗時は、利用者の腰がねじれるかたちとなって骨折につながるケースもあるのですが、正面を向いたまま上下動するだけで乗降できるリターンではそうした心配もありません。

 

中村:利用者はもちろん、スタッフの負担もかなり軽減されたと感じています。介護の場面で最も身体的負担が大きいことの一つは、「車椅子移乗の介助の際、思ってもいないタイミングで寄りかかられたり引っ張られたりすること」なのだそうです。リターンであれば利用者を誘導して立位を取ってもらえば、突然、力をかけられるということはありませんので、それを防ぐことができるという点でも、リターンがスタッフにもたらしてくれる恩恵は大きいでしょう。また、施設長という立場からすれば、これだけ多くのメリットがあるにもかかわらず導入しやすい価格帯であることも魅力の一つですね。

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 新しい機器に対する抵抗感を乗り越えるために

――新しい機器を導入し、施設内で普及させるのは簡単ではないと聞きますが、貴施設ではその点をどのようにクリアしましたか。

 

中村:新しい機器を前にすると、「難しそう」「面倒だ」という気持ちを抱いてしまうのが人間です。そうした心理的な障壁を乗り越えるためには、それを上回るほどのメリットがあることを実感してもらう必要があるでしょう。そこで、最初は1つの部署をモデルケースとして、デモ機を現場で使ってもらうことにしました。毎月1回のミーティングも行いながら使い方を学ぶうちに、リターンを使うことのメリットをスタッフが次々と見つけるようになり、スムーズな導入につながったと思います。

 

北田:施設長からの指名を受け、リターンの導入は私が中心となって進めました。スタッフに実演してみせたとき、「すごい!」という驚きの声がたくさん聞こえたことを覚えています。デモ機を使っている段階から看護師や介護職とディスカッションを重ね、「どんな状態の利用者に使えばいいか」「想定できるリスクはどんなものか」を徹底的に検証していったのですが、最初の段階から多職種の関わりを求めたことで、多くの人たちのネガティブな気持ちを払拭できたのだと思います。

――使用開始から約2年が経過した今、現場の反応はどう変化したでしょうか。

 北田:現場でリターンを使っているのは、特別養護老人ホームの介護職50人ほどが中心です。当初はスタッフ同士でリターンに乗ってみて、意見交換をしながら使い方を学んでもらいました。実際に利用者に使う段階になっても、初めのうちは2人介助のときに限定し、1人がサポート役として見守る体制としました。

そうして約2年を経て感じているのは、リターンを好んで使っているスタッフがかなり増えたということ。「この利用者さんには使ったほうがいいと思います!」というような提案も活発になり、本当に一人ひとりが良さを実感しているのだなと思います。

――最後に、「リターン」の導入を検討している施設へメッセージをお願いします。

北田:なかなか離床できなかった利用者が、スライディングボードなどでの訓練を経て、リターンを使って移乗できるようになった例もあります。ハンドル部分が少し傾いていることで頭部の動きが邪魔されず、重心移動しやすいのですね。特に立ち上がりの訓練に適しており、ゆくゆくは歩行にまでつなげられるケースも出てくるかもしれないと期待しています。

 

中村:介護の大きな目的は、本人が持てる力をできるだけ引き出すこと。そうした自立支援の理念に照らしてもリターンは素晴らしい用具だと感じています。また、後方から声かけすることになる車椅子と違って、利用者と介助者が顔を合わせて表情を確認しながら使うことができ、コミュニケーションを図りやすいこともお勧めできるポイントです。

当施設では、パラマウントベッドの「眠りSCAN」も導入しています。現時点では、それぞれの機器を別個に使っていますが、今後は両者の利点を掛け合わせることにも取り組んでみたいと思っています。例えば、ある利用者が目覚めたことを「眠りSCAN」で把握したら、リターンを使ってトイレへ誘導する……といったイメージです。こうした機器の力を借りながら、介護の可能性を広げていきたいですね。

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