「姿勢管理」の重要性と福祉用具を活用した実践方法について

「姿勢管理」の重要性と福祉用具を活用した実践方法について

疾患や障害、加齢によってケアが必要になった人にとって、姿勢管理(対象者の「より良い姿勢」を保つこと)の重要性は非常に大きいもの。しかし、医療や介護の現場でも、そのことの意義や実践方法が十分に普及していない現実があります。理学療法士としての経験をベースに一般社団法人ナチュラルハートフルケアネットワークを立ち上げ、情報発信や研修の提供などに取り組む下元佳子さんに、姿勢管理のポイントを教えていただきました。

【プロフィール】

一般社団法人ナチュラルハートフルケアネットワーク          代表理事 下元 佳子(しももと・よしこ)

 理学療法士/介護支援専門員/福祉用具プランナー

 

■二次障害の予防やスタッフの負担減にも寄与

  私が代表理事を務める一般社団法人ナチュラルハートフルケアネットワークでは、「どんな状態でも(病気や障害の状態を問わず)、どこで暮らしていても(病院や施設、在宅など場所を問わず)、人として当たり前の生活が保障される地域づくり」を目標に掲げています。これを目指す活動の一環として、高知県福祉・介護就労環境改善推進事業を受託してノーリフティングケアの普及に取り組み、「高知家統一基本ケアセミナー」としてレベル別研修を実施するなどしてきました。

 私は理学療法士として現場で長くリハビリテーションに携わってきましたが、対象者の治療効果やQOLを高めるために、姿勢管理は極めて重要なポイントだと感じています。不適切な姿勢で過ごす時間が長ければ、褥瘡などの皮膚トラブルを招きやすいだけでなく、筋緊張が高まることで拘縮が発生し、呼吸や循環へも悪影響を与えかねません。つまり、究極的には「生きていく力」そのものを奪うことさえある、大きな障害を引き起こす可能性があるのです。

 しかし、適切に介入することで正しい姿勢管理を実現できれば、こうした二次障害はほぼ確実に予防できます。姿勢の改善により、食事が摂りやすくなって栄養状況が良くなったり、血圧や便通が安定して減薬につながったりすることさえあります。また、ケアを担うスタッフにとってもメリットが大きいでしょう。例えば、同じように更衣介助やおむつ交換をするにも、拘縮の有無により必要となる時間や手間は大きく異なります。慢性的な人材不足に悩む現場において、一つひとつのケアにかかる負担感が下がることの意義は計り知れません。

 現場のケアを改善するためには、姿勢管理の重要性と基礎的な技術をスタッフ全員に周知することが第一歩となるでしょう。さらに、対象者一人ひとりについて課題と目標を明確にしておくことも大切です。表面的な知識を頭に入れるだけでは、「(対象者の状態がどうであろうと)とにかく腰にクッションを当てておけばいいだろう」というようなことになって、個別性のあるケアにはたどり着けません。

 姿勢管理においてリーダーシップを発揮いただきたいのは看護師とセラピスト(※)ではないでしょうか。看護師は治療効果を最大化するための身体評価を、セラピストは専門性を生かした予後予測を行うことで、その人にとって最適な姿勢管理のあり方を探り、具体的な方法をチームに伝えていくわけです。

 ※ここでは理学療法士、作業療法士、言語聴覚士のリハビリテーション3職種をセラピストと表現しています。

 

■まずは「体重のかかり方」に注目して

それでは、姿勢管理に関して身に付けるべき基礎とはどんなものでしょうか。すべてのシーンに共通する重要なポイントは、「身体を支えるべき箇所に体重が載っている」ということでしょう。例えば、車椅子利用の対象者であれば、大腿部に体重がかかり、下肢の重さが足底面に載っている状態です。それに加えて、「骨盤がきちんと立っている」「首の角度が適切」「両肩の高さが同じ」といった点を確認することが大切です(図1)。まずは基本を知り、異常を察知できる力を養いましょう。

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 私たちが提供している「高知家統一基本ケアセミナー」でも、ファーストステップの段階から90分×2コマを使って「姿勢と動き」を学びます。悪い姿勢で過ごした時間が長く、身体のあちこちで拘縮が起こっているような方を後から改善させることには大変な苦労が伴います。だからこそ、スタッフ全員が姿勢管理の基礎を学ぶことで、対象者が重症化する前に気付き、「自分では対処し切れない」と思ったらすぐに熟練した専門スタッフに報告・相談できるようにすることが大切なのです。

 それでは、もう少し具体的に、食事の場面を想定して考えてみましょう。姿勢が崩れたままでは食事がしづらいことはもちろん、腹圧の上昇などによる様々なトラブルが想定されますから、正しい姿勢をサポートすることが欠かせません。ここでも基本は、大腿部と足底に体重が載っていて、骨盤が立っていること。自力で体幹を支えられない対象者の場合は、胸郭や頭部の重さを背もたれにしっかり預けられるような姿勢をとることが必要です。

 もう一つのポイントは、前腕を椅子・車いすのアームレストやテーブルに載せることです。筋力が落ちた人や麻痺がある人は、腕を下げたままにすると(図2)、頸部や口周りの動きが大幅に低下してしまいます。これを体験するのは簡単で、誰かに両方の上腕部をグッと下に引っ張ってもらいながら食べたり飲んだりしてみればいいのです。私たちの研修でも取り入れている方法ですが、受講生からは「食べにくい」「飲み込めない」と驚きの声が聞こえてきます。

2_text.jpgベッド上で食事する場合も同様で、体重のかかる下半身の状態がポイントです。誤嚥を防ぐという観点から頸部前屈位を保つことは大切ですが、そこだけ注視すればいいというわけではありません。上半身が崩れてしまう原因の多くは、下半身の姿勢にあるからです。食事だからと頸部や頭部ばかりに目を向けるのではなく、手足の位置まで含めてトータルで姿勢をチェックする意識が重要です。

 

■姿勢管理を底上げする福祉用具の導入

姿勢管理を考えるとき、積極的に活用したいのが福祉用具です。福祉用具の素晴らしいところは、正しい使い方が分かっていれば、誰がケアをしても上手にできるということ。例えば、パラマウントベッド社の端座位保持テーブル「Sittan(しったん)」や「リハビリテーブル」を使うことで、腕を適切な位置に保ちながら食事してもらうことができます(図3)。

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また、ポジショニングピロー「バナナフィット」や3Dポジショニングピロー「LEA.Pad(リーパッド)」などを使って、ベッド上の姿勢保持をサポートすることも有効でしょう(図4)。ベッドを背上げしたとき、身体が崩れてしまうと非常に苦しく、食も進みませんから、こうした福祉用具の力も借りながら、座面へ重さが載る状態を保つことが大切です。

 新たな福祉用具を導入する際は、数年先のことまで見越して計画を立てることをお勧めします。まずは各部署で本当に必要な福祉用具とその個数を洗い出し、リストアップします。すべてを一度に購入するのは難しいことも多いでしょうから、リストアップしたものに優先順位を付けていきます。このとき、教育や普及の側面についても考慮しておくのがポイントです。「今月はスライディングシート、来月はスライディングボードを購入して、それぞれ数週間の研修を実施する」というように、経済面にも教育面でも無理がなく、導入効果を最大化できる計画を立てられるといいですね。逆に、こうした計画がない状態では、「年度末に余った予算で何か購入しなければ!」と慌てて選定に走り、結局のところ活用し切れず無駄にしてしまうケースもあるため注意が必要です。

 姿勢管理においては、「ほんの少数の人だけが高度な知識・技術を持っている」状態よりも、「全員が一定の基準に達している」状態のほうがベターだといえます。組織全体として目指すレベルを明確にし、重要なポイントに絞ってできるだけシンプルに教えることが重要ですが、福祉用具選びでもこの視点を忘れてはなりません。わずかなスタッフしか使えない難易度の高い福祉用具に手を出すよりも、誰でも使いやすいものを導入して日常的に活用するほうが、全体としてみればずっと意味があるのではないでしょうか。

 「新しい福祉用具をそろえるにはお金がかかる」という現実的な課題もあるでしょう。しかし、しっかりとコストパフォーマンスを検討すれば、むしろ福祉用具を導入することで費用削減につながる可能性もあります。例えば、タオルや毛布を丸めてクッション代わりにする方法がありますが、ちょうどいい大きさや形にするのが意外と大変で、かなりの時間を要します。また、上手にできる人とそうでない人の差が大きくなりがちという問題もあります。

 そうであるならば、最初から専用のポジショニングクッションを購入し、余計な人件費を発生させないほうが、よほど費用対効果が優れていると思いませんか。常に人材不足が叫ばれる医療・介護現場だからこそ、業務効率の改善という視点は欠かせません。今後、ますます労働人口が減少していく中で、福祉用具の活用は想像以上に重要な課題なのです。

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