プレパレーションを活用し、小児医療の環境を整備したい

プレパレーションを活用し、小児医療の環境を整備したい

不要な放射線被ばくや鎮静剤の使用機会を減らすため、子どもたちに協力してもらう検査体制を作りたい。その思いに突き動かされ、子どもの医療のためのNPO法人を立ち上げた方がいます。慶應義塾大学病院放射線技術室で診療放射線技師として勤務し、NPO法人Medical PLAYの共同代表でもある大脇由樹さんです。どのような思いで小児医療の現場を変えようとしているのか、お話を伺いました。

【プロフィール】

大脇由樹(おおわき・よしき)

博士(放射線学)
慶應義塾大学病院 放射線技術室副主任/NPO法人Medical PLAY代表
東京都立大学 非常勤講師兼客員研究員

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■小児医療の現場を変えたいと思ったきっかけ

——NPO法人「Medical PLAY」を立ち上げた経緯について、お聞かせください。

放射線技師として仕事をする中で、「なぜこの検査が必要なのか」という説明を子ども達の理解度に合わせて説明することは非常に難しいことだと感じていました。これまで医療現場では、親御さんには詳しい説明を行うものの、子ども達に対して細かく説明することが重要視されていなかったと感じています。

子どもにとっては、痛かったり、大きな音がしたりする検査はとても恐ろしいものです。しかも、レントゲンやMRI検査の際、子どもが怖がって動いてしまうと検査自体がやり直しになります。そのうえ、恐怖感情がより長く続くことで「病院は怖いところ」という悪い印象を持ってしまう可能性があります。

また、レントゲンを再撮影することで、本来は不要であった放射線被ばくが増えてしまうことにもつながります。これは、大人に比べて放射線感受性が高い子どもには避けたい事態です。さらに問題なのは「子どもは動いてしまうから」という理由だけで、鎮静剤の使用が小児検査の前提条件となってしまうことです。鎮静剤の使用には、長期的な認知障害のリスクがあるため、本来は可能な限り使用を避けたいのが実情です。私は、どうにかしてこの状況を変えられないかと考えていました。

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そこで、子どもにも理解できるように医療の意義を説明し、子どもが医療に前向きに取り組む気持ちを引き出せたらよいのではと考えたときに、プレパレーションを知りました。

ちょうどその頃、同じ思いの医療従事者と再会しました。大学の同級生で、現在は医療メーカーで医療機器開発に従事していますが、当時は小児病院で放射線技師をしていた小野浩二郎さんです。「なにか子ども達のためにアクションを起こせないか」と二人で話し合い、立ち上げたのが「医療えほんラボ」という団体でした(現在はさらに活動の幅を広げるためにNPO法人Medical PLAYを立ち上げ、医療えほんラボはその一部になっています)。

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NPO法人Medical PLAY共同代表の小野浩二郎さん(左)と。定期的に会って、団体の活動についてざっくばらんに話し合う。

「医療えほんラボ」は、治療や検査、医療のことを子どもに分かりやすく伝えるためのストーリー仕立ての絵本を作り、親御さんから治療や検査に臨むお子さんに読み聞かせしてもらうというアイデアから生まれました。私たち技師が、検査室でどんなにフレンドリーに接しても、子どもは検査をする前にはもう「怖い」という感情でいっぱいになってしまっているんですね。だったら、子どもがいちばん信頼している親御さんから説明してもらうのがよいのではないかと考えたのです。

心の安全基地である親が読み聞かせをすることで、検査への理解がより深まり、「これは必要なことなんだから我慢しよう」と、子どもの頑張りを引き出すことができると考えています。また、絵本であれば、事前に家でも読み聞かせができますので、より落ち着いた環境でプレパレーションを行うことで、子どもの前向きに取り組む気持ちを引き出せるのではないかと思いました。

現在、同じ思いを持つ医療関係者が集まり、言葉1つ1つを吟味し、ストーリーや絵を考え、商業出版に向けて制作しています。

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タイトル:『からだのなかをしゃしんでみると……!?』 

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(出版:株式会社ラフコネクト https://www.laughcnt.com/user_data/about
第一作目として商業出版を控えている絵本の題材は「レントゲン」。子ども達の多くがまず初めに受ける検査の代表であることから、「レントゲンってどんな検査?」をテーマにかわいいイラストを用いて解説を行う。

絵本のほかにも、子どもが大好きなレゴを使って、MRIはどんな検査なのかを伝える説明用の動画も作成しました。「動くと画像がぶれてしまうよ」とか、「こんな音がするよ」とか、視覚的に訴えると子どもの理解は早いです。この動画はYouTubeで無料公開しています。

https://youtu.be/v0Imdjwl24s

パラマウントベッドとNPO法人チア・アートが制作された「ぷれパレット」も利用しています。「ぷれパレット」は、検査や手術、治療で使うアイテムをイラスト化したものがパーツになっていて、組み合わせていろいろな遊びができます。パーツを使って「これは検査のこういうときに使うんだよ」など、子どもと遊びながら教えてあげられます。無事に検査が終わったとき、子どもが達成感を得ることにもつながると思います。

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「検査や手術について、遊びながら学べる点がとてもいいですね」と、大脇さん。
新しいプレパレーションツール「ぷれパレット」開発秘話/パラマナビ
https://media.paramount.co.jp/mo-b-202006-01/

Medical PLAYとは別に、勤務先でも取り組みを展開しています。慶應義塾大学病院には放射線技術室の放射線技師、小児科の看護師が中心となって立ち上げた「小児医療委員会」があります。現在では臨床検査技師をはじめ多職種、他部門のメンバーが参画し、小児医療の現場を良くしていくために話し合い、協力する場となっています。

たとえば「子どもたちはシールが好きだから、検査が終わったあとにごほうびシールをあげよう」という意見が出て、シール帳を制作し、検査後に好きなシールを1枚子どもに選んでもらう取り組みなどを行っています。また、子どもたちに、事前に検査室を見学してもらいます。MRIなどの実際の機械を見学し、「ここに寝て検査するよ」「こんな音がするよ」などと説明をしています。

■エビデンスを構築して理解を広めたい

——プレパレーションが普及するために必要なことはなんでしょうか?

当たり前のようにプレパレーションが行われるようになるためには、医療者にもメリットがあると感じてもらわなければなりません。多くの医療者にとっては、これまでと違う作業が増えるわけですから「余計な仕事が増える」と思う人もいるかもしれません。「そこまでしてやる意味があるの?」と思われてしまったら進まなくなってしまう。この状況を打破するためには、効果を数値で示す必要があると思っています。

たとえばMRIについては、臨床試験を行い、「子どもに説明動画を見せたほうが、画像の画質も上がる」という結果をデータにまとめています。動画を見せて「こんな音がする検査だよ」と事前に伝えた場合と伝えなかった場合で事後にアンケートを取ると、動画を見た子どもは「想像した通りだった」と答え、体動も少なく画質もよい結果となりました。

心理的な状態を数値化するのは難しいのですが、たとえば脈拍数の変化を評価ポイントに入れるなどしてデータを1つ1つ集めていくと「プレパレーションを行ったほうがスムーズに進み(病院にとっても)よい」ということが言えるわけです。実際、再検査などにより適切な検査や治療が行えないといった「機会損失」は決して無視できない割合で生じており、MRI検査では1台の機器あたり年間1600万円弱のコスト損失が生じているとの報告もあります。

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緊張度合い(縦軸)と検査の理解度(横軸)をグラフ化。左図は「体動」に焦点を当て、右図は「説明方法」に焦点を当てている。左図の青丸(すなわち体動が少ない良好な画像が得られた群)では、右図より動画による検査説明を行った割合が高く、なおかつ右図横軸の調和化(=説明の標準化)、そして縦軸の値が抑制(=緊張度の緩和)されていることが確認できる。

そのほかに、私は国内外で小児医療に関する論文投稿や学会発表、また病院内での研修会で講演も行い、プレパレーションの重要性を伝える活動もしています。他科の方々が私の活動を知り、「うちの部門勉強会でぜひ話をしてくれないか」とお声がけいただくこともあります。

また、2022年1月に、私が執筆しイギリスの学術雑誌に掲載された小児検査に関する論文では、これまで20分ぐらいかけて行っていた小児のPET検査が、撮像機器の技術を小児に最適化し適正利用することで4〜5分に短縮できるということを報告しました。5分以内で行える意義は非常に高く、プレパレーションを併用することで鎮静剤の使用頻度を限りなくゼロにすることに成功しました。

こうして客観的なデータを積み重ね、周知していくことによって、いつか世の中全体が「プレパレーションはやらないとまずいでしょ」と認識が変わっていくことを信じて活動しています。

■一歩踏み出すために、仲間を増やそう

——プレパレーションに取り組みたいと思っている皆様へ、メッセージをお願いします。

「自分が所属する医療施設でも取り入れたい」と思った方には、まず仲間を増やしてみてはとお伝えしたいです。どんなによいことでも、最初は「なぜそんなことしなきゃならないの、忙しいのに」という反発があるのは当たり前だと思います。しかし、そこでくじけずにできることを1つ1つ続けていくと、必ず同じ思いを持っている人とつながることができます。

さらに、より大きく展開したいときには、先にプレパレーションを取り入れている病院の人に相談したり、別の分野のスペシャリストに助けを求めたりすることも大事だと思います。

以前、慶應義塾大学病院100周年記念イベントとして、病院にアートを取り入れるプロジェクトが公募されました。ぜひやってみたいと考えたんですが、私自身はまるでアートのセンスがなくて……。いろいろと調べたら、前出のNPO法人チア・アートが、筑波大学付属病院にアートを取り入れる活動をしているということが分かりました。さっそく連絡を取り「力を貸してくれませんか」とお願いしました。

チア・アートと、プロジェクションマッピングに詳しい慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の研究員の方とともに、病院の壁にクリスマスツリーや雪、木から葉っぱが落ちていく様子をプロジェクションマッピングで投影し、ベッドから動けない子どもにも季節を感じてもらえたらと考え企画を作成しました。落ちてくる葉に手を伸ばすと、風にあおられてひらひら飛んでいくというような楽しい内容にすることで、子ども達の好奇心を刺激し、病院内での楽しい時間を少しでも作れたらと考え企画しました。新型コロナウイルス感染症の影響で、実現することはできませんでしたが、またイベントがあった際には積極的に応募したいと考えています。

こういうとき私は、自分たちがやりたいことのために人様から力を貸していただくわけですから、相手の方たちに何をお返しできるかをセットで考え、Win-Winの関係で行えるようにしています。

いま、自分の組織の中で悩みながら取り組んでいる方も、まずは人を巻き込み、仲間を増やしてみてほしいですね。何か私に力になれることがあったら、相談していただいても構いません。あきらめずに一緒にがんばっていきましょう。

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