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在宅療養の高齢患者さんはしばしば睡眠に問題を抱えており、時にご家族を疲弊させることも少なくありません。
患者さんの睡眠の状態をモニタリングし、適切な薬物療法につなげることは、本人のみならずご家族を守ることにもなるのです。在宅医療の現場でパラマウントベッドの「眠りSCAN」を活用することの意義について、たかせクリニック(東京都大田区)理事長の髙瀬義昌先生にお話を伺いました。
互いに関連し合う「睡眠」と「薬剤」の問題
――髙瀬先生が在宅医療に興味を引かれたきっかけを教えてください。
私は信州大学医学部を卒業してから主に麻酔科で働きましたが、身体を壊したことをきっかけとして小児科に転進しました。もともと家庭医学や精神療法のひとつである家族療法というものに興味があり、患児だけでなくその家族を丸ごとケアする小児科の仕事に大きな魅力を感じていたからです。その後、家庭を舞台とした医療へダイレクトに関わりたいという思いから2004年に「たかせクリニック」を開業し、特に認知症ケアに力を入れながら、主に高齢者の在宅療養をサポートしています。人生の終末期である「老年」に対する医療と、成長段階である「小児」に対する医療は、まるで正反対のことのように思われるかもしれませんが、実は近しいところも少なくありません。高齢者も子どもも、他者からのサポートが必要という意味では、家庭内における「弱者」になりやすい存在といえます。家庭が問題を抱えていれば、その影響は真っ先に弱者に及びやすいという傾向もありますから、単に医療的な技術を提供するだけでなく、コミュニケーションを通して本人やご家族の精神的な部分も支えていく必要があるわけです。
――高齢者の診療には「外してはならない5つのポイント」があると伺いましたが、具体的にはどのようなことでしょうか。
まずは「食事」「運動」「排泄」の3点ですね。人間が生きるうえで、生活していくうえで最重要かつ根本的な営みですから、これらを外すことはできません。それに加えて大切なのが「服薬」です。高齢者は多疾病を抱えており、たくさんの薬を服用している状態となっていることがしばしばあります。しかし、加齢によって薬の効き方は変化し、副作用が出やすく、また重症化しやすいことがわかっています。したがって薬を処方するときは高齢者に対する安全性が確認されているものを患者さんの状態を確認しながらごく少量から処方する。減らすときも少しずつ減薬していく必要があります。長期的な患者さんとの関わりのなかで、観察を続けることが欠かせません。 そして、忘れてはならないのが「睡眠の状態」です。これも人間の根源的な営みの一つですが、何時から何時まで熟睡できているのか、できるだけ正確に把握する必要があります。睡眠の問題は薬剤の問題とリンクしていることも多く、薬剤の影響で睡眠のトラブルが起こるケースも少なからず見受けられます。 これら5つのポイントを別個のものとしてとらえるのではなく、総合的に判断材料とすることで、最適な診療の提供に近付けるはずです。
客観的なデータ収集を可能にしたパラマウントベッドの「眠りSCAN」
――高齢者の「睡眠の状態」というポイントについて、詳しく教えていただけますか。
認知症やせん妄といった問題を抱えている方からの相談を受けたとき、私は真っ先に睡眠の状態を確認しています。夜間、特に1~5時くらいの間にしっかりと寝られているかどうかは自宅での療養を継続するために重要なポイントです。その時間帯に覚醒してしまったり、夜間せん妄を起こしてしまったりすると、ご家族だけではサポートしきれず、仕事を継続するのも難しくなるでしょう。睡眠のトラブルは、本人だけの問題ではないのです。 そこで当クリニックでは、睡眠に関するモニタリングシートの作成を行っています。実際に作成していただくのは患者さんのご家族で、「熟睡=青」「興奮=赤」「うたた寝=黄色」といった具合に患者さんの状態を視覚的に記録してもらっています。しかし、記録を付けること自体がご家族の負担になったり、時に不正確な記録になってしまったりすることもあり、必ずしも万能な方法というわけではありません。今後ますます高齢者人口が増加する中で、すべての患者さんのデータを手書きで取集・管理するのは難しくなるのではないかという懸念もあります。そうしたときに出合ったのが「眠りSCAN」だったのです。患者さんの睡眠状態が「見える化」され、しかもリアルタイムで把握でき、継続的なモニタリングまでできるというのは願ってもない機能で、長年睡眠の問題に取り組んできた私としては大いに意を強くしました。
――診療の中で、「眠りSCAN」をどのように活用されているのでしょうか。
現在のところ一部の家庭や施設を対象として「眠りSCAN」を設置していただき、患者さんの睡眠の状態を把握しています。そのデータを生かして薬剤の調整を行っている点が、当クリニックの大きな特徴の一つですね。 そこで、睡眠の状態をモニタリングしながら、必要に応じて薬剤を変更・調整することが重要です。特に高齢者の場合、薬剤に対して過敏性を示すことも多いため、適正な投与量を決めるには極めてデリケートな判断を要します。自信を持って判断するためには、ご家族からの聞き取りだけでなく、客観的なデータが不可欠となるわけです。ゆくゆくはより多くの患者さんに「眠りSCAN」を使っていただけるようになれば、本人やご家族のためになるだろうなあと思っています。
――「眠りSCAN」を活用した介入の様子を学会でも発表されていますね。
レビー小体型認知症の女性患者さん(92歳)の症例ですね。不穏に加えて幻視・幻聴、せん妄もあり、睡眠の状態はかなり不安定でした。「2日間眠り、2日間起きている」という時期もあったほどで、ご家族のためにも早急な改善が求められていました。 そこで、ご家族にモニタリングシートの作成を依頼すると同時に、「眠りSCAN」を設置していただき、睡眠の状態を詳細に把握することに務めました。その結果、ご家族の認識よりも長めに睡眠が取れていたことや、薬剤を服用するタイミングが不適切だったことなどが判明。投与量を0.5錠単位で調整し、服用方法をあらためて指導したところ症状が改善していき、ご家族の心理的な負担もかなり軽減されました。「眠りSCAN」で得られた客観的なデータをタイムリーに活用することで、いち早く薬物療法の最適化につなげることができたと思っています。 このような介入により高齢の患者さんがしっかりと眠れるようになれば、日中の活動量が増えていき、デイサービスなどにも無理なく通うことができます。生活全体に好循環が生まれ、結果的にご家族の負担も軽くなっていくのです。
「眠りSCAN」は在宅医療の大きな助けとなるツール
――地域包括ケアという視点からも、睡眠は重要なポイントになるのでしょうか。
当クリニックでは、10人の医師のほか、看護師、薬剤師、精神保健福祉士などがチームとして訪問診療に携わっています。訪問の対象範囲としている東京都大田区の人口は約72万人、高齢化率は約23%です。蒲田や大森から田園調布までを擁する地域で、患者さんの生活状況も幅広いところが特徴の一つだといえるかもしれません。地域包括ケアシステムの状況としては、大学病院と中小病院がしっかりと連携できていますし、ネットワークとしてまとまって機能しているほうではないでしょうか。しかし、老年精神医療を扱うことができる医療機関は少ない現状があり、在宅領域で何とかしていかなければならないと思っています。
――日本の医療において、睡眠というのはよりいっそう開拓が必要なテーマだという指摘もあります。
残念ながら、これまで睡眠に注目してきた医師はそれほど多くありませんでした。その裏には、これまで睡眠に関しては客観的データが取りづらく、本人やご家族の主観的な訴えが主になっていたという事情があったと思います。しかし、「眠りSCAN」のようなデバイスを用いて客観的なデータを収集できるようになった今、状況は大きく変わりつつあるということを知ってほしいと思います。 睡眠にフォーカスするという側面においても、在宅医療は大きな可能性を秘めた分野だといえます。患者さんの家庭を訪問してお話ししながら生活環境を確認すると、睡眠に関して得られる情報量が圧倒的に多いですからね。先ほどもお話しした通り、高齢者の薬剤の調整は極めて繊細かつ複雑ですから、医師による経過観察が重要になってきます。医師が患者さんのもとを訪れて、実地に確認すればなおよしです。従来の医療では、医師が薬を処方した後の状態をモニタリングするという視点が忘れられがちでした。今後、地域包括ケアを軌道に乗せていくためにも、医師は睡眠と薬剤の関係性というテーマに、より注目するべきではないでしょうか。
――近年では、在宅で看取りまで関わるケースも増えていると聞きます。人生の終末期を診るにあたっても、やはり睡眠というテーマは重要なのでしょうか。
眠れない苦しみを抱えたままの患者さんを見送るのは、一人の医師として忍びない思いです。終末期が近付くとせん妄のリスクが上がることが分かっているので、できるだけ穏やかな状態をキープできるように介入することが大切だと思っています。 在宅の患者さんの心拍数や呼吸数、活動量が分かる「眠りSCAN」を活用すれば、患者さんの生活がリズム良く保たれているかどうかを判断する情報が得られるでしょう。誰にでも分かりやすくデータが視覚的に表現されていますから、医師だけでなく看護師やヘルパーなど様々な職種が「眠りSCAN」のデータを活用するようになるといいですね。
――最後に、睡眠というテーマに興味を持った医療職の皆さんへメッセージをお願いします。
患者さんのバイタルサインやADLは、従来も診療やケアの指標として扱われてきました。睡眠の状態も、客観的なデータが収集可能になった今、それらに匹敵するような重要項目になったといえます。患者さんの全体像をとらえようとしたとき、その根源的な営みである睡眠を見逃すことはできません。本人に対してより良い診療を実現するためにも、ご家族をサポートするためにも、医療従事者の皆さんにはもっと睡眠のことに目を向けてほしいと思っています。
※お客様の使用経験に基づく記載です。