仙骨部褥瘡が半減!院内の体位変換を一変させた「レディスライド」

2021.10.25

  • 床ずれケア
#製品活用事例 #オピニオンリーダーインタビュー
仙骨部褥瘡が半減!院内の体位変換を一変させた「レディスライド」

慣れ親しんだ手法を切り替えることは、それが長年当たり前に行われてきたものであるほど、至難の業です。しかし、前橋赤十字病院(群馬県前橋市)では、さらなる褥瘡予防を徹底するためにスライディングシート「レディスライド」(パラマウントベッド社)を導入し、従来の体位変換法を改める決断をしました。同院の病棟や褥瘡対策室で働く看護師の皆さんに、本製品の導入経緯や活用方法などを伺いました。

【お話を伺った方々】

左から

鈴木利恵 様(前橋赤十字病院 脳神経外科・内科病棟 看護師長)

小池加奈子 様(前橋赤十字病院 脳神経外科・内科病棟 看護師)

木村公子 様(前橋赤十字病院 褥瘡対策室 褥瘡管理担当)

褥瘡リスクを本気で減らすための切り札

――貴院の特徴を教えてください。

鈴木:1913年に開院して以来、100年以上の歴史があり、群馬県前橋市を代表する総合病院として、「みんなにとってやさしい、頼りになる病院」を目指し、市民の健康を支えてきました。高度急性期・救急医療も提供する医療機関として、県内で唯一となる高度救命救急センターを擁し、ドクターヘリの基地病院でもあります。

現在、31の診療科と555床(一般病床527床、第二種感染症病床6床、精神病床22床)を有しています。

前橋赤十字病院

――「レディスライド」を導入したきっかけを教えてください。

木村:体位変換する際の看護師の負担を最小限に抑えつつ、褥瘡リスクを減らしたいと考えたことがきっかけです。当院では長年、体位変換時にバスタオルを使っていました。患者さんの下に敷いているバスタオルの四隅を持ち、身体を移動させるというシンプルな方法です。昔から医療現場でよく目にする方法だと思いますが、これには無視できない2つの課題があります。

1つ目は、看護師の身体的な負担です。褥瘡リスクを考えると、ずれ力が生じないように、しっかりと患者さんの身体全体を持ち上げて移動させる必要があります。体格が立派な患者さんや自力で動けない患者さんはバスタオルに全体重が乗っている場合があり、それを持ち上げる看護師はかなりの負担を強いられることになります。腰への負担を軽くするためにボディメカニクスを用いたとしても、繰り返し行ううちに徐々に疲労が蓄積してしまいます。

2つ目は、褥瘡リスクです。身体の下に敷くものが多いほど、褥瘡リスクは高くなります。敷いているものがずれたり、よれたり、あるいは汗などで湿ったりすることにより、いつの間にか褥瘡を引き起こしてしまいます。そのリスクを下げるためには、常時バスタオルを敷かず、体位変換の実施直前に敷き、直後に外すという方法もあります。しかし、そのまま敷いておくほうが次の体位変換がスムーズではあります。そのため、人手や時間の余裕がない現場では、ついつい業務効率が優先されてしまうこともありました。

そこで、こうした状況から脱却するためには、バスタオルの使用を廃止するしかないと判断しました。褥瘡対策委員会で議論を重ねた結果、スライディングシートを活用しようということになり、パラマウントベッド社の「レディスライド」を導入。それから2年がたった現在、9割以上の病床でバスタオルの使用を廃止できています(疾患上、バスタオルが必要なケースのみ運用を継続中)。

鈴木:私が所属する脳神経外科・内科病棟には、自力で身体を動かすことが難しい全麻痺・片麻痺の患者さんもいます。そのため、40床のうち半数以上の患者さんに2~3時間ごとの体位変換を実施するため、「レディスライド」が大活躍です。そのほか、患者さんがベッドの足元側にずれたときに元の位置に戻すなど、体位を調整する場合にも使用しています。

レディスライドによる位置移動
レディスライドによる位置移動

「仙骨部の褥瘡半減」という驚くべき成果

――「レディスライド」を実際に臨床で使ってみて、日々の業務に変化はありましたか。

小池:腰の負担がまったく違います。特に、体格の立派な患者さんの場合に実感します。従来の方法だと患者さんの身体を持ち上げなければならないので、若くて体力のある看護師ですら「ああ、疲れた」と思わず声が出るくらい負担になっていました。「レディスライド」なら、患者さんの身体の下に敷いた後、そのままサッとスライドさせるだけなので、腰への負担を感じることなくあっという間に終わります。

また、体位変換に要する時間の短縮にもつながりました。患者さんが小柄な女性の場合、男性看護師であれば一人でサッと介助できますが、女性看護師だと力が足りずなかなか一人ではできません。しかし、「レディスライド」を使えば、女性看護師一人でも大丈夫。これは、ささいなことのようでいて、実はかなり大きなメリットです。

患者さんの身体をしっかりと持ち上げるためには、本来は少なくとも2人の人手が必要です。しかし、目まぐるしく稼働している病棟の中で、体位変換に協力してくれる人がすぐには見つからず、ただ時間だけが過ぎていく……ということがしばしばあります。また、「業務を中断させてしまう」という同僚への心苦しさや、「患者さんを待たせている」という申し訳なさは、精神的なストレスにもつながります。人手が少ない夜間帯なら、なおさらです。一人でも安全に体位変換できるケースが少しでも増えると、病棟全体の業務効率が上がり、看護師の負担も軽くなります。

木村:「レディスライド」を使い始めてから1年で、仙骨部の褥瘡件数が半減したという結果も出ています。褥瘡対策室に来てから4年かけてバスタオル廃止という目標を達成することができました。仙骨部は、何と言っても代表的な褥瘡好発部位です。そこにバスタオルを使用すると褥瘡リスクが高くなることは既存の研究結果からも明らかです。とはいえ、ただ廃止するだけだとスタッフの業務負担が増えてしまうので、バスタオルに代わる何かが必要でした。そこに「レディスライド」がピタッとはまってくれたと思います。

仙骨部褥瘡発生件数 年度別の推移
仙骨部褥瘡発生件数 年度別の推移

確かな効果と院内のチーム力で活用が定着

――「レディスライド」を院内で導入する際、工夫した点があれば教えてください。

木村:使い方を30秒ほどの動画にまとめ、全スタッフが気軽に閲覧できるようにしました。これなら従来の手法に慣れ親しんだスタッフに心理的抵抗を感じさせることなく、忙しい合間に見てもらえると思ったのです。

動画には2つのポイントを詰め込みました。1つ目のポイントは「敷く位置」です。患者さんの身体のどの部分に敷くと効果的なのかを明確に示し、スタッフが実践しやすいようにしました。2つ目のポイントは「輪の向き」です。「レディスライド」はロール状のスライディングシートなので、どの向きに輪を敷けば移動させたい方向にスライドできるのかを説明しました。作成した動画は、まずは褥瘡委員会の中でアピールし、そこから各病棟に広めてもらいました。また、使用頻度が高い病棟には、直接出向いてレクチャーしました。現場にいる4人の褥瘡対策担当者と協力し、必要な病棟での説明や指導を行っていきました。

レディスライド使用方法をまとめた30秒動画
レディスライド使用方法をまとめた30秒動画

小池:病棟内では、「レディスライド」の使用目的をしっかりと共有しました。「褥瘡の発生を減らす」という明確な目標を掲げ、「目標を達成するために本製品を使う」と位置付けたのです。使用意義を明確にしたことでスタッフの理解が進み、現場での活用が進みやすくなったように思います。

――「レディスライド」を使ってみて、スタッフの皆様の反応はいかがでしたか。

小池:これまでは常にバスタオルを敷いていたので、「レディスライド」を使用前後に敷く/外すという工程は手間ではないかと懸念するスタッフもいました。しかし、実際に使ってみて利便性を体感すると、もはや従来の方法に戻したいと思う人はいないはず。それくらい、いとも簡単に体位変換ができ、確かな効果を感じています。

木村:看護師だけでなくデモンストレーションを見た医師も「これあると良いね!」と興味を示してくれました。「レディスライド」がスムーズに受け入れられたのは、当院のチーム医療が機能しているからかもしれません。チーム医療のメンバーは同じ部屋に席があるので、日ごろから情報を共有しやすく、1つの成功事例をすぐに他の病棟に横展開できます。

新しい取り組みを周知し、実際に活用してもらうのは一筋縄ではいきません。チーム医療のメンバーや褥瘡担当者の協力、そして「レディスライド」の確かな効果があったからこそ、実現することができたと感謝しています。引き続き存分に活用して、安心・安全な医療を提供していきたいです。

レディスライドの使用方法

スライディングシート「レディスライド」の使用方法については、動画をご覧ください。

レディスライドによる位置移動

レディスライドによる体位変換

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